運用型広告

2021年上半期のネット広告関連で起きたことを振り返る

滝井です。

はじめに、コロナ禍において医療や流通の現場など、在宅ワークなんてできようもない状況の中、社会に貢献していただいている方々には深く感謝申し上げたいと思います。

2021年も半年が過ぎました。コロナ禍にあって、様々な変化がありましたが、2021年上半期のネット広告関連の振り返りをしたいと思います。

今回の記事では「2021年のネット広告関連で予測される10のこと」で予想したものをもとに、2021年の上半期(1月~6月)にネット広告関連で起きたことを振り返っていきます。

1.ネット広告は加速して成長

ネット広告は予想通り順調に成長しました。コロナ禍による巣ごもり需要で、ネットに向き合う時間が増えたことが大きかったでしょう。Google も Facebook も2020年の第一期は広告による業績が過去最高を記録しています。

参考:Google の親会社 Alphabet 決算、過去最高を更新 YouTube 広告が好調|ITmedia NEWS

参考:Facebook、広告好調で純利益は94%増の95億ドルに|ITmedia NEWS

個人情報保護の規制や、サードパーティクッキーの廃止など、ネット広告の成長には逆風のようなニュースが流れていますが、大手広告プラットフォーマーにとっては、ほとんどマイナス影響はないというのが実情でしょう。巨大な自社媒体を持つ Google や Facebook にとっては、むしろ有利に働いているかもしれません。

国内では Yahoo! や LINE も、広告事業は好調で、前年対比で Yahoo! は3.7%、LINE は26.3%増加しています。こちらは今後の統合の成果が期待されます。

日本国内でも、グローバルにおいても、ネット広告市場は順調に成長し、今後にも期待できるといえます。

2.法規制および媒体規制は、予測よりも進行中

ネット広告は順調に成長しているので、業界の今後の発展についてはまったく心配する必要はありません。しかし法律による規制、および媒体側による自主的な規制は、予想以上に早く進行しています。

行政が主導となる法規制の方は、特にアフィリエイト広告を中心に取り締まりが強化されています。

消費者庁がアフィリエイト広告の規制強化へ、「景表法の適用」など一定の結論を年内に公表 | ネットショップ担当者フォーラム

【ネッ担】消費者庁はアフィリエイトについて、2021年内に「景表法の適用等に関する考え方」「不当表示の未然防止等のための取り組み」について一定の結論を出すという

なぜ行政がアフィリエイト広告を中心に取り締まっているのかというと、明らかに違法が疑われるような広告は、アフィリエイト広告がほとんどだからです。

日本広告審査機構が、消費者から寄せられた苦情をもとに実際に警告を出したネット広告はほとんどがアフィリエイト広告でした。

2020年4月から新審査基準を運用し、新設した「厳重警告」を含む13件(前年同期21件)の「見解」を発信した。

内訳は「厳重警告」5件、「警告」7件(同19件)、「要望」0件(同1件)、「助言」1件(同1件、「提言」から名称を変更)となった。

上半期の「厳重警告」「警告」計12件のうち、アフィリエイトサイトが関わる事例は11件を占めた。

引用元:2020年度上半期の審査状況を発表 | JARO 公益社団法人 日本広告審査機構

アフィリエイト広告は、アフィリエイターによる自由な表現が今まで広く黙認されてきました。しかし今後は、ネットのマス化によって、違法・脱法が疑われる広告が徹底的に排除されていく流れになるでしょう。

また、媒体側では Yahoo! の動きがとても活発な2021年の前半でした。年明け早々に、Yahoo! が 過去に違反広告の出稿があった場合、その広告を修正しても今後一切広告を出せなくなるという措置を取りました。

法律順守の姿勢がネットのマス化によって強く世論より求められている現状では、ある意味これも当然あるべき形といえるでしょう。

広告を出せなくなるどころか、広告アカウントの停止に始まり、過去に違反実績のある広告主はアカウントをつくることもできなくなっています。

ヤフー、5,215件の広告アカウント停止 広告サービス品質向上の取り組みについて記者会見を開催|ネット通販情報満載の無料Webマガジン「ECzine(イーシージン)」

