Web 広告や Web マーケティングに携わる方であれば、「Cookie 規制」や「Cookie レス」という言葉を1回は聞いたことがあると思います。
個人情報保護の観点で、2017年頃から Cookie 規制に関する声が世界中で高まり、法律で Cookie を規制したり、Cookie の使用にあたって同意取得を義務化したりする動きが各国で活発になっています。
日本も例外ではなく、2022年4月に改正個人情報保護法、2023年6月には改正電気通信事業法といった同様の法律が施行されています。また、Google は Chrome ブラウザでのサードパーティー Cookie を2024年後半までに段階的に廃止すると公式に宣言しており、Cookie 規制はますます厳しくなると予想されます。
2024年7月、Googleからサードパーティ Cookie の使用廃止の見直しが発表されました
参考:A new path for Privacy Sandbox on the web|The Privacy Sandbox
Cookie が規制されると、Web マーケティングや Web 広告で、今まで通りの成果計測が困難になります。リスティング広告を中心とした Web 広告でもその影響は大きく、特に正確なコンバージョン数の計測は難しくなるでしょう。そのため、正確なコンバージョン計測を維持するために、Google 広告から「拡張コンバージョン」がリリースされました。
しかし、新しい技術ゆえに理解が難しく、どのように設定したらいいか分からない方もいると思います。この記事では、拡張コンバージョンの概要と出来た背景、設定方法を分かりやすく解説します。
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拡張コンバージョンとは、自社の Web サイトで取得したユーザーデータ(ファーストパーティーデータ)をハッシュ化(不可逆的に別の値へデータを変換)して Google に送り、従来のコンバージョン計測を補完する機能です。
拡張コンバージョンを設定できるのは、リード情報を送信できるタイプのコンバージョンアクション(登録、申込、購入など)に限られます。
拡張コンバージョンを使えば、サードパーティー Cookie が利用できない場合であっても、Google 社が保持するユーザーデータと Google アカウントの情報をもとに、より正確なコンバージョン計測ができます。
従来のコンバージョンでは、Cookie 規制が強まると、コンバージョンしたユーザーが広告をクリックしたかどうかの判断ができなくなってしまうため、コンバージョン計測に漏れが生じることがあります。
拡張コンバージョンは、コンバージョンしたユーザーと広告をクリックしたユーザーが一致しているかの判断を手助けするものというイメージです。そのため、コンバージョン計測を補完する機能として活用されています。
以下は、A 社目線でファーストパーティーデータとセカンドパーティーデータ、サードパーティーデータの違いを表でまとめたものです。
ファーストパーティーデータ | セカンドパーティーデータ | サードパーティーデータ | |
---|---|---|---|
データの保有者 | A 社保有 | B 社保有 | A 社サイト以外が保有 |
データの取得先 | A 社 | B 社 | A 社以外 |
データ取得先例 | A 社サイトやアプリ | B 社サイトやアプリ | 国や自治体、リサーチ会社 |
ただし、拡張コンバージョンはあくまで補完機能なので、全てを正確な値で計測できるわけではありません。また拡張コンバージョンでは、コンバージョンデータを補うために、Google アカウントのデータを使います。そのため、Google アカウントにログインしていないユーザーなどのコンバージョンは補えません。
拡張コンバージョンは、4つのステップを経て計測の補完をおこないます。まず、Google アカウントにログインしたユーザーが広告(以下の例では YouTube 広告)を閲覧します。次に、広告を見たユーザーがコンバージョンに至ります。
コンバージョンしたユーザーが、商品購入やサービス契約のために自身の情報(メールアドレスや性別など)を入力すると、その情報がハッシュ化され Google に送信されます。その後、Google が持つデータとハッシュ化されたデータが照合され、コンバージョンが計測されます。
これらのステップを踏むことによって、より正確なコンバージョンを計測することができるのです。
拡張コンバージョンと従来のコンバージョン計測の違いは、コンバージョンユーザーを判断するために使っているデータです。
拡張コンバージョンでは、広告をクリックしたときの Google アカウントの情報(Google のファーストパーティーデータ)と、Web サイトからハッシュされて送信されたデータ(広告主のファーストパーティーデータ)を照合し、コンバージョンを計測します。
一方で従来のコンバージョン計測では、ユーザーが広告をクリックしたときに、サイトに埋め込まれたタグによって Cookie にユーザーの情報が書き込まれるため、コンバージョン時にその情報(サードパーティーデータ)を遡って観測し、コンバージョン計測をおこなっていました。
しかし Cookie 規制により、コンバージョン時に遡って観測することができなくなるので、コンバージョン計測を補完する拡張コンバージョンが登場しました。
基本的な概念や仕組みはわかったと思いますが、お客様から、拡張コンバージョンがこのような仕組みになっている理由を尋ねられたときにきちんと説明できるよう、拡張コンバージョンが出来た背景も知っておくとよいでしょう。
