広告の配信手法は、オフライン、オンラインともにさまざまな方法があります。その中でも、近年急速な市場拡大が見込まれている「デジタル音声広告」をご存知でしょうか。
「デジタル音声広告」はその名の通り、音声フォーマットの広告で、ラジオや音楽ストリーミング配信サービスといった音を主体とするコンテンツでの広告手法を指します。
ラジオや音楽配信アプリの普及も影響している現在、デジタル音声広告は注目を集めています。私自身も radiko でラジオ番組を聞いていますが、ふと思い返すと広告をよく耳にしており、流れていた内容も意外と覚えていると感じます。
今回はデジタル音声広告の概要や特徴、配信できるメディアについて解説します。
デジタル音声広告とは、ラジオ配信やインターネットラジオ、音楽ストリーミングサービスなどで配信される音声の広告です。
代表的な配信先として Spotify や radiko、Voicy などがあるほか、YouTube でも「YouTube オーディオ広告」としてデジタル音声広告を配信できます。
リアルタイムで番組を聴取する地上波ラジオと異なり、radiko や Voicy といったデジタル音声メディアは聴きたいときに番組を聴取できます。その手軽さや利便性からデジタル音声メディアが普及したことにより、広告の配信先としてデジタル音声メディアが注目を集めるようになりました。
また、Spotify などの音楽ストリーミング配信サービスも、その手軽さとサービス料金の安さを理由に利用率が上がっており、広告手法の一つとして地位を確立しています。
配信の仕組みはリスティング広告や SNS などのデジタル広告と同様で、配信クリエイティブを用意し任意のターゲティングでメディアを介して配信します。メディアごとにクリエイティブの規定も定められているため、作成前に確認しておきましょう。
また、ターゲティングもデモグラフィックや興味関心オーディエンス、番組聴取ログなど用意されているセグメントから任意で選択できます。自社に適切なターゲティングが可能かチェックしながらメディア選定も進めてください。
入稿の際は、規定に沿ったクリエイティブや配信設定など、入稿に必要な情報をまとめて期日までにメディアに送付する媒体と、自身でクリエイティブを入稿するものがあります。
入稿から配信までの細かい手順は、本記事の後半で別途まとめて紹介いたします。
音声広告についてネット検索などで調べていると、「オーディオアド」という名称で解説されている記事などもあります。一見すると異なるタイプの広告に見えますが、この「オーディオアド」も本記事で定義している「デジタル音声広告」と同義と捉えて問題ないと考えています。
ネットラジオや音楽配信などで流れる音声の広告は英語で「Audio Advertising」と称され、これが訳されたものが「オーディオアド」です。そこから発展して、日本語の表現で考えられた言葉が「デジタル音声広告」ではないかと考えています。
ただ、地上波ラジオはインターネットを介していないため、地上波ラジオで流れる広告を含んでカテゴライズする場合は、単に「音声広告」と呼ぶ方が適切です。
インターネットラジオ媒体「voicy」の発表によると、2019年から2023年の5年間、デジタル音声広告の市場は年々拡大しています。直近5年間の市場成長率は平均で約130.4%で、2023年の広告費は28億円でした。
Spotify や radiko といったインターネットラジオや音楽配信サービスの利用率の高まりとともに、ワイヤレスイヤホンやスマートスピーカーなどの聴取デバイスの進化も市場規模拡大の背景として考えられます。
聴取側の環境変化や意識変化とともにさらなる聴取率の向上が予測され、企業側も音声メディアを介した情報発信にも注力するようになり、市場の拡大に影響を与えているようです。
デジタル音声広告は、一般的に「スキップされにくい」「不快に感じられづらい」「ブランドリフト効果が期待される」といったメリットがあります。本記事では、それらに加えて、代理店から見たときの特徴として、以下の3つの点について解説します。
