マーケティング

10年教えてわかった、経営に役立つKPI設定とKPIマネジメント方法

キーワードマーケティングのインハウス支援室長の石川です。私は過去10年以上にわたり、400社以上の企業の成長を支援してきました。各企業が直面するさまざまな課題に対応するなかで重視してきたのは、効果的な KPI の設定と管理です。

経営をおこなううえで重要なのは、適した目標設定と、その達成度を測る手段です。これを効果的に監視するための主要な指標が KPI です。

経営者やマーケティング担当者が直面する問題に、「どのようにして適した KPI を選定するか」や「KPI を効果的に管理するためには何をすればいいのか」というものがあります。間違った KPI を選んでしまうと、組織の方向性がずれ、貴重なリソースが無駄に消費されてしまうため、経営目標に対して影響力の高い KPI を選定し、適切に管理することが重要です。

この記事では KPI の基本的な概念をはじめ、効果的な KPI の選び方や KPI 設定で陥りやすい落とし穴、KPI マネジメントの方法を説明します。

KPI とは何か?

KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)は、企業や組織が設定した目標にどれだけ近づいているかを示す指標です。「何を測定するか」と「どのように測定するか」を定義し、経営の成果を具体的な数値で表します。

以下の表は、「何を測定するか」と「どのように測定するか」について、それぞれ具体例を表したものです。

何を測定するかどのように測定するか
売上高・会計ソフトを使用して売上データを収集する
・POS システムを通じて、店舗で直接売上を記録する
顧客満足度・Google フォームなどを用いたオンライン調査を実施する
・ソーシャルメディアのコメントやレビューからデータを収集し分析する
製品の品質・製造過程のテスト結果を品質管理システムに記録し、不良品率を追跡する
・サービス後の顧客からのフィードバックやクレームを集約する
KPI における「何を測定するか」と「どのように測定するか」を設定する際の具体例

KPI の主な役割は、組織の戦略的な目標に向けた進捗を数値で明確にすることです。具体的な数値に落とし込むことで、組織は目標達成に向けて現状の進捗を継続的に確認し、必要に応じて戦略を調整できます。

KGI や OKR との違いと使い分け

KPI 以外にも組織の成果を測定するための指標には KGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)や OKR(Objectives and Key Results:目標と主要成果)があります。これらは、目標管理のために使われますが、焦点となる範囲が異なります。

KGI は経営目標そのものの達成を測定するものであるのに対し、KPI はその達成に向けた過程や活動を測定するものです。OKR は短期間で達成すべき具体的な目標とそれを達成するための結果を設定するのに使われ、動的な目標管理方法として知られています。

適した指標の選択は、組織の目的と戦略に基づいておこなうことが重要で、それぞれの指標が組織内でどのように機能するか理解するのが大事です。

KPI 導入のメリット

KPI を設定することで、以下のようなメリットが得られます。

  1. 組織のどの分野で成果が上がっているか、または改善が必要かを判断できる
  2. 組織の全員が同じ目標に向かって業務に取り組める

1. 組織のどの分野で成果が上がっているか、または改善が必要かを判断できる

KPI をうまく設計して管理することで、組織はどの分野で成果が上がっているか、または改善が必要かを明確に判断できます

KPI をもとに各分野に適切な調整をおこなうことでリソースが最適化され、生産性が向上することで、最終的には組織の全体的な成果の向上につながります。

2. 組織の全員が同じ目標に向かって業務に取り組める

KPI は戦略的な意思決定を支援するだけでなく、組織全体を目標に向かって導くための重要なツールにもなります

適した KPI を設定し、目標達成への動機を提供することで、経営層からフロントラインのスタッフまで全員が同じ目標に向かって業務に取り組めるようになるのです。

効果的な KPI の選定方法

適した KPI を選定することは、経営目標達成の効率と効果を大きく左右します。効果的な KPI は組織の透明性を高め、各チームの焦点を明確にし、組織全体のパフォーマンスを向上させるために重要なものです。

1. SMART 基準を適用する

KPI を設定する際は SMART 基準を適用しましょう。SMART 基準は以下の5つの要素の頭文字をとったものです。

  • Specific:目標が具体的であること
  • Measurable:目標が測定可能であること
  • Achievable:目標が達成可能であること
  • Relevant:組織の中心的な目標と関連性があること
  • Time-bound:目標に時間的な制約があること

