運用型広告のクリエイティブの重要性は、最近ますます高まっていますよね。
Google 広告、Facebook 広告を筆頭に機械学習による広告運用の自動化が主流となってきています。機械学習を進めるにはデータ量を溜めることが重要で、AI に多様な広告クリエイティブを読み込ませる必要があります。そのため、新しいクリエイティブの追加やクリエイティブの定期的な改善提案の需要は高まる一方です。
ただし、クリエイティブというものは正解がなく、決裁者やクライアントに了解をもらう際にも意見の衝突が起こりやすく、方向性が定まらないことがあります。
この記事では、広告クリエイティブ制作や改善をおこなう上で作成すべき「デザインガイドライン」を紹介したいと思います。作成してしまえばそれを基準に議論を進めることができるので、業務効率が上がり、ミスコミュニケーションも防ぐことができます。
運用型広告における広告クリエイティブの制作では、以下のような問題が起こりがちです。
やり直しが何度も入ったり、感情的なこじれがあったりすると仕事の効率が下がってしまいますよね。まずはこれらの問題を1つずつ詳しく説明していきます。
広告に限らずクリエイティブというものは、感性やセンスが問われても仕方がないところが当然あります。
ただし、仕事としてマーケティングの文脈でクリエイティブを作るのならば、ターゲット像を明確にした上で、ニーズを定義しメッセージに変換するというステップは必要になります。
ところが、決裁者やクライアントの多くは、クリエイティブがどのように作られるべきかという訓練を受けていません。それ故、クリエイティブは感性やセンスで作られていると思っていたり、作成されたものに対しても感性やセンスで選択したり、評価していいものだと勘違いするケースが多くあります。
もちろん最終的には、決裁者やクライアントが責任を負うのであればどのような意思決定をしても良いのですが、感性やセンスというものは依頼された側にはわかりにくいものです。
結果的には、いろんな案を提出してみて、フィードバックをもらいながら、「どうも決裁者はこういうクリエイティブが好みらしい」というものを忖度して作っていくことになります。
その結果、どうしても時間が余計にかかり制作スピードが落ちるので、決裁者やクライアントの不利益になってしまうんですね。最終的には、広告運用担当者の業務効率が上がらずに無駄な仕事が増えるので、効果的なクリエイティブも作りにくくなります。
運用型広告では、クリエイティブの入れ替えの頻度を高めることが求められていて、特に予算が大きい案件は制作数も多くなります。
その際に、色の使い方やフォント、企業としてのポリシーなどが議論の中でおこなわれることは良いのですが、一貫性がないことは問題です。
カラー規定は、本来ロゴの使用規定と同時に企業が定義した上で、クリエイティブにも反映させるべきなのですが、そもそも上場企業であってもカラー規定がない、もしくはあっても守られてないケースはよくあります。
一貫性がないクリエイティブを作っていると、制作側は混乱しやすくなってしまいます。また顧客視点でも不信感を持たれる可能性もあります。
運用型広告では、コンバージョン獲得が求められることが多く、必然的にクリエイティブにもクリック率やコンバージョン率の向上が期待されてテストがおこなわれます。
もちろん、ユーザーに支持されるクリック率の高い広告クリエイティブを目指すのは良いのですが、「成果が上がれば何でもいいから次々と試す」という姿勢は問題です。
前述の通り、一貫性のないクリエイティブ制作は制作効率も悪くなります。また、尖り過ぎたメッセージのクリエイティブなどは、一時的な成果は上がるかもしれませんが、中長期的に見るとブランド毀損のリスクがあります。
現在のインターネットはマスメディア化していて、広告クリエイティブに対するモラルが求められています。デザインガイドラインを作成することで一定の秩序が保たれ、ユーザーに対して不快感を与えないクリエイティブ作成が可能になります。
上記のような問題は、実はクリエイティブのデザインガイドラインを決裁者やクライアントと共同で作り上げることで解決できます。
問題に対して「あるある」と頷いた広告運用担当者のみなさまも多いと思うので、ここからは弊社の「デザインガイドライン」の作成方法を紹介したいと思います。
デザインガイドラインとは、本来は企業ブランドの文脈で語られるものです。一般的には、以下の3つの規定を作成します。
クリエイティブにおける、色・画像・テキストを企業としてどのように統一して、顧客にメッセージを届けるかを規程するものです。
当たり前ですが、どのような事業体であれ、必ず文化を持っています。何のポリシーもなく業務をおこなうことはあまりないので、どんな色が良いのか、画像やイラストはどんな雰囲気が似合うのか、テキストは堅くいくのか、面白系も許容するのかなどの暗黙知があるので、これを言語化します。
ただし、後述しますが、ブランディングをゼロから定義したり、ガイドラインも大層なものを作る必要はありません。