ヤフーは、広告サービス品質向上の取り組みについての記者会見を、6月8日にオンラインにて開催した。また同時に、広告サービス品質向上のための審査実績をまと…

このような法規制や媒体規制は、ネット広告市場の縮小を招きそうですが、実際はそうではありません。クリーンな広告だけがネット広告に出るようになれば、ユーザーからの支持が得られ、ネット広告はもっと繁栄できるでしょう。

3.Apple の規制は強化が進み、アプリの広告面は従来のターゲティングが制限され始めているが大きな影響はなし

Apple の規制は予定どおり進みました。昨年から予告していた通り、iOS 14.5のアップデートで、アプリでは「App や Web サイトを横断してあなたのアクティビティの追跡することを許可しますか?」というポップアップが出るようになりました。

ユーザーが許可がしない場合は、広告ターゲティングのためのデータの取得が制限されるようになります。

「iOS 14.5」のATT機能、ユーザーの約88%が「トラッキングしないように要求」を選択──Flurry調べ – ITmedia NEWS

Appleが「iOS 14.5」から実施しているアプリによるトラッキング許可カード表示義務付けで、世界のユーザーの約88%がトラッキング拒否を選んでいるという調査結果をFlurryが発表した。

これも誤解が多いのですが、あくまでもデータの収集が一部制限されるということであって、広告が出せなくなるわけではありません。しかも対象はアプリに限定されています。

細かいターゲティングができなくなるということなので、例えば「レシピのアプリに対してマヨネーズの新商品の広告を出す」なんてことは従来どおりできるわけです。

もちろん Facebook や YouTube なども iOS 上で動くアプリなので影響はあります。しかし Facebook や YouTube(Google)は、そもそも自社で広告プラットフォームを持っていて、巨大な広告掲載先を抱えているので、サードパーティがなくなってもどうにかできる力をもっているのです。

4.違法でなくてもモラルを守ったクリーンな広告が求められる

ネットがマス化していることから、広告には強いモラルが求められています。モラルというのは下品ではないとか、人をバカにしたような表現をしない、不快感を与えないなどの違法ではないが、広告として多くの人に知らしめるにはふさわしくないものです。

例えば、ヴァレンティノが帯の上を歩く広告は、日本文化を馬鹿にしてると物議を醸して、公式に謝罪をする事態にまでなってしまいました。

参考:ヴァレンティノが物議醸した“帯の上を歩く”広告でお詫び。「日本の文化を冒涜するような意図は全くなく」【全文掲載】 | ハフポスト 

ヴァレンティノの広告は、違法かと問われたら、全く問題ではないでしょう。誤解を招く表現になってしまった点や、不快感を与える可能性を考えなかったといったモラルの問題といえます。

ネットはすでにテレビよりも影響力のあるマスメディアになりつつあるので、モラルへの配慮は今後もかなり重要になっていくでしょう。

ネット上の広告を「テストの場」と軽く考えると思わぬ炎上にも繋がるので、広告主や広告代理店ともに影響力の大きさを理解することが重要です。

5.従来のアドネットワークの衰退と、新しいクッキーレスアドネットワークの登場

サードパーティクッキーの廃止が決定となり、従来の形での Web サイトを横断するアドネットワークではなく、2021年前半は主に以下の2つの新しい動きがありました。

  1. クッキーを必要としないクッキーレスのアドネットワークの台頭
  2. サードパーティデータではなく、ファーストパーティデータを活用する広告展開

1.クッキーを必要としないクッキーレスのアドネットワークの台頭

クッキーを使わずに、コンテンツターゲティングなどで精度を補完するアドネットワークがスタートアップなどでも台頭してきました。

参考:ディノス、Cookie レスでも AI 高精度広告配信のスタートアップに出資 | TECH+ 

現在のクッキーレスの方向性とは、「人を過剰に追跡するのをやめよう」というものなので、人の行動履歴をターゲティングするのではなくWeb サイトのコンテンツ内容をターゲティングしようという流れになっているわけです。

Yahoo!広告における YDA にコンテンツキーワードターゲティングがリリースされますが、これもクッキーレスの時代にあって、広告媒体におけるコンテンツをターゲティングしていく流れといえそうです。

ディスプレイ広告(運用型) コンテンツキーワードターゲティングの提供について – Yahoo!広告

English translation 対象サービス Yahoo!広告 ディスプレイ広告(運用型) 実施日(予定) 2021年7月29日(木)※日程は変更になる場合があります。 概要 ディスプレイ広告…

