昨今ニュースでも目にする機会が増えた No.1広告。消費者庁も2024年2月末から3月中旬の間にも12社に対して措置命令を出しており、No.1広告の適正な運用に対する懸念が高まっていることがうかがえます。
この No.1広告ですが、そもそも消費者のニーズを満たす訴求といえるのか疑問が残ります。「顧客満足度 No.1」という点にばかりフォーカスした広告を見て、消費者は本当に商品を買いたいと思うでしょうか。
この記事では、No.1広告の概要から世間で問題視されている背景、どうしても使いたいときに正しく活用する方法と Web 広告の各媒体での使用可否について、クイズを交えながら解説します。
No.1広告とは、「支持率 No.1」のように最上級の表現を用いて商品やサービスの優位性を訴える広告です。以下のような、最上級表現が用いられる広告が該当します。
・業界最安
・顧客満足度第1位
・女性(男性、子ども、学生など)からの人気 No.1
・お客さまに支持され○冠達成!
なお、上記のような最上級表現を強調した画像や表示のことは「No.1表示」と呼ばれています。両者の違いを簡単にまとめると、以下の通りです。
No.1表示 | 広告やウェブサイト、店舗などで用いる表示物において「No.1」や「トップ」などと強調する表示の手法 |
No.1広告 | 自社が No.1となるデータを利用した No.1表示を用いて、商品やサービスの 優位性を訴える一連のプロモーション施策 |
No.1広告が問題視される要因は、意図的に No.1を作り上げた広告が増えているためです。
前提として、No.1表示そのものは一般的に認められた表現手法です。しかし近年、以下のような手口で No.1を無理やり作り出し、広告として利用するといったことが増加したことで、問題視されるようになりました。
・質問数をむやみに増やす
・商品やサービスが No.1になるまで商品やサービスのラインアップを入れ替えて調査を続ける
・アンケート実施期間中でも、対象の商品やサービスが1位になった瞬間に集計をストップする
・アンケートで1位にしたい企業を選択肢の一番上に置く
・商品やサービスを知らない人も調査の対象にする
【参考】
根拠乏しい「No.1」広告、消費者庁が調査へ 違反相次ぎ|日本経済新聞
あの商品、本当にNo.1? 氾濫する“No.1広告”のカラクリ|NHK クローズアップ現代 全記録
なお、一般社団法人 日本マーケティング・リサーチ協会(以下、日本マーケティング・リサーチ協会)は、こうした調査について「1位を取らせるという結論ありき」でおこなっているものとして、2022年1月に「非公正な『No.1 調査』への抗議状」と題した声明を出しています。
不当な調査に基づく No.1広告は、使用にあたってさまざまなリスクが伴います。罰金や業務停止命令といった罰則はもちろん、企業の信頼やブランドイメージの失墜、それによる業績不振など、その種類はさまざまです。
以下は、No.1広告を使用することによるリスクを「企業やブランドイメージの失墜」と「訴訟への発展」、「罰則および罰金」の3つの観点からまとめたものです。
リスク | 詳細 |
---|---|
企業やブランドの イメージ失墜 | ・違反企業として社名を公表されることによる評判の悪化や炎上 ・疑問を持った消費者からの指摘による炎上 |
訴訟への発展 | ・消費者が製品やサービスについて誤解したり、誤解がもとで 損害を受けたりした場合、訴訟を起こされる可能性がある |
罰則および罰金 | ・消費者庁からの改善命令 ・重大な違反の場合、罰金や業務停止命令が科されることもある |
冒頭でも記載した通り、今年に入ってから消費者庁による No.1広告への取り締まりが強化されています。
消費者庁が No.1広告を問題視する背景にあるのが「景品表示法」こと「不当景品類及び不当表示防止法」です。特に、第2章第1節第5条に記載された「不当な表示の禁止」の条項が根拠として用いられています。
では、この「不当表示」とは一体どのようなものでしょうか。
「不当表示」は、消費者が商品やサービスを選ぶ際に適正な選択を妨げる表示のことです。大きく以下の3種類に分けられます。
1. 優良誤認表示(第5条第1号)
2. 有利誤認表示(第5条第2号)
3. 商品・サービスの取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがあると認められ
内閣総理大臣が指定する表示(第5条第3号)
ここからは不当表示のうち、No.1広告と特に関係がある「優良誤認」と「有利誤認」について、例を示しながら解説します。
優良誤認表示は、商品やサービスの品質が実際よりも優れていると偽って宣伝したり、競争業者が販売する商品やサービスよりも著しく優れているかのように偽って宣伝したりする行為を指します。
事業者が、自己の供給する商品・サービスの取引において、その品質、規格、その他の内容について、一般消費者に対し、
(1)実際のものよりも著しく優良であると示すもの
(2)事実に相違して競争関係にある事業者に係るものよりも著しく優良であると示すものであって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる表示を禁止しています。
優良誤認とは | 消費者庁
以下は、優良誤認表示に該当する表示と該当しない表示を比較したものです。太字で記載された箇所に着目して、2つの表示を比較してみてください。
