広告のシミュレーションは新規のクライアントへの提案時はもちろん、既存のクライアントの翌月の広告配信の見積もりや、新しいキャンペーン・配信メニューを始めるときにも必要です。確定した予算をもとに月初めに作成するものはもちろん、新しいキャンペーン開始時や配信中の広告に新しい媒体・配信メニューを追加するときには、シミュレーションを作成して、おおよその見当を付けてから広告を配信します。
しかし、広告運用の経験が浅いとクリック単価やコンバージョン率などたくさんある項目のどれから数値を求めていいのかわからなかったり、根拠となるデータを用意するのに時間がかかり、一つのシミュレーションを作成するのに大幅に時間を要してしまうことがあります。また、経験のない広告媒体や配信メニューのシミュレーションを作成するときでも、不慣れな場合は特に作成に戸惑うかもしれません。
上手なシミュレーションの作成方法が身につくと、より具体的な見通しが立てられるようになり、データを根拠にした現実的な分析が可能になるため、配信時の成果向上が期待できます。さらに、作業効率も上がり実際の広告配信作業などに多くの時間を割くことができます。
この記事では、広告シミュレーションの説明や作成のメリット、精度の高いシミュレーションを作成するために、「運用経験のある商品やサービスを、運用経験のある広告媒体に配信する場合」、「運用経験のある商品やサービスを、運用経験のない広告媒体や配信メニューに追加する場合」そして「運用経験のない商品やサービスを、運用経験のある広告媒体に追加する場合」の3つに場合分けする考え方を解説します。
広告シミュレーションとは、広告配信の前に広告費や広告効果などの運用成果の予測値を算出したもので、設定された広告費をもとに「クリック単価」や「コンバージョン率/数」、「顧客獲得単価」などの具体的な数値を算出します。
算出したシミュレーション値は、予算の設定や確保、設定予算内で目標を達成するための最適な媒体選定などに活用します。
あくまで推定値なので、シミュレーション通りの配信結果にならないことに注意しておきましょう。配信結果は、競合の広告や市場の状況などの外的要因にも左右されるため、実際の配信結果が予測よりも良化することも悪化することも考えられます。
シミュレーションは広告配信結果を保証するものではないものの、作成するメリットはたくさんあります。ここでは、シミュレーション作成のメリットを4つ紹介します。
広告代理店の場合、事前にシミュレーションを作成し目標達成の見通しを立てることでクライアントとの配信後の認識のズレを予防できます。目標とするコンバージョン数や CPA などを数値で共有することで、配信後に起こりうる「こんなはずではなかった」という認識のズレを事前に防止できます。
シミュレーション作成には、広告運用の戦略を最適化して失敗やリスクを減らすという役割もあります。広告シミュレーションを作成すると、あらかじめ広告出稿の価値を予測でき、予算や設定目標に見合った戦略を立てられます。
例えばシミュレーションの結果、ある一般名詞のクリック単価が高い場合は、競合の入札が多いと考えられます。入札をこれ以上上げられない場合は、広告ランクを向上させる方法を検討しましょう。広告ランクは、「入札単価」や「ユーザーが検索に至った背景」、「広告とランディングページの品質」などの項目を総合的に判断して決まります。
特に「広告とランディングページの品質」は、「推定クリック率」、「広告文の関連性」、「ランディングページの利便性」の3つからなる品質スコアを参考に改善できます。クリック率が上がるような魅力的な広告やユーザーの意図を汲み取った広告を作成したり、ランディングページの利便性を向上させることが広告ランクの向上に繋がります。
品質スコアを上げるためにやるべき3つのこと。広告ランクとの違いも解説
広告運用をするものとして、よく勘違いしてしまう「品質スコア」と「広告ランク」。品質スコアとは「 Google 広告上の広告やキーワード、ランディング ページの品質を表す指標」ですが、きちんと意味を理解し使えているでしょうか?この記事では品質スコアの基本的な考え方とスコアが低いときの対応をまとめて紹介しています。
また、シミュレーションを作成することで、クリック単価の高いキーワードに多くの予算を投下するような予算の無駄遣いの防止だけでなく、予算を最も効率よく使える入札や配信媒体の調整という検討も配信前にできます。
予算規模や配信媒体、配信メニューの目処が立つと、配信に必要な作業が見え、準備作業がスムーズになることもシミュレーション作成のメリットです。
また、キーワードや出稿期間、配信媒体も決まってくるため、出稿予定の広告メニューにあったクリエイティブなど、事前に広告の設計やデザインを具体的に検討できます。広告のシミュレーションを作成すると、広告の企画方針が固まってくるのです。