Web サイト上に配信するディスプレイ広告などは、サイト訪問や関連商品閲覧などの Cookie を利用して配信するターゲティング方法があります。購買行動の促進に繋がるメリットを持つ手法ですが、第三者が発行する「サードパーティ Cookie」はプライバシー保護の観点から一部媒体で使用できないため、代替手法の検討が必要となるケースもあります。
デジタル音声広告を配信できる一部メディアでは、メディア内における行動データなどのファーストパーティーデータを活用でき、Cookie に依存しないターゲティングが可能です。例えば、radiko では放送局や番組聴取、位置情報といったデータを活用できます。また、ファーストパーティーデータをもとに拡大推計したデータとして、デモグラフィック(ユーザー属性)や興味関心のターゲティング利用も可能です。
メディア独自のターゲティングがある場合は、Cookie 規制の流れに左右されない広告配信が可能になる点を踏まえて、利用するターゲティングを検討しましょう。
検索広告から問い合わせや商品購入に至るまでには、以下の3つのステップが必要です。
ステップ1. 広告をクリックしてもらう
ステップ2. ランディングページに滞在してもらう
ステップ3. お問い合わせや商品購入などのアクションをとってもらう
当然、最終的なアクションの前に各ポイントで離脱が発生してしまいます。
デジタル音声広告は、ユーザーと初めて接点を持つ瞬間から広告が終わる瞬間まで、音声のみで完結します。つまり、ユーザーに促したいアクションまで着実に伝えられるわけです。例えば「キーワードマーケティングで検索!」「キーマケのブログにアクセスしてみてください」というように、ユーザーに取ってもらいたいアクションを明確に提示できます。
お問い合わせの電話番号が語呂合わせになっているのであれば、直接電話を促してみるのも良いでしょう。ただ訴求したい内容だけを音声として流すのではなく、広告の最後にユーザーに促したいアクションについて挿入するのがおすすめです。
音声広告は、番組を聴取しているユーザーの耳に直接届けられ、ユーザーとの間に遮断するものがありません。
例えば、SNS の広告はスクロールしてすぐに画面に映らないようにできたり、動画に特化したメディアではスキップボタンが表示されて一定時間過ぎたら非表示にできたりします。
一方で音声メディアは、広告部分だけ聞こえないようにする機能やスキップ機能はありません。つまり、音声メディアを利用しているユーザーには確実に広告を届けられるというわけです。
動画広告の場合、視聴停止を回避するために冒頭を特に印象的なシーンにするという工夫などが求められますが、音声広告は最後まで聴いてもらえる前提で広告内容を検討して問題ありません。商材に関する訴求も盛り込みつつ、ブランドイメージを想起させるような内容で全体を構成するとよいでしょう。
デジタル音声広告を配信できるメディアとして代表的なものは下記の通りです。
それぞれの特徴を以下に一つずつまとめているので、自社の商材やターゲット層などと照らし合わせながら確認してみましょう。
月間アクティブユーザー数6億人を誇る世界最大手のオーディオストリーミングサービスで、1億以上の楽曲と600万以上のポッドキャストを聴取できます。フリープランで楽曲再生も可能で、有料のプレミアムプランだとオフライン再生やスキップ機能を無制限で利用できます。
リスナーの男女比はほぼ1:1、年齢層も24歳以下と25歳から44歳、45歳以上の割合がそれぞれ30%程度ずつとなっており、幅広い層のユーザーに利用されています。視聴デバイスは圧倒的にスマートフォンが多く、87%とほとんどを占めています。
広告は対象プレイリストを聴取している際に再生され、ユーザーは再生された広告から外部サイトへ遷移できます。オーディオ形式、ビデオ形式の2タイプあり、どちらも最大30秒です。
Spotify における広告の強みとしては、スクリーンを見ながら聴取しているユーザーには動画やディスプレイ形式で広告配信してくれる点です。音声メディアのため、基本的には音を通じてユーザーにメッセージを発信しますが、動画やバナーを活用して視覚的にアプローチできる点が強みといえるでしょう。
民放連加盟ラジオ放送局全99局が参加している、国内最大級のラジオ配信プラットフォームです。月間アクティブユーザー数は約800万人で、過去1週間以内に放送された番組を聴取できる「タイムフリー機能」や、聴取エリアを問わず全国の番組を聴ける「エリアフリー機能」が特徴的です。