優良誤認に該当するか | 表示内容 |
---|---|
該当する | 実際には、コピー用紙の原材料に用いられた古紙配合率が50%程度であるにもかかわらず、あたかも「古紙100%」であるかのように 表示する。 |
該当しない | 原材料に用いられた古紙配合率が100%のコピー用紙に「古紙100%」と表示する。 |
有利誤認表示は、商品の購入やサービスの契約について、消費者にとってのメリットが実際よりも多い、あるいは著しく安いかのように偽って宣伝する行為を指します。
事業者が、自己の供給する商品/サービスの取引において、価格その他の取引条件について、一般消費者に対し、
(1)実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認されるもの
(2)競争事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認されるものであって、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められる表示を禁止しています。
有利誤認とは | 消費者庁
以下は、有利誤認表示に該当する表示と該当しない表示を比較したものです。太字で記載された箇所に着目して、2つの表示を比較してみてください。
有利誤認に該当するか | 表示内容 |
---|---|
該当する | 携帯電話回線の基本料金を自社はオプションを抜いた金額、他社はオプションを含んだ金額で比較して「業界最安の携帯料金」と記載した広告を出す。 |
該当しない | 携帯電話回線の基本料金を他社と同じ条件の金額で比較した際に最も安かったため、「業界最安の基本料金」と明記した広告を出す。 |
ここまでの内容を読んで理解できたか、消費者庁が公開している「事例でわかる景品表示法」を参考にしたクイズで確認しましょう。
あなたは予備校を経営しています。他校は毎週定期的に受講している生徒のみの合格実績で合格率を出していますが、自校では補欠合格や夏期講習のみ受講した生徒も合格実績に加えて合格率を出しています。
上記の条件で合格実績を No.1と謳った広告を出すことは問題ないでしょうか?
▼答えは白いテキストで隠していますので、ドラッグしてご覧ください。
【正解】問題あり
他校と違う比較方法で自校を良く見せているため、優良誤認の「事実に相違して競争関係にある事業者に係るものよりも著しく優良であると示すもの」に該当します。
あなたは歯科医院を経営しています。実際には初診料や診察料以外にも矯正用の装置の費用が必要であるにも関わらず、初診料や診断料のみの金額で来院を促そうとしています。また、他の医院に比べて特に値段が安いわけではありません。
上記の条件で「地域最安!歯科矯正が○○円」と謳った広告を出すことは問題ないでしょうか?
▼答えは白いテキストで隠していますので、ドラッグしてご覧ください。
【正解】問題あり
矯正用の装置の費用を抜いた金額で宣伝することで、あたかも他の医院と比べて安い料金に見せているが、特に料金が安いわけでもないため、有利誤認の「競争事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認されるもの」に該当します。
ここまでに解説した内容から、No.1広告が問題視される社会的背景や、不当表示との繋がりを理解できたかと思います。
それでは、No.1広告に対する懸念が拭えないなか、広告運用者はどのように広告と向き合っていけばよいでしょうか。
商品やサービスの良さを伝えたいときに使いたいのが、競合優位性です。これは競合他社と比較した自社の商品やサービスの良さを指すもので、キーワードマーケティングが広告を作成する際に軸としているものでもあります。
代表の滝井が以下の記事で紹介している通り、市場を分析してセグメンテーションし、広告を届けたい顧客にターゲティングします。競合との位置づけを把握したうえで優位なポジションを見つけて広告を考えることで、No.1広告に頼らずに良い広告作りができます。
この記事では「センスに頼らず」としていますが、これは「センス」を「No.1広告」に置き換えても当てはまることです。
センスに頼らず良い広告作りをしよう!セグメント、ターゲット、ポジションを広告クリエイティブに活かす方法|キーマケのブログ|株式会社キーワードマーケティング
市場の顧客に対して、任意の切り口で分類してセグメント(グループ)を作るセグメンテーション。予算を使ってマーケティングをおこなう際に、どこのセグメントに絞るのかを明確に決めるターゲティング。市場での位置取りを意味するポジショニング。3つの重要性と広告クリエイティブ作成に活かす方法を紹介します。
以下の表のように、広告に記載した内容の透明性と正確性を担保するよう、Web 広告の各媒体でも No.1広告について厳格なルールを定めています。
媒体 | No.1広告に関するルール |
---|---|
Google 広告 | 広告主様のビジネス、商品、サービスに関する情報について隠蔽または虚偽記載を行ってユーザーを欺くことは禁止されています。 |
Yahoo! 広告 | 「最大」「最高」「最小」「最速」「No.1」「世界初」などの最大級・絶対的表現のあるクリエイティブは、以下を満たす必要があります。 (1) クリエイティブ内の表示が省略されない箇所に第三者によるデータ 出典・調査機関名および調査年が明記されていること (2) 調査データが最新の1年以内のデータであること |