広告シミュレーションは事前準備だけでなく、配信後に実際の配信結果と比較して効果を検証する際にも活用できます。
シミュレーション値と実際の配信結果の項目を照らし合わせて分析すると、今後の改善点や広告配信の方針が見えてきます。特に、広告配信の一番の目的であるコンバージョンや顧客獲得単価に関わるクリック単価やコンバージョン率を重点的に分析しましょう。配信結果が予測より悪かった場合は、原因を特定して以降の配信を改善するためのヒントを探すことができます。
シミュレーション作成のメリットを理解したら、実際にシミュレーションを作成しましょう。作成するシミュレーションは、「商品やサービスの運用経験」の有無と「広告媒体の運用経験」の有無をそれぞれかけ合わせた4パターンに分けられます。
運用経験のない商品やサービスを、運用経験のない広告媒体で配信する場合のシミュレーションは、上記の2と3の応用で作成できます。ここでは、1~3の3パターンを解説します。
シミュレーションを作成する案件がどれに当てはまるか場合分けすることで、参考にできる過去の実績の有無や難易度がわかり、シミュレーション作成の手順が明確になります。
最初に、商品やサービスと広告媒体、どちらも運用経験があるケースです。
運用経験のある商品やサービスのシミュレーションは参考にできるデータが多く、比較的シミュレーションが作成しやすいです。社内事例や昨年同月配信時のデータなどを使いながら作成しましょう。運用経験のある商品やサービスを、運用経験のある広告媒体に配信するケースは、主に配信メニューの予算増額や次月の予測を立てる場合に用いられます。
この場合は、前月や同時期の過去のデータなどを参考にシミュレーションを作成しましょう。配信媒体別・配信メニューごとまで詳しくシミュレーションを作成できると、精度の高い予測を立てることができます。判断材料になる項目の例として、以下の3つがあります。
同時期の過去のデータは、近い状況で配信された結果のため最も参考にしやすいです。運用経験のある商品やサービスのシミュレーションを作成する場合は、最初に同時期の過去のデータがないか確認しましょう。
予算の増額がある場合は、収穫逓減の法則を意識しましょう。収穫逓減の法則とは、広告運用の場合、ある一定時期までは予算の増加に伴ってコンバージョンの増加が見込めますが、一定時期をすぎると獲得できるコンバージョンが減少する現象のことです。
予算の増額に合わせて、必ずしもコンバージョンの数も比例するわけではないことを理解しておきましょう。
最後に、外的要因もシミュレーションを作成するときに考慮したい要素の一つです。競合の動向や市場の動き、季節性、突発的な社会情勢の変化など、コントロールできない要素はたくさんあります。
シミュレーションを作成する広告が、1年以上配信実績がある場合は、昨年同月の配信結果を参考にできます。過去の配信実績に該当するものがないか確認しましょう。
次に、商品やサービスの運用経験はあるものの、広告媒体は運用経験がないケースの広告シミュレーションの作成方法を解説します。
シミュレーションを作成するうえで必要な数値は、「クリック単価」や「顧客獲得単価」、「コンバージョン率」です。それぞれ相関関係にあるので、過去データを参考に導きやすい数値が2つあれば、計算式に当てはめて残りの1つの値も求めることができます。
過去の配信実績などを参考に確実性の高い値を使いながら、一番変化が大きい値を計算で求めましょう。「クリック単価」や「顧客獲得単価」、「コンバージョン率」を求める計算式は以下の通りです。
求める値 | 計算式 |
---|---|
クリック単価 | 顧客獲得単価 × コンバージョン率 |
顧客獲得単価 | クリック単価 ÷ コンバージョン率 |
コンバージョン率 | クリック単価 ÷ 顧客獲得単価 |
特に、クリック単価は媒体や配信メニューごとの特徴が表れやすく、おおよその値が求めやすい指標です。広告運用の配信経験が多い人はもちろん、経験が浅い人でも過去に似た商品やサービスを別媒体で配信した事例などを参考にすると、おおよそのクリック単価を求めることができます。
また、商品やサービスが toB 向けか toC 向けかによっても特徴が表れやすいため、推定値を出しやすい傾向があります。
顧客獲得単価も、配信中の媒体の顧客獲得単価や似た事例の配信メニューの顧客獲得単価を参考に、それより高くなるか低くなるか見当をつけます。
データを参考に、クリック単価と顧客獲得単価のおおよその値が分かったら、計算式に当てはめてコンバージョン率を求めることができます。
3つの指標のうち、過去の実績など裏付けのある数値を利用して、不確実な残りの1つを求めると、精度の高い予測値を求めることができます。
過去の事例がない広告媒体を追加する場合、媒体の営業担当がいればシミュレーションや相場を依頼することも検討しましょう。
