滝井です。
今回は業務上で関係者が増えた場合に起こりうる、「誰が何を担当しているか分からない問題」をどのように解決すべきかを解説します。
プロジェクト管理をする場合にまず最初におこなっておくべき、「各担当の役割とその担当者がもつ責任と権限を明確にしておきましょう」という話です。
例えば、広告運用の現場でプロジェクトが中型から大型になると、当然関係者が増えてきますよね。発注者と担当者、広告運用者、クリエイティブ担当者、サイト作成者、そしてそれぞれに上司部下がいたりします。
このような状況で、それぞれの役割や責任・権限がはっきりしていないと、不満を抱える人がでてきたり、予期せぬトラブルがおこってしまったりすることがありえます。
弊社では問題が発生するのを防ぐために「役割分担表」という、各担当の役割とそれぞれの責任と権限をプロジェクトごとに明文化しています。
以下は実際にクライアントとの間で決定した役割分担表の例です。
この記事では、なぜ役割分担表が大事になるのか、どんな問題を解決してくれるのかを説明します。広告運用をおこなっていて、関係者が多い状況で悩んでいる方の手助けになれば幸いです。
広告運用も予算が増えてくると、関係者が増え、各担当者の役割が不明瞭になりトラブルに繋がることがあります。
以下のような場合に問題が発生すると考えられますが、役割分担表をどう活用していくかを具体例を挙げて解説します。
一般的に広告運用の仕事は、発注者と広告運用者という1対1の関係で進むことが多いと思います。
しかし発注者自身に判断に対する自信がなかったり、業界への知識が浅かったりする場合に、外部コンサルタントを雇って、アドバイスを求めることがあります。
コンサルタントによる外部からの見方によって、違った視点や新しいアクションのアイデアが生まれることが期待できるので、雇うこと自体に問題はありません。
問題は責任と権限が不明瞭な場合に起きます。
例えば 、Google 広告で自動化を進めている新規アカウントがあったとします。自動化までの最適化期間が想定よりも長くなり、なかなか CPA などの成果が良化しない場合、コンサルタントが「一旦手動でやってみましょう」とアドバイスをするかもしれません。
そのまま自動化を進めていたら3日後には良化していた可能性もあれば、手動に切り替えたことで成果があがる可能性もあります。もしくは手動にしても、以前より CPA が良化しないかもしれません。
このような状況で広告運用者は、コンサルタントのアドバイスを聞くべきなのでしょうか。あるいは発注者は、どういう立場でこのアドバイスを聞くべきなのでしょうか。
この答えは「CPA を良化させる」ということの責任を誰が持っていて、その意思決定する権限を誰が握っているかを明確にしないとだせません。
責任と権限を明確にしていない場合、アドバイスの内容はわかるが、それを実施すべきかどうかの判断が宙に浮いてしまうわけです。
あくまで例ですが、下記のように発注者・コンサルタント・広告運用者の役割を明確にすると、上記のような問題が起こりにくくなります。
ここでは、コンサルタントはあくまでも「改善提案」が役割であり、広告運用の成果に責任は持ちません。
方針決定や広告運用の成果責任は、広告運用者にあるとハッキリ明文化することで、広告運用者はコンサルタントのアドバイスを採用するか、拒否するかの権限を持つことができます。
逆に、コンサルタントが改善施策実行の権限を持ちたいのならば、成果に責任を持たなければなりません。権限だけあって成果に責任がないのは不公平です。
さらに最終責任は発注者が持っていると明記しておけば、コンサルタントと広告運用者の間で意見の相違があり、発注者がコンサルタントの意見を採用したい場合は決定を下すこともできます。
ただし、この場合もその権限を行使したならば、すべてとは言わずとも、その成果責任のかなりの部分を発注者が負わなければなりません。
広告運用で扱う広告予算が大きくなると、営業窓口、広告運用者、運用サポート、クリエイティブ担当など、社内だけでも対応人員が増えてきます。
誰がどの領域に責任を持つのかを明確にしないと、業務内容が重複してしまったり、誰も対応してない領域が発生してしまったりして、問題を引き起こす可能性があります。
例えば、広告運用を受託する会社がチームとして対応をする場合は、以下のような役割分担表を作ると、誰がどの役割に責任を持つのかが明確になり、アクションを取りやすくなります。
誰がどこに責任を持つのかを明確にすると、「これは誰の仕事なのか」といった議論や、「この決定権は誰が持っているのか」といったことを都度議論しなくて済むようになり、仕事がスムーズに進みます。結果として、業務への不満から発生する人間関係の悪化も起こりづらくなります。
