MECE(ミーシー)はビジネス界で情報整理や問題解決に役立つ重要な概念として、よく使われます。MECE について理解し、使い方を習得することは、仕事で成果を出すうえで非常に重要です。
今回の記事では、MECE の基本的な概念から使い方までを説明します。MECE を使い、ビジネスにおいて効果的なアプローチを身につけましょう。
MECE(Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive)は情報整理や問題解決において頻繁に使用される概念で、「相互に排他的」と「網羅的」の2つの要素で成立しています。
「相互に排他的」は、情報や要素が重複しないように分類し、整理する原則です。各要素は1つのカテゴリーにしか属さないようにします。「網羅的」は、情報や要素が漏れないよう全体を包括する構造を作るという原則です。情報が不足せず、完全にカバーされるようにします。
MECE では情報に漏れや重複がない状態を目指すことが大事です。
例えば、人を「女性」と「男性」と「子供」の3つのカテゴリーで分類する場合は、漏れはありませんが、子供は性別に関わらず男性または女性のカテゴリーにも当てはまるため重複があります。人を「10代以下」と「20代から30代」と「40代から50代」の3つの年代カテゴリーで分類する場合だと、重複はありませんが、60歳以上の年齢層をカバーしていないため漏れがあります。
各人の通勤手段を「電車」や「自転車」、「徒歩」、「バス」、「タクシー」で分類した場合は、漏れも重複も生じることになります。通勤手段には「自動車」や「バイク」なども存在するため漏れがあり、また多くの人が電車での移動後に徒歩で通勤するといったように、手段を組み合わせて使用することがあるので重複が生じるのです。
MECE とセットでよく使われる言葉にロジカルシンキングがあります。ロジカルシンキングは、整理された情報を論理的に分析し、問題解決や意思決定に役立つ論理的な考え方です。
MECE とロジカルシンキングは、情報整理や問題解決、意思決定において互いに補完しあうスキルです。MECE の情報整理によって問題や情報が整理されることで、整合性のある思考の基盤が作られます。これにより、ロジカルシンキングの実践がスムーズに進められるようになるのです。
ビジネスにおける問題解決の際に、MECE の活用は非常に重要とされています。理由としては、以下の2つが挙げられます。
ビジネスにおける問題を解決するには、問題の全体像を把握し、問題を構成する要素を整理することが必要です。問題全体を俯瞰し各要素の情報を整理することで、それぞれの要素における課題が明らかとなり、課題に対して効果的なアクションプランを策定することができます。
全体を俯瞰してみて課題を明らかにするには、MECE のアプローチが役立ちます。
商品の売上が伸び悩んでいるという問題を抱えている場合であれば、問題を構成する要素を「市場(顧客)」と「競合他社」と「自社」の3つのカテゴリーに分けて情報を整理することで、それぞれに対して具体的な解決策を考えることができます。
このように、問題解決に MECE を取り入れることで、課題に対して全体的な視野を持ちながらも見落としのない取り組みが可能になるわけです。
問題解決にあたって、上司やプロジェクトメンバー、広告運用者であればクライアントなどへの説明は必要不可欠です。問題の全体像や解決に向けた課題について互いに理解を深めておくことで、スムーズにその後のアクションに移ることができます。
問題解決にあたって納得感のある説明をする際にも、MECE は効果的です。MECE を用いてビジネスの問題点や課題を分類することで、課題に対する理解を共有しやすくし、より納得感のある説明ができるようになります。
新製品を市場に投入する戦略を考える場合、よくマーケティングの 4P(製品、価格、流通、プロモーション)の視点から戦略を考えることがありますが、このときに MECE の原則を活かすことができます。
製品の特性や機能、価格設定、販売チャネル(直販、小売、オンライン)を MECE の原則に沿って明確に分けて考え、さらにオンライン広告やオフライン広告、PR 活動といったプロモーション戦略も整理します。
このように、4P の各要素を MECE に基づき分類することで、情報が整理された状態での市場分析はもちろん、それをもとにした納得感ある説明をすることもできるのです。