これら5つの基準に従って KPI を設計することで、目標の達成が現実的かつ明確になり、組織全体がその目標に向けて効率よく進めるようになります。

例として「2025年までに売上を20%増加させる」という KPI を例に考えてみましょう。この目標を上記の SMART 基準に沿って考えると、以下の表のようになります。

SMART 基準基準を
満たすか
根拠
Specific「売上」という明確な成果に焦点を当て、「20%増加」という具体的な数値目標を設定しているため
Measurable「20%増加」という目標は、現在の売上から計算できる(数値で測定可能である)ため
Achievable過去の売上データや市場の動向、実行可能な成長戦略が前提としてあれば、目標は現実的な成長率として設定されていると考えられるため
Relevant売上の増加は多くの企業にとって中心的な目標のため
Time-bound「2025年までに」という明確な期限が設定されており、目標達成のための時間枠が確定しているため
「2025年までに売上を20%増加させる」という KPI を SMART 基準で評価した結果

このように、すべての基準について明確な根拠をもって「満たしている」といえるため、「2025年までに売上を20%増加させる」という目標は SMART 基準を満たしていると分かります。

経営目標と連携しているか、現実的なデータに基づいているかなどを多角的に確認する

KPI を選定する際は、以下のような点を考慮しましょう。KPI がただの数値目標ではなく、組織全体のエンゲージメントと成長を促すツールとして機能する可能性を高められます。

  • 経営目標を支えるものになっているか(KPI が経営目標にどのように貢献するか)
  • KPI が現実的なデータに基づいているか
  • データを定期的に収集、分析することが可能か
  • KPI がチームや部門のモチベーションを向上させるよう設計されているか

特に、最初に挙げた「経営目標を支えるものになっているか」は重要な視点となります

KPI は経営目標に直結し、達成に必要な行動や成果を数値化する指標です。経営目標と連携した KPI を設定することで、戦略の調整が必要な場合に、状況に応じたリソースの再配分や行動計画の修正といった対応がスムーズにできます。

業種別/職種別 KPI の選び方

当然ですが、業種が異なれば重視すべき KPI も異なります。

例えば、製造業では製品の不良率や生産効率が重要な KPI になりますが、小売業では顧客流入率や在庫回転率が重要です。

職種においても同様で、営業職では新規顧客の獲得数や顧客との契約更新率が重要で、マーケティング職ではリード獲得数やキャンペーンのコンバージョン単価が重要な指標となります。

それぞれの業種や職種に最も影響を与える要因を考慮して KPI を設定することで、それぞれのチームが目標に対して具体的かつ効果的に業務に取り組めます

10年教えてわかったKPI の落とし穴、よくある間違い

KPI は組織の成果を向上させるための重要な指標ですが、不適切に使用された場合には逆効果となるリスクも伴います。

ここでは、実際の設定方法を紹介する前に知っておきたいこととして、10年教えてわかった KPI を設定する際に陥りがちな落とし穴を2つ紹介します。

1. 設定した KPI に不備や偏りがある

KPI を設定する際の一般的な誤りとして、以下のようなものがあげられます。

  • 目標(KGI)との整合性がとれていない
  • 測定が困難である
  • 不明確な指標を選んでしまっている

例えば、売上のみを重視する KPI によって短期的な利益がもたらされたとしても、顧客満足度や製品の品質など、長期的な成功に影響する他の重要な要素を無視することになるかもしれません。このように、偏った KPI は顧客ロイヤルティの低下やブランド価値の損傷といった問題を引き起こすことがあります

こうした設定ミスを避けるには、KPI 設定の初期段階で SMART 基準を厳守することが効果的です。また、目標の設定時には、組織内のステークホルダーとの協議もおこないましょう。これにより、各部門の視点を踏まえたバランスの取れた KPI が設定できます。

2. KPI の個数が多すぎる

KPI の個数は必要最低限に絞り、重点を置くべきものを厳選しましょう。5件以上の KPI を設定すると、組織の注意が散漫になり、重要な業績指標を見落としてしまうといった戦略的なミスを犯すことに繋がります。

KPI を適性数で維持するためには、定期的に KPI を評価し、それぞれの指標が現在のビジネス目標に直接的に寄与しているかを検証しましょう。重複している指標や非効率的な指標を削除したり統合したりすることで、組織の意思決定の質を向上させます。

重要なのは、主に収益に直結する KPI です。「顧客獲得コスト」や「顧客生涯価値」はその良い例で、マーケティング戦略の成果をダイレクトに示し、戦略的な意思決定を支援します。

