滝井です。
個人情報保護の観点から、サードパーティクッキーの使用制限や Apple の ITP(Intelligent Tracking Prevention)によって、ネット広告の規制が話題になっていますね。
ずいぶん前から静かに動き始めていたものが、2020年、2021年に特に大きく取り上げられるようになりました。
ネット広告を使っている人からすると不安になる面も多いかと思いますが、過度な心配は不要です。変化は常にチャンスであり、すでに新しいチャンスがたくさん生まれています。変化の流れを理解して上手く活用すれば問題ありません。
ただし、この動きは非常に複雑でわかりにくいのが実情です。今何が起きているのか、今後起こりうることは何か、Google 広告の過去のデータから読み解き説明いたします。
2020年はネット広告の規制が世界規模で大きな話題となりました。この根本原因はネット広告がリアル世界の広告(4マス媒体)とほぼ並んだ分岐点だったためです。いわば「ネットのマス化」です。
「2020年インターネット広告媒体費」解説。4マス媒体とほぼ並んだ「2.2兆円超」の内訳は? | ウェブ電通報電通報
コロナ禍の影響で軒並みマイナス成長となった2020年の日本の広告費で、唯一プラス成長となったのがインターネット広告費。本記事では、日本の広告費の約3分の1を占めるまでになったインターネット広告費2兆2290億円の中から、その大半を占めるインターネット広告媒体費1兆7567億円の内訳を主に分析します。
今最もよく見られている媒体はテレビ CM でも電車広告でもなく、インターネットなのです。一国の国家予算よりも大きな規模の売上をあげる Google や Facebook は、その収益源の7割以上を広告であげています。
問題視されるのは、それらプラットホームで配信される広告が、個人情報をもとにターゲティング精度をあげていると考えられているところです。
個人が特定できないような仕組みが施され、各企業は慎重に個人情報を取り扱っているのです。しかし「一企業にその信頼を任せてよいのか」という疑問が生まれるほど大きな影響力を持ってしまったのが現状です。
ことの発端は EU の規制強化(EU 一般データ保護規制)です。なぜ個人情報保護の観点から広告の規制が叫ばれるようになったかというと、個人の情報を国という単位ではなく、企業単位で握っているからだと考えられます。自分の国の国民の情報は、国家が持つべきであって、企業がその影響力を持ちすぎるのは困るという発想なんですね。
個人情報保護の厳格化が企業に求められ、その流れでサードパーティクッキーも個人情報であると問題視され始めました。
これにうまく活用し始めたのが Apple 社の ITP という独自のクッキー規制です。ITP (Intelligent Tracking Prevention)とは、Apple 社が開発した Web ブラウザ safari におけるサイトトラッキング防止機能です。
Apple が ITP を強化するのは、個人情報保護を重視しているというよりは、むしろ文化の問題なのです。2つの企業についてはこちらの記事で説明しています。
しかしターゲティング精度の向上で、質のよい広告ができるメリットよりも、個人情報が保護されるほうが良いと考えるのが一般的な考えなので、世論に後押しされたかのように ITP が強化されていきました。
Google の検索広告では、実際に広告をクリックした人がどんな具体的な検索キーワードを入力したのかが分かる機能、「検索語句(旧名称:検索クエリ)」があります。しかし2020年から個人情報保護の一環として、見ることができなくなりつつあります。これも情報規制の流れの1つといえますね。
個人情報保護の規制強化から、将来的にサードパーティクッキーは使えなくなると考えられます。
今までサードパーティクッキーに依存したネット広告モデルは終わり、脱クッキーから新たな潮流が生まれるでしょう。
脱クッキーの流れは大きく2つあります。1つ目はクッキーに代わる技術の開発、2つ目は自社所有の媒体の広告を強化していく流れです。
自社所有媒体とは Google でいえば、Google 検索や YouTube、Gmail などが挙げられます。その媒体で集めた情報をもとに広告が出せる「自社所有媒体の広告」は、サードパーティクッキーを必要としません。
クッキーに変わる技術は、Google はすでに開発を進めていますが、これは Google の独占が進んでしまうという懸念から先行きは不透明です。
参考:GoogleがCookieに代わる広告ターゲティング手段FLoCをChromeでテスト開始|Techrunch
つまり技術的には可能なのに、政治的な思惑で Google の媒体上でしか実現しない可能性もあるということです。Google は他社にもこの技術を提供しようとしているのにもったいないですよね。
一方で後者の自社所有媒体の広告を強化する流れの方は確定的といえます。広告運用者やマーケターにとって前者は技術的な話で自らどうにかできる問題ではないので、後者の広告の活用について理解し、活用していきましょう。
Google 広告でサードパーティクッキーを使った広告とは、ディスプレイ広告におけるオーディエンスターゲットが例として挙げられます。
Google が媒体として所有しているサイト(YouTube など)だけではなく、第三者サイト(サードパーティサイト)まで広告が配信されます。
以下の画像は私のブログのサードパーティクッキーを使っているであろうと推測される Google 広告です。
右上にある「i」のアイコンをクリックすると、Google が何をもとにこの広告を掲載しているのかという情報を見ることができます。
「閲覧していたウェブサイトの情報」「閲覧したウェブサイト」がサードパーティクッキーを利用したターゲティングだと思われます。(※1)
一方で、ファーストパーティクッキー(※2)を使った広告とは、Google 広告でいえば Google が所有している自社媒体に Google 広告のプラットフォームを使って掲出される広告です。
Google は自社媒体として、Google 検索、YouTube、Gmail などを所有しています。これは第三者ではなく、Google が所有している媒体なので、サードパーティクッキーを使用せずに広告の精度を高めることが可能なわけです。
