滝井です。
Google が2006年に約2,000億円で買収した YouTube は、年々視聴者数が増加し、影響力を広げています。今や主要な民放テレビ局の1つくらいの力があるのではないでしょうか。
そんな勢いのある YouTube には、YouTube Premium(プレミアム)と YouTube Music Premium(ミュージックプレミアム)という2つの有料会員制度があります。
YouTube Premium に登録すると、動画の再生時に広告がでなくなったり、オフライン環境で動画が視聴ができたりするなどの特典があります。
テレビ CM や YouTube 動画内で大体的なキャンペーンがおこなわれて話題になったので、皆さんも一度は、「YouTube Premium【〇〇篇】楽しみが途切れない」という動画を目にしたことがあるのではないでしょうか?
YouTube の動画広告を取り扱う、広告主やマーケターの中には、有料会員が増え、YouTube 上で広告が発信できなくなったり、露出機会が減少してしまったりするのではないかと心配する人もいるようです。
しかし、有料会員の増加が広告に与える影響はほとんどないと考えられます。
この記事では、YouTube プレミアム有料会員の現状や課金システムを取る他のサービスとの比較から、YouTube 動画広告の未来をデータをもとに解説します。
まず、YouTube の現状を整理しておきましょう。YouTube 自体のユーザー数や YouTube プレミアムの会員数、同じような課金形式をとるサービスとの比較をしていきます。
YouTube と同じような身近で利用したことのあるようなサービスを集めたので是非参考にしてみてください。
YouTube は正式にはユーザー数を発表していませんが、Business of Apps の調査によると、2020年の世界の MAU(Monthly Active Users)は、約23億人と発表されています。
日本では、2020年9月の時点で月間利用者数が6,500万人を越えたとの公式発表がありました。日本の人口が1.25億人なので、国民の約半分が YouTube を利用していることになります。全世界で20億人という数字も頷けます。
世界はもちろん日本でも会員数が増えて、影響力を広げつつある YouTube には、YouTube Premium(プレミアム)と YouTube Music Premium(ミュージックプレミアム)という2つの有料会員サービスがあります
YouTube Premium は、月額1,180円を支払うことで、広告なしで動画や音楽のバックグラウンド再生や、動画の一次保存、オフライン再生といった特典が使えるようになるものです。YouTube Music Premium は、月額980円で音楽のみが広告なしで利用できます。
この YouTube Premium と YouTube Music Premium の会員数が、2021年9月時点で、全世界で5,000万人を超えたとのことです。
2020年2月に2,000万人という発表があったので、わずか1年半で2.5倍の増加となっています。今後もますます増加することでしょう。
YouTube Premium / Musicの登録数が5000万人突破。1年半で2.5倍 – Engadget
YouTubeが、有料サービスYouTube Premium およびYouTube Musicの合計登録者数が5000万人に到達したと発表しました
YouTube はユーザー数が増加し続けていますが、背景に、テレビで YouTube を見る人が増えたことにあります。2021年6月時点でテレビ画面で YouTube を見る人は2,000万人以上となっています。
YouTube の利用率の増加は、主要民放の利用率に匹敵するようになっています。平日、土日それぞれ1時間ごとの平均利用率を表したのが以下のグラフになりますが、テレビ全体の利用率が高くなる時間帯(6時から8時、19時から22時)以外はほぼ1位か2位となっています。
今後ますますこの勢いは加速し、民放を追い抜く日はそう遠くないと思います。
YouTube の有料会員数は、今後増加していったとしてもせいぜい10%前後くらいが Max なのではないかと考えています。これは現在の有料会員数の割合と、他の似たような課金体系のサービスのデータを基に導いた数字です。
極端な話、YouTube のユーザーが全て有料会員になったら、YouTube 動画広告は全く見てもらえないことになります。そうなると現在 YouTube 動画広告で成果をあげている広告主や Web マーケターは心配になりますよね。
ですが、現状公表されているデータをもとに将来の動きを考えていけば、そこまでネガティブになる必要はありません。