新しい KPI を導入する際には、既存のものとの重複を避け、それぞれの KPI がビジネス目標に対して明確な価値を提供しているか評価しましょう。バランスの取れた KPI セットは、組織の効率と効果を最大化し、目標達成の大きな助けとなります。

KPI を設定するための4つの手順

KPI の設定は、組織の目標を明確にし、それらを達成するための具体的な指標を設計するプロセスです。このプロセスを効果的に進めるためには、戦略的に重要な業務プロセスを識別し、それに基づいて KPI を選定する必要があります。

ここからは小売業の場合を例に、KPI を設定する手順を以下の4つのステップに分けて紹介します。

  1. KGI を明確にする
  2. どの業務プロセスが重要であるかを識別し、それに関連する KPI を選ぶ
  3. データ収集方法の決定
  4. KPI の目標値を設定

1.KGI を明確にする

まず、組織全体の主要な目標である KGI を定義しましょう。KGI を明確に設定することで、組織全体の戦略を支え、その成功へと導く土台となります。

KGI は、企業のビジョンやミッションに基づいて設定され、組織が達成すべき具体的な成果を示します。KGI は組織の長期的な成功を支援し、企業の戦略的な方向性と一致している必要があります。

例えば、小売業であればこのような KGI が設定できます。

KGI:年間の売上を前年比10%増加させる

2.どの業務プロセスが重要であるかを識別し、それに関連する KPI を選ぶ

KGI を設定したら、次は KGI を達成するために重要な業務プロセスを特定しましょう。

このプロセスの特定には、売上増加に直接影響を与える活動を分析することが含まれます。例えば、例に挙げた小売業であれば、以下のような要素が「重要なプロセス」として挙げられます。

・適切な在庫レベルを維持する → 在庫管理
・セールやプロモーションによって顧客の購買行動を促進する → 販売促進活動
・顧客満足度を高めることでリピート購入やクチコミにつなげる → 顧客サービス

プロセスの識別が完了したら、各プロセスがどのように KGI に寄与するかを分析し、それに基づいて KPI を設定しましょう。今回の場合、在庫管理と販売促進行動、顧客サービスのプロセスに対応する KPI としてそれぞれ以下のものが挙げられます。

・在庫管理 → 在庫回転率過剰在庫率欠品率など
・販売促進活動 → 顧客獲得コストコンバージョン率リピート購入率など
・顧客サービス → 顧客満足度顧客維持率解約率など

このようにして KPI を設定することで、各業務プロセスの成果を数値で明確に評価し、目標達成のための取り組みを具体的に進められます。プロセスが KGI にどのように貢献しているかを明確にすることで、効果的な管理と必要に応じた調整が可能になり、組織全体の目標達成の手助けとなるのです。

3.データ収集方法の決定

KPI のデータ収集方法を決める際には、データの質と収集の効率性、アクセスの容易さを考慮する必要があります。それぞれの要素について、具体的に考慮すべきポイントは以下の通りです。

考慮すべき要素考慮する際のポイント
データの質顧客の購入履歴や在庫管理システムからのデータのような、正確で
信頼性の高いデータを使用できるか
収集の効率性データをできるだけ速く、かつ少ないリソースで収集できるか
(コストと時間を節約できるか)
アクセスの容易さ関連するスタッフが必要なデータに簡単にアクセスできるか

1つ目に挙げた「データの質」は KPI の測定において重要です。2つ目の「収集の効率性」は組織の迅速な意思決定に作用します。また、3つ目の「アクセスの容易さ」は、データを活用してすぐに行動に移せるようにするための必須条件です。

例に挙げた小売業の場合を考えると、このような収集方法が考えられますね。

・在庫管理に関する KPI
 → 在庫管理システムと POS システムを連携させてデータを収集する
・顧客サービスに関する KPI
 → オンラインサーベイや店頭アンケートで顧客フィードバックを収集する

4.KPI の目標値を設定

KPI として設定する指標と測定方法が決まったら、最後に KPI の目標値を設定しましょう。

各 KPI に具体的な目標値を設定することで、目標達成に向けた明確な基準が確立されます。また、組織が従業員に期待することを具体的な指標に落とし込むことで、全員が同じ方向を向いて目標達成を目指すことを促すこともできます。