従来のコンバージョンには Cookie と呼ばれるシステムが採用されています。 Cookie はコンバージョン以外にも、行動履歴の保存や興味関心ターゲティングにも使用されています。
興味関心ターゲティングは、広告運用者や Web マーケティングに携わる者にとっては便利な機能である一方、ユーザーからは個人情報やプライバシーの観点で批判の声があがっていました。特にサードパーティーの Cookie を活用した広告に対しては、知らない間に第三者機関に個人情報が渡っていて気持ち悪い、いつも同じ広告が出てきて鬱陶しい、監視されている気がするなどの声がありました。
このような世間の声を受けて、さまざまな企業や国、地域で Cookie を規制する動きが出てきました。以下は年代別に企業、国、地域が実際におこなってきたことを一覧にしたものです。
西暦 | 企業、国、地域 | 詳細 |
---|---|---|
2017年 | Apple 社 | ITP(トラッキング防止機能)を自社ブラウザである Safari に実装 |
2018年 | EU | ユーザーが Cookie を受け入れる「事前同意取得(オプトイン)」を法律で義務化 |
2020年 | アメリカ カリフォルニア州 | 個人データ(Cookie データ)を第三者に提供する場合、ユーザーの希望によっては提供を停止することができる仕組みを整えることを法律で義務化 |
2020年 | Apple 社 | サードパーティー Cookie を完全にブロック |
2022年 | Mozilla 社 | Firefox ブラウザで「包括的 Cookie 保護」を有効にすることを発表 |
2022年 | 日本 | 個人データ(Cookie データ)を第三者に提供する場合、提供元に「本人同意が得られていること」を確認することを法律で義務化 |
2022年 | 日本 | サードパーティー Cookie を含む利用者情報を第三者に提供する場合、「関連情報を事前にユーザーに通知」か「事前にユーザーの同意を取得」か「後から拒否できる仕組み」のいずれかに対応することを法律で義務化 |
2024年 | Google 社 | Chrome ブラウザでのサードパーティー Cookie を廃止予定 |
この流れは今も止まらず、現在では Cookie の利用を制限することで、第三者による個人情報の勝手な利用を防ぎ、利用者のプライバシーを守ろうとする動きが世界的な主流になっています。
正確なコンバージョン計測ができなくなる不安や、効果測定ができなくなったら Web 広告の強みはなくなってしまうのではないかという懸念が、広告運用者や広告媒体の中で生まれました。それを解決する手段の一つとしてリリースされたのが、拡張コンバージョンです。
拡張コンバージョンを設定する方法は3つあります。Google タグマネージャーを使用する方法、Google タグを Web サイトに直接設置する方法、Google Ads API を利用する方法です。
このうち、Google タグマネージャーを使用する方法と Google タグを Web サイトに直接設置する方法の違いは、タグマネージャーを使うか使わないかです。今回は比較的使われていることも多い Google タグマネージャーを用いて、拡張コンバージョンを設定する方法を紹介します。Google タグを Web サイトに直接設置する方法は、下記の公式ヘルプを参照してください。
参考:Google タグを使って拡張コンバージョン(ウェブ向け)を手動で設定する|Google 広告ヘルプ
また、Google Ads API を利用する方法は、自社のサーバーとの連携が必要な関係上、導入しているサーバーの状態によって導入方法が異なり、Java や PHP、Ruby などサーバーサイド言語と呼ばれるプログラミングの知識や高度な技術が必要となるため、今回は割愛します。詳しくは下記の公式ヘルプを参照してください。
参考:Google Ads API の拡張コンバージョン(ウェブ向け)について|Google 広告ヘルプ
拡張コンバージョンの導入にはサイトの改修が必要になるので、サイトの管理者に相談しながら導入を進めましょう。拡張コンバージョンはその性質上、ファーストパーティーデータを Google に送信するため、ユーザーの同意取得が必要になります。ファーストパーティーデータの扱いについては、あらかじめ法務部門の担当者と調整しておきましょう。
3つの設定方法のいずれの場合も、Google 広告の管理画面上から拡張コンバージョンが使用できるように「拡張コンバージョンをオン」にする作業が必要です。
まず、Google 広告の管理画面の右上にある「ツールと設定」から「測定」、「コンバージョン」の順でクリックします。
次に、左側メニューから「設定」を選択し「拡張コンバージョン」のパネルを展開します。
「拡張コンバージョンをオンにします」にチェックを入れるとプルダウンが出現し、「Google タグ」か「Google タグマネージャー」、「Google Ads API」を選択できるようになるので、今回説明する「Google タグマネージャー」を選択しましょう。
Google タグマネージャーで拡張コンバージョンを設定する方法は「自動収集」か「コード」、「手動設定」の3種類です。それぞれの詳細は以下の通りです。
設定種類 | 詳細 |
---|---|
自動収集 | タグによって、ページ上のユーザー提供データを自動的に検出する方法 最も手早く簡単だが、コードや手動設定より信頼性は劣る |
コード | ハッシュ化された顧客データの送信に用いるコードを Web サイトに追加する方法で、最も信頼性が高い |