変化は常にチャンスというのはまさにこういうことで、新規事業としても、新しい広告運用の形としてもチャンスはあるマーケットといえるでしょう。

2.サードパーティデータではなく、ファーストパーティデータを活用する広告展開

一方で同じクッキー情報でも、サードパーティではなくファーストパーティデータを活用する流れもあります。これは自社の顧客情報や自社のサイト内情報を有効活用して、広告展開していこうという動きですね。

自社のデータを活用するには、そもそもデータがネットのクラウド上に存在しなければうまくできません。

日本の古い体質の大企業は自社サーバーで自社データを管理することが今でも普通におこなわれていますが、コロナ禍となって在宅ワークの必要性から、クラウドへのデータ移行は進むようになってきました。

結果として、自社内で閉じていた自社データ活用が、広告事業などに外に開かれるようになっているわけです。この変化の動きも、新規事業などのチャンスに大いになり得ることでしょう。

6.「脱・データ至上主義」は移行していない

個人情報保護法に端を発し、プライバシーに配慮をした「ユーザーの行動データが取りにくくなる」方向性は、今後も更に強まってくるでしょう。

Apple はこのプライバシー保護の観点から、現状のデータ収集のための追跡を批判するユーモラスな動画も作り、話題になりました。

ネット広告は、広告プラットフォームなどのツールが自動的に無料でデータを収集してくれて、費用対効果を短時間で分析が可能となるところから、躍進してきました。テレビ CM や電車広告などの効果分析が難しいことからすれば、いわば革命だったわけです。

しかし、現在は特にアプリや Web サイトを横断するデータの追跡ができなくなるのは当面間違いない方向性であり、広告のターゲティングだけではなく、アクセス解析や分析も今までできていたことができなくなるのは間違いありません。

ただ現時点では、なんとか正確なデータを一元的に収集する方法はないかと考える広告主やマーケターも多いように思われます。

ですが、ここは方向性を受け入れ、管理画面や Google アナリティクス、あるいはアドエビスなどの広告効果計測ツールなど様々なデータを見つつ、定性的に判断していく方が、仮説検証のサイクルをスピード感を持っておこなえます。

正確無比な定量データだけで判断するならマーケティングのプロフェッショナルは必要なく、むしろプログラマーや AI が機械的に判断を下す仕事だからですね。

7.認知もコンバージョンも穫れる YouTube 動画広告は、前年対比46%の伸び

YouTube 動画広告については、動画の媒体価値の上昇ももちろんですが、サードパーティクッキーを必要としない Google の自社媒体ということで、力を入れてくることは予想していました。

Googleの親会社Alphabet決算、過去最高を更新 YouTube広告が好調 – ITmedia NEWS

Googleを傘下に持つAlphabetの1~3月期の決算は、売上高は前年同期比34%増、純利益は162%増で過去最高を更新した。YouTube広告が49%増と好調だった。

Google の決算は2021年第一期も好調で、中でも際立っていたのが YouTube 広告の前年対比46%という大きな伸びです。

実際に広告運用をしていても、コンバージョンを獲得できる主軸となり得る広告メニューになってきていて、認知目的のテレビ CM よりも費用対効果の高く、期待ができます。

YouTube のユーザーは全世界で20億、日本でも6,500万人と言われています。完全にマスメディアになっていると言っても過言ではありません。

民放テレビの影響は日本においてはいまだにとても強力ではありますが、YouTube はすでに主要民法チャンネルの一角と同等以上のメディア価値があり、今後はこの流れはもっと強くなることでしょう。

8. 広告の自動化により、ランディングページへの関心が深まっている

ネット広告の自動化により、ランディングページの重要性はますます高まっています。

特にコンバージョン最適化を目的とし広告配信をおこなっているのに、コンバージョンが発生しなかった場合、広告の自動化によって、広告の露出機会自体が減ってしまいます。

「どんなランディングページでも、広告の自動化でなんとかしてくれる」と考えるのではなく、「ユーザーにとって、よりよいランディングページであれば、広告の自動化でもっとたくさんの顧客を連れてきてくれる」と考えるべきでしょう。