Google 検索においては RLSA(Remarketing Lists for Search Ads:検索広告向けリマーケティング) などは、現在サードパーティクッキーを使っていると推測されます。
※1.Google が何をシグナルとしてターゲティングしているかは明示されていないので、あくまでも推測の範囲
※2.正確には Google からみたファーストパーティクッキーという意味
冒頭でも述べましたが、サードパーティクッキーを使った広告配信に対して規制がかかることは、実は数年前から動きがあることなのです。
これに対して Google はもちろん数年前から対策をしていて、サードパーティクッキーを使わなくてもよい広告メニューの開発に力をいれてきています。
下図は、2013年から2020年までの Google における広告売上の内訳です。検索広告は75%前後でほとんど変わりがありません。
一方で、サードパーティクッキーが主役のディスプレイ広告は徐々に全体の売上に対して割合を下げ続けていることがわかります。
上記のようなサードパーティを使用した広告の割合を下げる一方で、自社で情報を集めることができる広告メニューが台頭してきています。その代表的なものに、YouTube 広告とファインド広告があります。
ここ数年で顕著に Google 広告の内、売上とシェア率が増加をしているのが YouTube 広告です。もちろん YouTube の視聴者数が増えたことも関係がありますが、サードパーティクッキーを必要としない広告メニューの開発を積極的におこなってきた証といえるでしょう。
下記は2013年から2020年までの Google の検索広告、YouTube 広告、ディスプレイ広告の売上と媒体内のシェア率をまとめた表です。2017年には8.5%だったシェア率が2020年には13.5%にもなり、ディスプレイ広告に迫る割合になっています。
広告の種類 | 売上とシェア率 | 2013年 | 2014年 | 2015年 | 2016年 | 2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
検索広告 | 売上 | 37,422 | 45,085 | 52,357 | 63,785 | 69,811 | 85,296 | 98,115 | 104,062 |
シェア率 | 73.3% | 75.6% | 77.7% | 80.4% | 73.0% | 73.2% | 72.8% | 70.8% | |
YouTube 広告 | 売上 | - | - | - | - | 8,150 | 11,155 | 15,149 | 19,772 |
シェア率 | - | - | - | - | 8.5% | 9.6% | 11.2% | 13.5% | |
ディスプレイ広告 | 売上 | 13,650 | 14,539 | 15,033 | 15,598 | 17,616 | 20,010 | 21,547 | 23,090 |
シェア率 | 26.7% | 24.4% | 22.3% | 19.6% | 18.4% | 17.2% | 16.0% | 15.7% | |
合計 | 51,072 | 59,624 | 67,390 | 79,383 | 95,577 | 116,461 | 134,811 | 146,924 |
参考:Alphabet 2015年度報告書、Alphabet 2016年度報告書、Alphabet 2019年度報告書、Alphabet 2020年度4期 10-K SEC提出書類 よりデータを引用しグラフを作成
ここ数年でとてもコンバージョン成果があがりやすくなっている Google 広告のメニューの1つが、ファインド広告です。
ファインド広告は、Google のアプリ、YouTube のタイムライン、Gmail などに掲出される、サードパーティクッキーが不要な Google 自社媒体の広告で、機械学習がとても有効に機能することが特徴です。
ファインド広告については、以下の記事で詳しく説明しているので、あわせてご覧ください。
いま知りたい!に直接アプローチできるファインド広告(Discovery Ads)とは?配信面からターゲティング方法、実績から得た活用方法まとめ
一人一人ににあった広告が配信できる「Googleファインド広告」の概要と活用のために必要なポイントをまとめました!CPAを維持したまま、コンバージョン数を1.2倍にした事例もあるので、既存広告の改善を考えている方は是非ご参考にしてみてください。
Google 広告売上の内訳においてファインド広告は、おそらくディスプレイ広告に入ってしまっていると思われます。ファインド広告だけを抜き出せば、ディスプレイ広告の割合はもっと下がっていることでしょう。
Google は以前からサードパーティクッキーが使えなくなる流れを予測し、自社内で集められる情報を活用した広告メニューである「YouTube広告」や「ファインド広告」を強化していたわけです。
サードパーティクッキーが使えなくなることで、これまでのネット広告のあり方が大きく変化することは間違いありません。
Google でいえば YouTube 広告、ファインド広告といった、サードパーティクッキーに依存しない自社媒体広告がすでにあるので、広告に携わる人はこれらの潮流にある広告を積極的に使っていけばよいわけです。
新しい潮流にしっかり乗って、失われる分をカバーするだけではなく、サードパーティクッキーが存在していた時代を上回るよい広告を掲出していくことで、よりよい社会貢献ができることでしょう。
代表取締役会長
2003年、Googleアドワーズが日本でサービスを開始した直後より、検索キーワード広告とランディングページの実践・研究を行い、その成功理論を書籍『1億稼ぐ検索キーワードの見つけ方』で発表、5万部以上のベストセラーとなる。 キーワードマーケティングでは、設立時から延べ千社以上のアカウントを診断およびコンサルティングしており、現在は上場会社や成長率の高いベンチャー企業に対する広告運用代理事業を拡大している。
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