LINE 広告 | 以下のような表現は、公的機関や第三者機関の客観的な根拠の裏づけがないものは掲載できません。遷移先及びクリエイティブ内にデータの出典元調査機関名および調査年が明記され、正確な引用であることが条件となります。 ・「最高」「最大」「最小」「No.1」「日本一」「世界一」「世界初」 「業界初」「唯一の」「当社だけ」などの表記 (「日本一へ」等の、唯一無二を表していないものは除く) ・「確実に」「絶対に」「完全」「万能」「永久」等の表記 |
Microsoft 広告 | 広告またはランディング ページに、立証されていない主張または非公認の推奨を含めないでください。 |
TikTok 広告 | 時間、地域、ブランドに関連した商品に関する絶対的な条件を広告コンテンツに掲載することは許可されません。許可されない例を以下に示します。 ・TikTok でナンバーワンの曲 ・TikTok ナンバーワンエッセンス |
ユーザーの誤解を招くような広告については、Google や TikTok では、そもそも使えないように定められています。Yahoo! や LINE については条件付きで使用を認めているものの、データの出典元調査機関名および調査年を明記することや調査データを直近1年以内のものに限定することなど、その条件はかなり厳しいといえます。
こうした状況からも、どうやって No.1広告を配信するか考えるよりも、市場や顧客を理解したうえで競合優位性を明確にした良い広告を考える方が建設的です。
No.1広告を出したい場合は、ガイドラインに則った公正な調査をおこないましょう。
日本マーケティング・リサーチ協会では、非公正な調査を防止するため、2022年5月に調査データ開示のガイドラインや調査実施の手引きを公開しました。
調査データ開示のガイドラインでは、クライアントと調査会社の責任や、調査データを広告表示に使用する場合の情報開示に関する権利及び義務の契約書上の明確化、調査会社の誠実対応義務について触れています。その中では、No.1表示の記載例について以下のように明示されています。
(1) 商品等の範囲
No.1表示の根拠となる調査結果に即して、一般消費者が理解することができるようにNo.1表示の対象となる商品等の範囲を明りょうに表示すること。(2) 地理的範囲
No.1表示の根拠となる調査結果に即して、調査対象となった地域を、都道府県、市町村等の行政区画に基づいて明りょうに表示すること。(3) 調査期間・時点
No.1表示は、直近の調査結果に基づいて表示するとともに、No.1表示の根拠となる調査の対象となった期間・時点を明りょうに表示すること。(4) No.1表示の根拠となる調査の出典
ランキング広告表示に使用する調査データ開示ガイドライン|一般社団法人 日本マーケティング・リサーチ協会
No.1表示の根拠となる調査の出典を具体的かつ明りょうに表示すること。
また、同団体が公表している比較広告のための調査実施の手引きでは、公平かつ客観的な調査を実施するための調査設計の考え方や、調査会社としての心構えがまとめられているので、併せてご確認ください。
最後に、Web 広告の媒体での使用可否を覚えられるようにクイズでチェックしてみましょう。
問題を2問用意したので、解きながら復習してみてください。
※この問題で使用しているバナーは、いずれも架空のものです。
LINE 広告で以下のバナーを配信しようと考えています。このバナーは広告の審査が承認されるでしょうか?
▼答えは白いテキストで隠していますので、ドラッグしてご覧ください。
【正解】承認されない
「公的機関や第三者機関の客観的な根拠の裏づけがないものは掲載できません。」と記載のある通り、自社調べのデータは記載ができません。
2024年7月から Yahoo! 広告で以下のバナーを配信しようと考えています。このバナーは広告の審査が承認されるでしょうか?
▼答えは白いテキストで隠していますので、ドラッグしてご覧ください。
【正解】承認されない
「調査データが最新の1年以内のデータであること」と記載されているように、使用できる調査データは1年以内のものに限定されます。
こちらのバナーは調査データが2021年のものであり、この条件に当てはまらないため、承認されません。
「自社のサービスや商品を No.1と打ち出すことで CVR や広告のクリック率が上昇します」という事例や話を聞くと、つい調査を依頼したり自社調べで No.1広告を出したくなったりしてしまうと思います。
しかし、客観的根拠を持たない調査をもとにした広告を意図せず出してしまうと、ビジネスにとてもマイナスな影響を与えてしまいます。
一方で、正しい形で調査をおこない、公平な形で No.1を獲ったことに関しては、もちろん広告などで活用して商品を広めていくことができます。
無理やり作り出した不誠実な No.1広告には頼らず、まずは自社の顧客となる人のニーズや悩みに寄り添った商品の魅力を伝えられる素敵な広告を考えて届けていきましょう。
編集部
モットーは、分かりにくいを分かりやすく。Web広告の知識に長けた編集陣が、リスティング広告やSNS広告などの運用型広告の最新情報、Webマーケティングのノウハウを分かりやすく解説します。
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