広告運用を受託する側でさえ、簡単に分けても上記のような業務分担になるので、クライアント側でも決裁者と窓口担当が分かれるとすると、複雑さは倍位以上になります。
広告運用者は、決裁者と役割分担しながら仕事をすることが多いですが、これも規模が大きくなったり、広告の運用が安定してくると、決裁者は予算と最終責任だけを役割として、細かい業務はマーケティング担当者が決裁者に代わっておこなうことが一般的になります。
クライアント側が広告運用の発注に慣れていない場合、そもそもクライアント側の決裁者とマーケティング担当者の間で役割分担がはっきりせず、広告運用が円滑に進まないことがあります。
この場合も、お金をいただくクライアント様側の仕事に物申すようで恐縮ではあるものの、あくまでも案として、「このような役割分担をされるとスムーズですよ」と下記のような役割分担表を提案すると、「どちらが判断するのか」といったタイムロスがなくなります。
広告運用をおこなっていると、目標 CPA の決定や今月予算の変更権限などが、誰に責任と決定権があるのか不明瞭で、議論が進まなくなることがよくあります。
例えば下記の例では「目標 CPA および目標 CV 数の最終決定」は最終決定者様となっていて、「今月予算の決定」はマーケティング担当者様と明確に決まっています。
このようにしておけば、広告運用者はクライアント様に対して、議論が進まなくなったときは、権限を持っている人へ「最終権限を持っている人が決めてください」とはっきり聞くことができます。
なぜこのような問題が起こるのかを深堀をしておきましょう。問題には、人数という具体的な問題と、責任と権限が絡む抽象度の高い問題の2つがあります。
広告予算が月額数千万円以上などとなると、関係者が多くなるのは当然です。無理に少人数でやろうとすれば配信ミスや合意の勘違いなどで大きな損害を出す可能性もあるのでチーム対応は必然となります。
ただし人数が増えると、当然責任や権限はわかりにくくなり、予期せぬ問題が起こりえます。
例えば、複数人でアカウントを管理する場合、広告クリエイティブの入稿が完了したものの、ランディングページの設定ミスがあるとします。
そのときに誰の責任となるのかが曖昧だと「ミスを指摘されたが、自分の責任ではない」と考えて不満が生まれたり、確認をするためのタイムロスが発生したりします。この結果、チームを組んだにも関わらず、成果を生み出せなくなってしまいます。
責任と権限の不一致は以下の状態のようなときに起こりえます。
例えば、目標 CPA の決定は最終決定者の権限としてあるのに、現場のマーケティング担当者が広告運用者から成果報告を受け、勝手に変更した場合、責任がないにもかかわらず権限を行使したことになります。
この場合、最終決定者は責任を果たせなく、さらにはマーケティング担当者は越権行為をしているので、間違った判断や問題の引き金に繋がる可能性が出てきます。
また、責任はあるのに権限がない場合も同様のことが起こりえます。
例えば、広告運用者に対して広告の成果(CPA の良化や予算内でのコンバージョン数最大化など)の責任をもたせているのにも関わらず、媒体選定や入札調整のやり方などを毎回、決裁者の許可を必要とするケースです。
権限がないということは行動の自由度を下げることに繋がるので、より大きな責任を負わせることはできません。どちらの場合も仕事はうまく回りません。
権限を持ちたいなら責任を負うべきで、責任を持ってもらいたいのであれば、相応の権限を渡さなければならないのが、仕事における原則と言えます。
3つの事例で示したように役割分担表で整理することで問題発生を防ぐことができます。それは役割分担表には大きく2つの特徴があるからです。
役割分担表で責任と権限を明確にし、不一致がないようにすれば、無駄がなくなり、各担当者の不満などの感情的な問題も大部分は避けることができます。
役割分担表は、責任がないのに権限があるような問題の状態を可視化ができます。なにか発生したときに「これは責任と権限が一致してないな」と関係者全員が確認できるようになるため、チェック機能が働くのです。
わざわざ役割表をつくらなくても、プロジェクト管理ツールや工程管理表で役割や責任、権限をはっきりさせることはできないものかと思う方もいるでしょう。
しかし大抵の管理ツールというのは、プロセス管理や工程管理に設計思想があるので、だれが何の役割、責任、権限を負うかということを書く欄がそもそもないことが多くあります。
そのため役割分担表の方が、簡単に作成できるのにも関わらず、十分な効果を生み出させるというわけです。