MECE の原則を実践するためには、適切な形で情報にアプローチし、適切な切り口で思考を進めることが大切です。
ここでは、MECE でよく用いられるトップダウンとボトムアップのアプローチに加え、4つの情報の切り口、MECE を実践する際に有効なフレームワークを紹介します。
MECE を実践するにあたって、情報のアプローチ方法として用いられるのがトップダウンアプローチとボトムアップアプローチです。
トップダウンアプローチは大きな目標や問題からスタートして、それを小さな部分に細かく分解していくアプローチ方法を指します。
例えば、企業が売上向上を目指す場合であれば、全社的な売上目標を設定したのちに部門別、製品別、地域別といった具体的な目標に落とし込んでいく形となります。全体の目標を設定した後、それを達成するための小さなステップを定めることがポイントです。
一方のボトムアップアプローチは小さなデータや個別の事例から始めて、それらを組み合わせて全体の戦略を形成するアプローチ方法を指します。
顧客からのフィードバックや製品の使用状況などの具体的なデータを収集し、それらの情報から顧客のニーズや嗜好を理解して、製品の改善や全体的なビジネス戦略を策定するといった考え方が良い例です。ボトムアップアプローチでは、具体的な詳細から全体像を描き出すことがポイントです。
これら2つのアプローチをバランスよく用いることで、問題を多角的に捉え、効果的な解決策を導くことができます。
MECE を実践する際には、情報の切り口が重要です。情報を漏れや重複なく分類し整理するヒントとなる情報の切り口は、以下の4つに分けられます。
要素分解は、大きなプロジェクトやタスクをより小さく扱いやすい部分に分ける方法です。主に「何を、どのように分けるか」に焦点を当てます。
例として、会社が新製品の発売を計画している際に、新製品の発売までに発生する作業を市場調査や製品設計、製造、マーケティング、販売といった小さなステップに分けることが挙げられます。作業を細かく分解しそれぞれに対応するためのチームを組織することで、全体の進行をスムーズにすることが可能です。
因数分解は、問題や状況を構成する主要な要因を特定し分析する方法です。ここでは「なぜ問題が起きているのか」を理解することに重点を置きます。
例えば、商品の売上が予想よりも低い場合に、原因を製品の品質や価格設定、競合他社の動向、市場環境といった要因に分けて考えます。各要因を別々に評価することで問題の全体像をより明確に把握し、効果的な改善策を立てることができます。
対象概念は、何かを考えるときに反対や対照となる2つの視点を使って考える方法です。
会社で新しい商品を考える場合であれば、「この商品の良い点と悪い点は何か」や「今すぐに実現可能なことと、長期的に考えるべきことは何か」といったように、2つの異なる角度から物事を考えます。
この方法を使うと、1つの視点だけでは見えなかったことが見えてくるため、よりバランスの良い判断ができるようになります。
時系列/ステップ分けは、あるプロジェクトや課題を時間の流れや論理的なステップに分けて考える方法です。これを使うと、複雑なタスクや計画について順を追って分析したり説明したりしやすくなります。
新卒社員に対して研修プログラムの説明をする場合を例に考えてみましょう。プログラムを時系列で分けると、まずはオリエンテーション期間があり、次に会社の基本的なルールや文化を学び、実務トレーニングで具体的なスキルを身につけ、最後にフィードバックを受けるような流れになりますよね。
このようにプログラムを時系列に沿って分割して説明することで、新卒社員が研修の内容を把握しやすくなります。
ここでは、MECE を実践するために使えるフレームワークの例を紹介します。それぞれの特徴と使用するケースを記載しているので、確認してみましょう。
市場/顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)の3つの要素を分析するフレームワークです。ビジネス戦略を考える際に、市場/顧客と競合、自社の3つの主要な要素に焦点を当てます。
3C を使うのは、新規事業を立ち上げるときや市場のポジションを再評価する場合です。MECE の原則に従い、各要素を互いに排他的かつ網羅的に分析することで、戦略の不足点を特定し、改善するための具体的な対策を立てます。