Yahoo!広告では、カテゴリごとに業界を指定して、広告出稿額の上位1~10社平均の広告費やクリック単価などの月別推移データを確認できる「業界ベンチマークレポート」や、指定したキーワードのクリック単価やクリック率の競合比較ができる「キーワード市場調査」を確認できます。
Criteo のシミュレーション機能「パフォーマンスプランナー」のように、管理画面上で予測値を確認できる媒体もあります。可能な限り裏付けがあるデータを集めてシミュレーションを作成しましょう。
最後に、商品やサービスの運用経験がなく、広告媒体は運用経験があるケースのシミュレーション作成方法を解説します。このケースでも、最初に配信していた商品やサービスと比較しながらクリック単価や顧客獲得単価が上がるのか下がるのか見当をつけます。
運用経験がない商品やサービスを追加する場合でも、過去の事例から、なるべく近い業種のデータや似た媒体を扱ったデータを参考に、根拠のある値を出すことが大切です。根拠があれば、クライアントや上司に算出した数値の理由を聞かれても答えることができます。ヒントがない状態でのシミュレーションは難しいため、近しい商品やサービスの実績や季節性などを参考にシミュレーションを作成しましょう。
見当を立てるうえで判断材料になる要素はいくつかありますが、代表的なものとして以下の3つがあります。
配信する商品やサービスの「地域」や「ニーズ」、「ターゲティング」が変わると入札状況も変化し、クリック単価にも影響が表れます。以下でそれぞれ解説します。
広告を配信する地域が変わると、競合の状況が異なりシミュレーションの値が変わることがあります。
例えば、店舗拡大に合わせて新しい地域に配信を広げたい来店型の商品やサービスがあるとします。周辺に競合が多いと入札が盛んになると考えられるため、クリック単価などの数値が高くなると予想できます。この場合は、品質スコアを上げるなど、広告ランクを上げるための対策をしましょう。
商品やサービスのニーズの規模が変わり、ユーザーの母数が変化する場合もシミュレーションの値は変わる可能性があります。よりニーズがより多い商品やサービスの場合は、アプローチできるターゲットの母数も増えますが、その分競合の入札も考えられます。
一方、ニーズの少ないニッチな商品やサービスの場合は、競合の存在も少ないので、クリック単価が低くなると考えられます。
例えば、toB 全般向けのオンラインセミナーはあらゆる toB のサービスを提供する企業の参加が見込めます。しかし、 EC サイト経営者向けのセミナーを開催する場合、参加者は EC サイトを経営する企業のみに限定されます
EC サイト限定のセミナーのニーズは toB 向けのオンラインセミナーほど多くないと見込めるため、配信量が少なかったり、クリック単価が低くなるなどの影響が考えられます。
見込める配信量や想定されるクリック単価を踏まえて、シミュレーションの値を見積もりましょう。
ターゲティングの設定でも、シミュレーションで求める値が変わる可能性があります。例えば、自社のサイトに訪問歴のあるユーザーに広告を配信するリマーケティング/リターゲティングと、自社のサイトに訪問歴のないユーザーに初めて広告を配信する場合では、クリック単価が大きく変わる可能性があります。
ユーザーの母数が少なく確度の高いリマーケティング/リターゲティングは、入札も多いためクリック単価が高くなりやすいです。一方、初回接触を狙うようなターゲティングは、ユーザーの母数が多く広い配信対象にリーチできるため、クリック単価が低くなる傾向があります。
ほかにも、広告のクリエイティブやランディングページによる影響も考えられます。質の高いクリエイティブであれば広告ランクが高くなるため、入札単価を低く見積もることもできます。
手元にある実績のデータから、広告を新しく追加する商品やサービスと配信中のものの共通点や相違点をもとに、求めたい値が今より上がるか下がるかを意識しながらシミュレーションを作りましょう。
運用経験のない商品やサービスに運用経験のない広告媒体を追加する場合でも、上記で解説した方法を組み合わせることで、精度の高いシミュレーションを作成できます。
コツは、運用経験がなくても、シミュレーションを作成したい商品やサービス、そして広告媒体に近い事例をできるだけ探すことです。
経験を積めば、苦労せずシミュレーションを作成できる日がくるかもしれません。その日が遠い未来の話でも、今から確実にシミュレーションを作成する案件の場合分けをしていくことで、やるべきことが明確になってきます。
今回の記事を今後のシミュレーション作成に活用いただければ幸いです。
編集部
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