リスナーの傾向として、年齢別では40代から50代が50%を占めており、男女比では6割が男性となっています。また、ユーザーの職業は事務職や作業職、販売・サービス職が50%を占めています。
広告配信の流れとしては、放送局が番組ごとの広告挿入箇所や秒数を設定し、radiko のアドプラットフォームを経由して広告配信されます。素材秒数は、15秒や20秒、30秒、40秒、60秒を入稿できるため、番組やタイミングによって再生される秒数も変動があります。
地上波ラジオ放送局と同様の競合排除/隣接排除などの仕組みや、ユーザーに違和感を抱かせることなく広告を挿入させる機能によりブランドセーフティと高いブランドリフトを確保している点が特長です。また、アプリ内におけるユーザーの実行動データが豊富で、Cookie に依存しない形でのターゲティングもできます。
最低出稿金額は50万円と定められています。
YouTube のオーディオプラットフォームを使用中、もしくは動画閲覧ではなく聴取を優先していると判断されたユーザーに配信される音声広告です。基準は開示されていませんが、長時間聴取していると媒体側が判断したタイミングや、YouTube がバックグラウンド再生されているときに最大15秒のオーディオ広告が再生されます。
参考:YouTube オーディオ広告を作成する | Google 広告 ヘルプ
YouTube に広告を配信しようとすると動画制作が必要ですが、オーディオ広告の場合は静止画でも配信可能です。既にバナー素材があれば、音声を付け加えるだけで、YouTube に広告を配信できます。
圧倒的なユーザー数を誇る YouTube に配信したいものの、動画制作が難しい場合などは、オーディオ広告を検討してみましょう。
芸能人や著名人、あらゆる業界のパーソナリティによる音声コンテンツを無料で楽しめる音声プラットフォームです。パーソナリティの応募通過率は5%で、かなり厳選されたコンテンツとなっています。ビジネス、ライフスタイル、エンタメ、学習などさまざまなカテゴリがあり、現在2,000チャンネル以上が放送中です。
リスナー属性としては、20代から30代が約50%を占めていますが、40代も約25%と年齢層は比較的広めです。また、リスナーの約50%が会社員であることからビジネスパーソンの情報収集として活用されている面も見受けられます。
法人サービスの基本メニューとして、LTV が高い顧客獲得向けの「タイアップ」と想起率の向上が見込める「チャンネルスポンサー」があります。タイアップは長くて20分から30分のコンテンツを放送中に挿入でき、チャンネルスポンサーは約7秒間のパーソナリティによるスポンサーコールです。
Voicy を活用したマーケティング施策はいずれもパーソナリティが絡むため、企業による宣伝が差し込まれている感覚は動画メディアよりも薄いのではないでしょうか。リスナーとしては聴き慣れたパーソナリティの声によるコンテンツやコールのため、自社の認知だけでなく商材に関する関心度の高まりも期待できる点が特長です。
YouTube を除いた他のデジタル音声広告は、運用型広告のように自社でアカウントを作って配信できるものではなく、音声メディアを運営している企業を介して配信しなければなりません。
ここからは Spotify の場合を例に、実際にデジタル音声広告を配信するまでに必要なステップを以下の3つに分けて解説します。
ステップ1:配信するメディアを選ぶ
ステップ2:音声データを準備する
ステップ3:審査通過したら配信開始
デジタル音声広告は、音声メディアを提供している企業に依頼して配信します。メディアによって強みや特長は異なり、使用できるターゲティングや配信メニューによって課金形態も異なります。
Spotify の場合は、広告の種類が純広告とプログラマティック広告(在庫保証型)、プログラマティック広告(プライベートマーケットプライス)の3つに分かれており、以下の表のように最低出稿金額の有無や課金形態がそれぞれ異なっています。
広告種別 | 概要 | 最低出稿金額 | 課金モデル |
---|---|---|---|