企業が商品やサービスを市場に提供する際に、製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、プロモーション(Promotion)の4つの要素を検討するためのフレームワークです。これらの要素を個別に扱い、マーケティング戦略を総合的に評価します。
4P は、新製品を市場に投入する際や既存製品のマーケティング戦略を見直すときに利用されるフレームワークです。それぞれの要素を「相互に補完しあいつつ、網羅的かつ排他的であるもの」として扱い、マーケティング戦略を策定します。
組織を戦略(Strategy)、構造(Structure)、システム(Systems)、共有価値(Shared Values)、スキル(Skills)、スタッフ(Staff)、スタイル(Style)の7つの要素で分析するフレームワークです。
7S は、組織変革や組織文化の再構築を計画するときに有効です。組織の各要素を MECE の原則に従って分析し、組織全体の調和と効率的な運営を目指します。分析する際は、これらの要素が互いに独立しているかどうか(重複していないか)を確認することが大事です。
企業の内部環境と企業を取り巻く外部環境の要素を強み(Strengths)、弱み(Weaknesses)、機会(Opportunities)、脅威(Threats)に分けて分析するフレームワークです。これらの要素を別々に評価し、企業の総合的な戦略立案に役立てます。
SWOT を使うのが適しているのは、戦略計画の初期段階や環境の変化に伴い戦略を見直すときです。SWOT 分析を通じて、内外の環境要素を網羅的かつ相互排他的に評価し、戦略の方向性を定めます。
業界の競争環境を、5つの力(新規参入者の脅威、代替品の脅威、買い手の交渉力、売り手の交渉力、業界内の競争)で分析するフレームワークです。これらの要素が相互に独立していることを確認し、戦略を策定します。
ファイブフォースは、業界への新規参入を検討する際や競争優位を確立または維持する戦略を立てるときに役立つフレームワークです。業界の構造分析を通じて MECE の原則に基づいた戦略的視点を提供し、意志決定や戦略決定に寄与します。
企業を取り巻く外部環境要素を政治(Political)、経済(Economic)、社会(Social)、技術(Technological)の4つの視点から分析するフレームワークです。主に企業が戦略を策定する際に用いられるもので、これらの要素が互いに干渉しないように整理し、外部環境を評価します。
PEST が使えるのは、長期的な戦略の策定や新市場への進出を検討するときです。PEST 分析は、外部環境の変化を網羅的に捉え、相互排他的な視点から企業の機会と脅威を明確にします。
計画(Plan)、実施(Do)、確認(Check)、行動(Act)のサイクルでプロセス改善をおこなうフレームワークです。PDCA の各段階を明確に区別することで、効率的なプロセス管理に繋がります。
品質管理や業務の改善時に PDCA を使い、製品やサービスが顧客の期待に合うようにします。作業プロセスを網羅的かつ重複なくチェックし、絶えず業務改善を繰り返すことで、品質を継続的に向上させることができるのです。
消費者の購買行動を、注意(Attention)、興味(Interest)、欲求(Desire)、記憶(Memory)、行動(Action)の5つのプロセスで分析するフレームワークです。それぞれのステップが重複しないように整理し、消費者の行動パターンを理解します。
AIDMA は、マーケティングコミュニケーション戦略や広告キャンペーンの設計時に適用されるフレームワークです。消費者の意思決定プロセスを MECE に沿って分析し、効果的なコミュニケーション戦略を構築します。
問題を構成する要素をツリー上に書き出して分解し、解決策を導くフレームワークです。各枝が独立していることを確認し、複雑な問題を明瞭に分析します。
ロジックツリーは戦略的意思決定や問題解決のプロセスにおいて有用です。ロジックツリーを用いることで、問題を MECE に基づいて分解し、その構成要素を体系的に理解することができます。その結果、問題の根本原因を特定し、具体的な解決策を効率的に導き出せるようになるのです。
企業内部の活動を価値創造のための一連の流れと捉え、それぞれの活動の効率性や、他社と比較した際の競争優位を識別するフレームワークです。各活動が互いに重複しないように整理し、全体の効率性と活動の効果を向上させることを目指します。