役割分担表を作るコツは、とにかくラフ案でもいいので勝手に現場に近い人間が作ってしまうことです。作り方のステップを以下で解説しましょう。
まずは関係者を人ごとに列をつくります。人の名前をいれてもいいし、役職名に変換してもよいです。
社内の場合は、名前を入れた方が早いですね。長期に渡るプロジェクトの場合や、クライアントとの関係性の場合は、社名や役職にしたほうが、交代したときなどに書き直す必要がなくなって効率的です。
行は、極論言うと分けなくてもよいのですが、「役割」「責任」ははっきり書いた方が明確になりやすいです。
「権限」は言葉としてとても強制力を持ってるかのようなイメージがあるので、ビジネス上では使いにくいところがあります。なので権限ははっきり書かず、各役割の中に箇条書きで入れておくだけで十分機能します。
下記の役割分担表では、「全体役割」のほかに、「広告での役割」「ランディングページでの役割」を細分化して定義していて、役割=権限という意味合いで書いています。
いきなり役割分担表なんてものを求められてもないのに作り出すと角が立つので、「関係者が多く、役割が不明瞭なところがあるので、役割分担表の案をつくってみていいですか?」と上司やクライアントに相談してみましょう。回答として、「それはダメだ」という人はまずいないので、作成してしまいます。
また、ヒアリングをしながらやってもいいでしょう。上司やクライアントの「責任」を言語化するのは恐れ多いかもしれませんが、ヒアリングをおこなって本人たちに言葉にしてもらえば、やりやすく納得感のいくものが作れるでしょう。
「この責任は誰の役割になりますか?」と聞けばいいのです。そのようにして合意を得ながら作成していきます。
正式に役割分担表にして関係者に共有する段階で、(案)とタイトルにいれて提出してしまいます。
「正式決定ではありません。あくまでも案段階であって、いつでも変更できます」という意味合いがあれば、誰も感情的な反対はしたりしません。
また、(案)を付けたままの運用でも良いでしょう。プロジェクトメンバーが気持ちよく、誤解なく、スムーズに仕事ができれば、正確性にそこまでこだわらなくて良いのです。
役割分担表を出した後は、誰が何をやるべきかが整理されて、ポジティブに仕事ができるようになります。何か問題が起こりそうになったら、役割分担表に基づき、誰になんの権限や役割があるかを確認して、担当者に聞けばいいのです。
責任の大きさに基づく権限の範囲内で、自由度が許されていることを皆理解すれば、混乱も起こらなくなり、創造性も担保されます。
「あの仕事はあいつの仕事なんじゃないか?」といった不健康な疑心暗鬼もなくなり、とても円滑にチーム体制の仕事ができるようになるでしょう。
継続するコツとして、3か月後や半年後に補正して、再提出することを考えてみましょう。クライアント様のトップや社内の決裁者は忙しいので、悪意なく忘れていることも多いですからね。
さっそく作成!と行きたいところですが、これを誰が作るのかと疑問に思う人もいるかもしれません。通常、役割分担を決めるのは、プロジェクトのトップやリーダーとなっています。
しかし発注(クライアント)側のトップや決裁者というのは忙しかったり、最終意思決定や予算確保だけが仕事だと認識していて、役割分担は現場たちが良いようにやるだろうと考えていることが多いのです。
また、社内のチームであっても、経営に近い立場のマネージャーなどは多くの業務を兼任していて、現場の細かいところに目が届かずに役割分担をうまく作れていないことがあります。
なので役割分担表は、現場に近い立場の人が上司やクライアント様に向けて堂々と作ってよいものなのです。
役割分担表は責任と権限を明確にし、可視化することで、トラブルを未然に防ぎ、仕事を効率化させます。そのために必要な提案ができるのは、上の立場の人ではなく、一次情報に触れている現場の担当者なのです。
あくまでも提案と言って提出してみましょう。混乱していた現場がびっくりするほどクリーンになることがわかるはずです。この記事がプロジェクト管理の参考になれば幸いです。
代表取締役会長
2003年、Googleアドワーズが日本でサービスを開始した直後より、検索キーワード広告とランディングページの実践・研究を行い、その成功理論を書籍『1億稼ぐ検索キーワードの見つけ方』で発表、5万部以上のベストセラーとなる。 キーワードマーケティングでは、設立時から延べ千社以上のアカウントを診断およびコンサルティングしており、現在は上場会社や成長率の高いベンチャー企業に対する広告運用代理事業を拡大している。
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