純広告 | 広告枠を直接購入して 広告を配信 | あり ※要問合せ | CPM、CPCV ※メニューによる |
プログラマティック広告 (在庫保証型) | 申し込み時に出稿額や インプレッション数、 出稿日数を決め、メディア側がコントロール | あり ※要問合せ | – |
プログラマティック広告 (プライベート マーケットプライス) | 広告枠に対して自動で 入札がおこなわれ、入札価格が高い広告が配信 される | なし | – |
メディアによって独自の配信メニューがあったり、ブランドリフト効果や来訪計測に関するレポート出力などのオプションがあったりするため、メディア紹介資料に記載されている配信メニューやオプションなどを踏まえて検討しましょう。
メディアを選定したら、次に広告に使用する音声ファイルの作成に取り掛かりましょう。配信メディアの入稿規定をクリアしていなければ入稿できないため、事前に規定を確認しておく必要があります。
Spotify(ポッドキャスト SPAN オーディオ)の場合の入稿規定は以下の通りです。
長さ | 最大30秒 |
ファイル形式 | MP3 |
最大ファイルサイズ | 1MB |
技術要件 | MP3:192kbp s以上 -16 LUFS (+/-1.5LUFS)、トゥルーピークリミット-2.0 dBTP サンプルレート:44.1kHz 最大ビットレート:192kbps |
音声ファイルを作成するには、まず広告全体のストーリー構成を検討し、ナレーション原稿を作成します。原稿テキストは入稿依頼時に必要となるメディアもあるため、必ず作成して記録に残しておきましょう。
次に、原稿を読み上げるキャストを決めて収録していきます。収録する中で、不自然に感じる文章や表現は修正しながら何パターンか記録しておきましょう。
収録が終わったら、最後に編集をおこなって音声ファイルの完成です。出来上がった音声ファイルは細部まで入念にチェックして、入稿規定と照らし合わせながら確認しましょう。
完成したらメディアに入稿を依頼します。
音声ファイルが用意できてもすぐに広告を配信できるわけではありません。音声メディアを提供している媒体に対して、審査や申請が必要です。
審査や申請は媒体によって内容やかかる日数が異なるため、事前に想定日数を確認しておきましょう。
以下の表は、Spotify の配信から掲載までの流れをまとめたものです。
流れ | やるべきこと | 必要日数 |
---|---|---|
見積 | ・見積依頼 ・アカウント登録 ・掲載可否確認 | 1営から2営業日 |
申し込み | ・申込み ・電子契約書の締結 | 2営業日 |
・掲載審査(グローバル) | ||
入稿・配信設定 | ・広告素材入稿作業 | 3営業日 |
・掲載審査(グローバル) | ||
・デモリンク確認 | ||
配信開始 | – | – |
モニタリング | – | 不定期 |
レポート | – | 配信終了後10営業日 |
音声をメインとした広告は音声素材を準備する必要があるものの、動画やバナーを作成するより比較的工数をかけずに作成できます。その中でも、今回紹介したデジタル音声広告は動画メディアや SNS で流れてくる広告とは違う持ち味を持っています。
コンテンツを遮って動画広告やフィード型の広告が挟まっている場合、どうしても広告の存在感が強くなります。ただ、デジタル音声広告の場合は「広告が始まった」と感じにくく、コンテンツを聴取している流れでいつの間にか広告が流れており、自然と耳を傾けるような姿勢になりやすいと感じます。
数あるデジタル広告の中でも、音声広告は潜在層へのアプローチ手法として主流の一つとなり得るのではないかと捉えています。オンラインの広告施策はやり尽くしてしまったと感じているのであれば、新しい広告チャネルの選択肢としてデジタル音声広告の配信を検討してみるのはいかがでしょうか。
マーケティング
2019年4月に新卒で入社後、研修を経て運用チームに配属。toB、toC等の案件を担当した後、セールスチームに異動となる。趣味はお笑いと観賞(研究?)と謎解き。特に好きな芸人は東京03とバナナマン。
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