バリューチェーンは、コスト削減や価値提案の強化を目指す際に役立つフレームワークです。企業の内部プロセスを MECE の観点から評価し、競争上の優位性を生み出す核となる活動に焦点を当てることができます。
製品が市場に導入されてから撤退するまでの各段階(導入、成長、成熟、衰退)を追跡するフレームワークです。各段階を明確に区分し、戦略的な意思決定を支援します。
製品の市場での各成長段階を追跡するため、製品群の管理やマーケティング戦略の調整に役立ちます。このフレームワークを使用して、製品が市場において経験する各段階に合わせた戦略を MECE の原則に基づいて策定し、製品の市場での成功を最大限に引き出すことを目指します。
MECE をおこなううえで注意したいことは、大きく分けて3つあります。それぞれの内容を確認し、意識しながら MECE に取り組んでみましょう。
MECE では原則として、情報の漏れと重複を避けることが重要です。
特に情報の漏れを避けることは、重複を避けることよりも重要です。なぜなら、重要な情報や視点が欠けていると分析が不完全になり、正確でない結論に繋がる可能性があるからです。
情報が重複している場合は整理や再分類を通じて修正できますが、漏れた情報は見逃されがちで、後で見つけることが困難になります。MECE を実践する際には、全ての関連情報を網羅しているかを確認しましょう。
全ての情報を網羅しているかを確認するには、上司や同僚といった自分以外の人にチェックしてもらうことをおすすめします。自分以外の新しい視点を取り入れることで、自分が見逃した情報や考え方の偏りを指摘してくれる可能性があります。
また、自身で複数回確認することもおすすめです。時間を置いて再確認することで、新しい視点で情報を見ることができるかもしれません。
MECE を活用する際は、分析の基本的な目的を忘れないようにしましょう。
MECE は情報を整理し、論理的な思考を促進するためのツールですが、情報を分類することが目的ではありません。主要な目的は、より明確で効果的な意思決定をすることです。分類や分析にあまりにも集中し過ぎると、本来の目的や問題の解決から遠ざかってしまう可能性があります。
MECE を使う際は、分析をする目的を常に念頭に置き、全ての活動がその目的に寄与しているかを確認しましょう。
MECE を使う際は、全ての事象を完全に分類することが難しい場合があるという点にも注意が必要です。特にビジネスの環境では、曖昧さや不確実性を含む事象に遭遇することがよくあります。
例えば、飲食業はレストラン、ファストフード、カフェといった明確なセグメントに分けられ、各セグメントでのビジネス戦略やマーケティング活動がおこなわれていました。この分類の明確さは、MECE 原則を適用しやすいです。
しかし、現代では「ポップアップレストラン」や「フードトラック」など、従来のカテゴリーに当てはまらない新しいビジネスモデルも登場しています。これらは一時的なイベントであったり、移動式の飲食サービスを提供していたりと、定義が曖昧で流動的です。このような新しい形態は、消費者の期待や市場の動向を反映している一方で、従来の飲食業のセグメントにははっきりと収まりません。このため、MECE 原則に基づく分類や分析をおこなう際に、どのカテゴリーに含めるべきか判断が難しくなります。
このように従来の MECE のカテゴリーにきれいに収まらないものがある場合は、無理に MECE の枠内に押し込めるのではなく、「その他」や「特異なケース」として別のグループに分類しましょう。
これにより、分析をおこなう際に重要な要素を見逃すリスクを低減し、より包括的な理解を促進できます。
MECE は、ビジネスにおける意思決定や問題解決において強力なツールです。この原則に基づく思考法を身につけることで、情報を整理し複雑な課題を明確に理解する能力を養えます。
MECE を日常の業務に適用することにより、より効果的かつ効率的なアプローチを取ることが取れるようになれば、ビジネスの成果向上にも直結することでしょう。ぜひ MECE の考え方を日々の業務に取り入れ、ビジネスの成果を向上させることに挑戦してください!
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