KPI は過去のデータや業界のベンチマークだけでなく、市場の変動や消費者行動の変化、競合他社との比較など、幅広い要因を考慮して決めましょう

これまで紹介してきた小売業の例で言えば、以下のような目標値が設定できます。

・在庫管理に関する KPI → 在庫回転率を前年比で10%向上させる
・顧客サービスに関する KPI → 顧客満足度を85%以上に保つ

また、KPI を設定した後は定期的な見直しもおこないましょう。期間を決めて設定した KPI を振り返ることで、市場の変動に適応したり、目標が常に現実的かつ挑戦的であることを維持したりできます。

KPI マネジメントの方法

KPI の設定後は、継続的にモニタリングと評価をおこなうことが重要です。KPI マネジメントのプロセスは、組織の成果向上に直接貢献します。

最後に KPI マネジメントの方法を「管理と調整」と「モニタリングと評価」、「再評価」の3つの観点から紹介します。

管理と調整:KPI は定期的に見直して、必要があれば調整しよう

KPI を管理する過程では、定期的なレビューが重要です。組織が目標に対して効率的に進んでいるか、または調整が必要かを判断するためにレビューをおこないましょう。

設定した KPI が現在の経営目標や市場の変動に合致しているかを評価することで、戦略が現状に適しているかどうかを判断します。例えば、年次の売上目標に対して四半期ごとに達成状況を検証し、予期せぬ市場の変動や競合他社の動向により目標が非現実的になった場合、その目標を調整する必要があります。

外部環境の変化に対応するために、年に一度は KPI を見直しましょう。定期的に KPI を見直すことで、常に現在の市場状況に適応できます。

モニタリングと評価:定量的な評価だけでなく、定性的なフィードバックも

KPI が目標に対してどれだけ効果的に機能しているかを定期的に確認しましょう。

KPI のモニタリングに使えるツールには、ダッシュボードや定期的なレポートなどがあります。例えば、ダッシュボードを利用すれば、経営層は売上や顧客満足度、生産性などの指標を確認でき、必要に応じて迅速に対策を講じることが可能です。

評価プロセスでは、定量的なデータ分析に加えて、顧客やスタッフからの定性的なフィードバックも取り入れましょう。KPI の背後にある、数値だけでは把握できない要因や影響を理解できます。

たとえば、顧客満足度のスコアが低下している原因を、顧客へのアンケートやインタビューを通じて探ることで、数値の背後にある問題点を特定し、具体的な改善策を立案できます。

再評価:最新のビジネス事情などを考慮して、定期的に KPI を見直そう

ビジネスの目標や環境は常に変化しています。市場動向や顧客の需要、競合他社の状況が変わることで、もともと設定された KPI が現在の状況に適さないものになることがあります。

組織が効率的かつ戦略的に目標に向かって進むために、自社の KPI を定期的に再評価しましょう

再評価プロセスでは、最新のビジネス目標や市場の変化、技術の進歩などを考慮に入れ、必要に応じて KPI を調整または再設定します。例えば、デジタルマーケティングの進化により顧客エンゲージメントの測定方法が変わるかもしれません。また、新たに競合他社が市場に参入した場合は、市場シェアの KPI を見直す必要も生じるでしょう。

継続的な KPI の見直しと更新をおこなうことで、組織が市場の動きや技術革新に対応し、競争力を維持できます。

KPI を活用して組織の成果を最大化しよう

この記事では、経営目標につながる効果的な KPI の選び方と管理方法について説明しました。

KPI は、組織が設定した目標達成の進捗を可視化し、戦略的な意思決定を支援する重要な指標です。適した KPI を設定し効果的に管理することで、組織は目標達成に向けて効率よく進むことができます。

KPI は単なる数値ではなく、組織の成長と発展を促進する戦略的なアプローチであることを理解しましょう。効果的な KPI 管理と定期的な見直しによってビジネスの目標達成はもちろん、競争優位を維持できます。

組織を持続的に成長させるために KPI を賢く活用しましょう。その際に、この記事を参考にしていただけると嬉しいです。

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記事を書いた人

石川 優二
石川 優二

執行役員/インハウス支援室長

全国400社以上の研究会員の運用型広告・マーケティングコンサルティングを担当。養成講座では500人以上を教育。コンサル・講師・執筆業から、広告運用代行、ホームページ制作、システム開発まで担当。自社ビジネス成長のための製品開発、販売をする実践家でもある。自他ともに認める変わり者。徳島県出身。

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