現状から整理すると、YouTube のユーザー数は全世界で20億人で、そのうち5,000万人が有料会員です。つまり、YouTube の有料会員は全ユーザーのたったの2.5%しかいません。
YouTube Premium 入会を促す CM が大々的に流れたので、もっとたくさんいるのではないかと誤解していた人も多かったはずです。
実際自分の周りに聞いてみると分かりますが、現時点では有料会員になっている人はそこまで多くはありません。
実は有料会員登録をしている2.5%という数字は、ツールやアプリの課金ユーザー率を参考にしてみると、とても妥当性があることがわかります。
YouTube プレミアムは、フリーミアム(フリー+プレミアム)というビジネスモデルを取っています。フリーミアムは、機能やサービスをまず無料で提供して多くのユーザーに登録してもらい、一定の率で有料課金してもらうビジネスモデルです。
私達が普段使っているサービスの中にも、フリーミアムビジネスモデルをとるものは数多く存在します。以下は身近なサービスの1ヶ月あたりの月間利用者数と有料会員数、比率をまとめたものです。月額費は、年間割引などを適用しない一般的な1ヶ月分の費用を記載しています。
サービス名 | 会員数 | 有料会員数 | 比率 | 月額 |
---|---|---|---|---|
Money Foward ME | 1,200万人 | 30万人 | 2.5% | 500円 |
Dropbox | 5億人 | 1,320万人 | 2.6% | 1,200円 |
NewsPicks | 641万人 | 17.2万 | 2.6% | 1,500円 |
radiko(ラジコ) | 880万人 | 70万人 | 7.9% | 385円 |
チャットワーク | 416.7万人 | 47万人 | 11.3% | 600円/960円 |
このフリーミアムビジネスモデルは、ユーザーのうち5%の課金があれば収益性が成立するといわれています。ストレージツールで有名な Dropbox は、有料課金ユーザーはたったの2.6%しかいませんが、サービスとして成り立っています。
もちろん各サービスは月の料金の差はあるので、課金するハードルはそれぞれ異なるかと思います。
しかし、企業がコミュニケーションツールとして使うチャットワークでは、11.3%という数字になっています。
また、インターネットやスマホアプリでラジオが聴ける「radiko(ラジコ)」は、コロナ禍で有料会員数が増加しましたが7.9%、「経済を、もっとおもしろく。」を掲げるニュースアプリ NewsPicks は、2.6%の有料会員比率になっています。
このような身近なサービスの有料会員数の比率をもとに YouTube の数字を考えてみると、有料会員数がどれだけ増えても、全ユーザー数も増えることが考えられるので、比率としては Max 10%前後に落ち着くのではないかと思います。
YouTube 動画広告を配信するにあたって、10%前後の広告が届かない層がいるのは気になるかもしれませんが、心配は無用です。
前述の通り YouTube プレミアムの特典は、動画や音楽のバックグラウンド再生や動画の一次保存、オフライン再生があり、そこに魅力を感じて有料会員登録をするのも考えられます。
サブスクリプションが解禁されていないアーティストは、YouTube に公式チャンネルがあればそのアーティストの音楽も聞けるので、YouTube プレミアムは魅力的かもしれません。
また最大の魅力と言ってもいいのが、広告なしの動画や音楽を楽しむことができる点でしょう。広告が入ることが嫌で有料会員になっている人も一定数はいるかと思います。
お金を払ってでも広告を見たくないという人に広告を配信しても成果はあがりにくいので、むしろ無駄な視聴や無駄クリックによる広告費が効率化されるのではないでしょうか。
まず大前提として、YouTube は Google のサービスであるため、Google が目指す世界観にあわせてサービスを展開していくことを忘れてはいけません。
Google は多くの情報を持っているため、個人情報保護の観点などからよく政府から規制を受けるなどのニュースがあり、優位な立場を誇示し続けているものと見られがちです。しかし、実際はそんなことはなく、すごく世論を気にして施策や提供サービスを考えているのです。
例えば Yahoo!広告には、サーチターゲティングという「検索キーワードの履歴を元に配信される広告」があります。しかし、Google 広告には、このような機能はありません。
本家本元の Google こそ、このような広告配信が堂々とおこなわれてもよさそうなものですよね。
Google の検索キーワードはもちろん、さまざまなユーザーのデータを収集していますが、これを露骨に広告ターゲティングの元データとしてしまうと、Google 検索に対する拒否感を持つ人が出てくる可能性があります。そうなることを危惧して、自社で集めたデータの使用に慎重になっているものだと思われます。