サイバーエージェントが AI による広告予測からサイト制作をするプロジェクトがニュースになっていましたが、このような動きは今後はもっと活発になっていくでしょう。

自社のランディングページを解析・分析するのにサードパーティクッキーは不要なので、データが取れない問題もありません。マーケットとしては拡大していきそうです。

9.Google マイビジネスへの関心が強まっている

Google マイビジネスの広告への影響は強まっていると思われますが、それよりも2021年前半の動きとしては、Google マイビジネス自体への関心が高まったといえるでしょう。

Google マイビジネスは、Google マップを見る時に、お店の情報などが閲覧できるサービスですが、Google マップ自体の利用が莫大に増えていることが背景にあります。利用者数としては5,000万近くにもなっています。

画像引用元:ニールセン、デジタルコンテンツ視聴率のMonthly Totalレポートによる地図・旅行情報カテゴリーのメディア利用状況を発表|nielsen

例えばレストランの評価を見るのに、食べログを見ていたのが最近では Google マイビジネスの評価を見る人も多くなったのではないでしょうか。

ユーザーから星で評価がつけられ、検索結果にも大きく取り上げられることの影響が、多くの企業や事業主も理解し始めているといえるでしょう。Google マイビジネスを管理するツールも増え、SaaS の市場としても注目されています。

10.EC やソロ屋外需要で、消費は回復してきた

コロナ禍は外食産業やイベント業に深刻な不況をもたらしました。一方で、どのような外的要因の変化にもチャンスはあり、消費のスライドは起こります。

2021年前半も、EC や一人で活動する屋外需要(ソロキャンプや自転車)は大きく躍進しました。自転車販売のサイクルベースあさひの決算や、キャンプ用品のスノーピークの決算などはとても好調な様子が伺える発表でした。

今後も EC をはじめとして、コロナ禍の特需は続くと思われますが、世界的にはすでにワクチン接種が進み、コロナ明けが見え始めているので、消費のスライドのボーナス時期は2021年で終了する可能性もあるかもしれませんね。引き続き動向を注視していきたいと思います。

日々アンテナを張り続ければ未来は見える

以上、2021年予測の上半期振り返りでした。

ちなみに、このような予測は何を情報源にして考えているのか?という質問があったのでお答えすると、もちろん情報ソースは様々です。

ネット上であれば Twitter はもちろん主要な情報源ですが、ネット広告だからといってその分野ばかり追うのではなく、例えば SEO や SNS 、ページ制作、SaaS といった分野を主軸に仕事をしている人たちがどのようにネット広告を見ているか、という視点はとても勉強になります。

オフラインでは Google や Yahoo! といった媒体・広告プラットフォーム側の方々とお会いした上でお聞きする情報は、とても重要となりますね。

私はあまりテレビは見ない人間ですが、サウナに行ったときに強制的に民放テレビを見る機会が頻繁にあり、その時にどのような CM が流れているかを見たり、Web マーケティングがどのようにテレビ番組のネタとして扱われているかはとても参考になる情報です。

これら具体的な情報を抽象化していくイメージですが、この過程で大事なのは時間軸の長さなんですね。

ネット上であれ、媒体各社の方々の意見であれ、テレビでの取り上げ方であれ、ちょっとづつ変化をしているので、5年とかの長いスパンで見ていくと、現在から1年後2年後は、ある程度の確定未来を見つけることは難しくないわけです。予測のご参考にしてみてください。

いずれにせよ、未来は常に明るいものです。2021年後半も常にポジティブに仕事をしていきましょう!

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「わかりにくいこと」を「わかりやすく」をモットーに、すべての記事を実際に広告運用に関わるメンバー自身が執筆しています。ぜひ無料のメールマガジンに登録して更新情報を見逃さないようにしてください!

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記事を書いた人

滝井 秀典
滝井 秀典

代表取締役会長

2003年、Googleアドワーズが日本でサービスを開始した直後より、検索キーワード広告とランディングページの実践・研究を行い、その成功理論を書籍『1億稼ぐ検索キーワードの見つけ方』で発表、5万部以上のベストセラーとなる。 キーワードマーケティングでは、設立時から延べ千社以上のアカウントを診断およびコンサルティングしており、現在は上場会社や成長率の高いベンチャー企業に対する広告運用代理事業を拡大している。

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