手動設定 | 顧客データが含まれる CSS セレクタや JavaScript 変数をページ上で手動で指定する方法 自動収集よりは精度が高いが、コードよりは信頼性が低い サイトの書式を変更すると正しく動作しなくなることがある |
「コード」や「手動設定」の方法は、Web サイトの構成や仕様によって設定手順が異なります。Web サイトの開発担当者と連携し、公式ヘルプページを見ながら進めてみましょう。今回は、手軽にできる「自動収集」による設定方法を解説します。
参考:Google タグ マネージャーを使って拡張コンバージョン(ウェブ向け)を設定する|Google 広告ヘルプ
まずは既存のコンバージョンタグを変更します。Google タグマネージャーにログインし、ワークスペース画面の左側メニューから「タグ」を選択します。
次に、「拡張コンバージョンの導入に使用する Google 広告コンバージョントラッキングタグ」を選択し、編集画面を開きます。
コンバージョントラッキングタグの編集画面で「自社のウェブサイトでユーザーから提供されたデータを含める」にチェックを入れ、出てきたプルダウンの中から「新しい変数」を選択しましょう。
「新しい変数」を選択すると自動的に変数の設定画面が開くので、設定画面の「Automatic collection」にチェックを入れて、右上の保存をクリックしましょう。変数の名前にこれといった制限はないので、自由に名前を付けてかまいません。先頭に「【拡張コンバージョン用】」などつけておくと分かりやすいと思います。
新しい変数を設定し、編集中のコンバージョントラッキングタグを保存します。今回の変更内容を Google タグマネージャーで公開すれば設定完了です。
ここまでは既存のコンバージョンタグ設定を変更する方法を紹介しましたが、新規でコンバージョンタグを追加する場合は、設定手順が若干変わります。
新規で拡張コンバージョンのタグを設定する場合は、まずタグ一覧の画面の右上の「新規」をクリックします。
右側から新しい画面がスライドインしてきたら「タグの設定」をクリックし、「Google Ads User-provided Data Event」を選択します。
タグタイプを選択したら、Google 広告の管理画面上で発行したコンバージョンのコンバージョン ID を「コンバージョン ID」箇所に入力します。
コンバージョン ID を確認するには、まず Google 広告の管理画面の右上にある「ツールと設定」から「コンバージョン」を選択して、該当のコンバージョンを選択します。
次に「タグを設定する」から「Google タグマネージャーを使用する」をクリックすると、コンバージョン ID を確認できます。
Google タグマネージャーに戻り、コンバージョン ID を設定したら、ユーザー提供データのプルダウンから「新しい変数」を選択しましょう。
「新しい変数」を選択すると変数の設定画面がスライドインしてくるので、「Automatic collection」にチェックを入れ、保存をクリックしましょう。名前は先ほどと同様、「【拡張コンバージョン用】」などを先頭につけて自由に設定して OK です。
これでタグの設定は完了です。しかし新しいタグなので、トリガーの設定も必要です。
まず「タグの設定」の下にある「トリガー」をクリックして、スライドインしてきた画面の右上にある「+」マークをクリックしましょう。
スライドインしてきた画面で「トリガーの設定」をクリックし、右側の「フォームの送信」を選択しましょう。新しい拡張コンバージョンを正しく動作させるには、「フォームの送信」を選択する必要があります。
全てのフォームでコンバージョンを計測する場合は、右上の「保存」をクリックして完了です。
一部のフォームでのみコンバージョンを計測したい場合は、トリガーの設定を調整してから保存しましょう。例えば、特定の Class 要素を設定しているボタンでフォーム送信したときや、特定の URL のフォーム送信でのみ拡張コンバージョンを適用させたいといったときに、トリガーのイベント発生条件を調整します。「一部のフォーム」にチェックを入れると、イベント発生条件を指定できるようになります。
一部のフォームを指定する場合は、サイトの構成などを把握する必要があるため、ここでもサイト制作担当の方と連携する必要があります。サイト URL の条件や Class 要素の設定要件など、イベント発生条件を設定するのに必要な情報を漏れなく共有してもらいましょう。
これでタグの設定は完了です。あとはタグを保存して、変更を保存すれば拡張コンバージョンの設定は完了です。
広告効果の測定は、現在は Cookie を用いたやり方がほとんどです。しかし、Cookie を規制する流れは今後も止まらず、拡張コンバージョンのようなファーストパーティーデータを利用した計測が主流になってくると考えられます。少し複雑ですが、今のうちにマスターしておき、新しい広告運用のスタイルに対応できるようにしておきましょう。
今回は Google の拡張コンバージョンを紹介しましたが、Yahoo! 広告や Facebook 広告にもファーストパーティーデータを使った計測方法があります。こちらは、また別の機会にご紹介します。
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広告運用 コンサルタント
2021年9月に中途入社。2019年からWebマーケティング業界に携わり、toB/toC問わず様々なサービス、商材の広告運用を担当。好きな広告媒体はGoogle広告。趣味は映画鑑賞、お笑い、深夜ラジオ。映画のサブスクを契約しすぎている。
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