Yahoo! のサーチターゲティングがあるからといって、検索をやめる人はごく少数と推測できますが、それでも Google は世論を意識して、サービスの展開をしているのです。
Google は YouTube の動画広告を早くから始めていましたが、初期はブランド認知広告に主力を置き、あまりダイレクトなコンバージョン獲得のための広告メニューを用意していませんでした。
動画アクションキャンペーンといったコンバージョン獲得を狙いとした広告メニューはここ数年の動きです。
ダイレクトな顧客獲得の動画広告を流すと、購買訴求が際立ってしまい、ユーザーの拒否感が強まってしまいます。
コンテンツの一部分に表示されるディスプレイ広告とは違い、動画広告はコンテンツの前後や途中に表示され、ユーザーの視聴をストップさせて広告を表示せざるを得ません。
その違和感や拒否感を出さないために、当初はブランド認知向けの広告を配信していたのです。
企業が出すテレビ CM のような認知向けの広告であれば、テレビを視聴しているときの感覚で見ることができるので、違和感や拒否感を感じることはありません。YouTube の動画広告もその位置づけで始まりました。
しかし現在では、ブランド認知向けは引き続き配信されていますが、徐々にコンバージョン獲得を目的とした広告も増えてきています。
ブランド認知向け広告によって、ユーザーが動画広告という物自体に慣れてきたためという理由と、広告主含む、クリエイティブ作成側も動画広告のイロハを理解してきたということが背景としてあるでしょう。今後は、コンバージョン獲得が目的の広告も徐々に増加してくるはずです。
YouTube は、広告の目的だけでなく、自社のブランド価値の向上を狙っているかと思います。
有料会員は、毎日欠かさず YouTube を数時間視聴する人であり、YouTube を愛してやまないヘビーユーザーです。ヘビーユーザーからすると、広告なしの音楽や動画、バックグラウンド再生に対して月額1,180円を課金するのは、特に気にならないはずです。実は、私もそのうちの一人。
課金をしているヘビーユーザーは、サービスが使いやすくなると更に使用してくれるようになります。YouTube への満足度が高くなると、動画へのコメントや SNS での拡散が自然と増え、視聴者数の増加などにも繋がります。
また、YouTube のヘビーユーザーの中には、YouTube へ動画コンテンツを投稿する人も一定数以上いると考えられます。動画を投稿する人は、YouTube でどのような動画が人気となり急上昇に掲載されているのか、どんな展開が視聴者を惹きつけるのかを日々研究しているはずです。
日々動画をみて、日々動画コンテンツを投稿する、いわば YouTube の住人とも言えるような人々を虜にすれば、必然的に YouTube 内の動画コンテンツの質もあがるでしょう。
つまり YouTube プレミアムによってサービスの利便性を高めることは、長い目でみてブランド価値を高めることに繋がるのです。
YouTube は今後、週に2、3回利用するようなライトユーザーには引き続き広告を見てもらい、収益をあげつつ、それを元手にユーザー全員に関わるサービスの質を向上させる投資をおこなっていくでしょう。
YouTube は2005年から始まっているサービスで、最近では一般人の動画コンテンツ作成のハードルが下がったことにより投稿者も増加しています。
またコロナ禍において、おうち時間の増加で、利用者数・視聴時間が増え、YouTube はますます伸びてきました。
テレビ画面で YouTube を見る人の増加や、コンテンツの質の向上で、ブランド価値は民放キー局に匹敵するほどのものになりつつあります。そこに広告をだせる YouTube 広告は本当に魅力的です。
Web マーケティングに関わる人にとっては、YouTube プレミアムの登場で、広告が表示されなくなるのは不安になるかもしれません。ただし、データをもとに事実を把握して考えれば慌てる必要は全くありません。YouTube の有料会員の割合が大幅に増える可能性は極めて低く、これからも広告効果はあがり続けるでしょう。
代表取締役会長
2003年、Googleアドワーズが日本でサービスを開始した直後より、検索キーワード広告とランディングページの実践・研究を行い、その成功理論を書籍『1億稼ぐ検索キーワードの見つけ方』で発表、5万部以上のベストセラーとなる。 キーワードマーケティングでは、設立時から延べ千社以上のアカウントを診断およびコンサルティングしており、現在は上場会社や成長率の高いベンチャー企業に対する広告運用代理事業を拡大している。
あなたの広告アカウントを無料診断します
広告アカウント診断詳細なお見積りをご希望の方はこちら
お問い合わせ支援事例などをまとめたサービス紹介資料はこちら
サービス資料のダウンロードはこちら