極論、箇条書きで10行くらいの決まり事があるだけでも機能します。後から追加したり削除するのは全く問題ありません。クリエイティブに関する約束事が全く言語化・共有化されてない状況(=基準がないこと)を作らないのが重要です。
デザインガイドラインを作るメリットは以下の3つです。
明文化されたルールやガイドラインがあれば、それを元に制作したり議論したりすることができます。影響力の強い人の好き嫌いや一貫性のない意見に振り回されることもなくなります。
クリエイティブ制作をするにあたり、明確な基準点があるので、ゼロベースで作成することなく、ある程度のレベル感の広告を作ることができます。都度、決済者やクライアントに確認しなくて良いため、業務効率も格段に上がります。
一貫性のあるデザイン、コピーを広告露出し続けることができれば、企業の狙い通りのメッセージをお客さまへ届けることができるようになります。
一貫性というのは同じことを繰り返すということではなく、企業が真に伝えたいものをベースに、異なるアプローチ方法でお客さまに伝えるといったイメージです。
例えば、2021年6月に話題になったスターバックスの「47 JIMOTO フラペチーノ」キャンペーンが挙げられます。
スターバックス コーヒー ジャパンからの「プレスリリース(2021/06/23)」です。
都道府県のフラペチーノという面白いアイデアですが、スターバックスの行動指針「地域社会や環境保護に積極的に貢献する」を基になっている企画だということが伺えます。
【行動指針】
引用元:スターバックスコーヒー ミッション宣言|スターバックス コーヒー ジャパン株式会社 プレスリリース
・お互いに尊敬と威厳をもって接し、働きやすい環境をつくる
・事業運営上での不可欠な要素として多様性を受け入れる
・コーヒーの調達や焙煎、新鮮なコーヒーの販売において、常に最高級のレベルを目指す
・顧客が心から満足するサービスを常に提供する
・地域社会や環境保護に積極的に貢献する
・将来の繁栄には利益性が不可欠であることを認識する
デザインガイドラインの作成方法はこの後説明しますが、スターバックスコーヒーの企画のように、企業の理念をベースにデザインガイドラインを作成すると、誰からも反対が出ないという観点やゼロベースで考える必要がないことからもオススメです。
それではデザインガイドラインをどのように作るのかを紹介していきます。まず作成する前に以下の3つを確認しましょう。
大事なのは、ルールとガイドラインをはっきり分けることです。ルールは「規定」や「守るべきもの」であり、ガイドラインは「指針」や「基準」といった意味合いで使われます。
例えば、フォントで使用する色についてルールとして「#0E005D の使用」と定めたならば、これ以外の色は使ってはならないということになります。
一方で、イラストについて「柔らかくゆるいタッチのものを使用」などは厳密に定義しにくいので、あくまで指針としてガイドラインに記載すると良いでしょう。
「どちらも使用しても構わないが、こちらが望ましい」というケースの場合は、ガイドラインとして記載する事になります。
デザインガイドラインを作り始めるにあたって、まず会社やサービスの「ロゴ規定」を確認しましょう。なぜなら、ロゴ規定が広告クリエイティブの色を選択する際のベースになるからです。
ロゴ規定があれば、色の規定をサイトや広告のクリエイティブにそのまま当てはめることができ、見込み顧客や既存顧客に一貫性のあるイメージを持ってもらえることになります。
下記は、キーワードマーケティングのロゴ規定です。
ロゴ規定があるのであれば、サイトやランディングページ、広告のクリエイティブの色はその規定に合わせるのが本来の形といえます。
ロゴ規定がない場合は、会社や商品サービスのロゴの色を元に、「メインカラー」「サブカラー」「アクセントカラー」の3種を決めて、「特別なキャンペーン以外は原則この3種の色を使う」などとルール化すると良いです。
最後に「明らかに NG であるルール」を言語化していきます。
「なにをすべきか」を決めるのは難しいものなのですが、「何をしていけないか、何が嫌なのか、何がその会社(商品)にそぐわないのか」を言語化するのは簡単だからです。
例として、デザインガイドラインが公開されている Francfranc をもとに説明します。以下の文は、「グラフィックデザインにおける向上について」というページの「ブランドフォーマットとキャンペーンフォーマット」の項目に記載されている一部です。
特別で非日常的であるからこそキャッチーなビジュアル表現になりうる「キャンペーンフォーマット」が定番表現の「ブランドフォーマット」の露出を超えないようにデザインディレクターはコントロールしてください。
引用元:Francfranc Brand Identity Graphic Design グラフィックデザインにおける品質の向上について|Francfranc
これは、広告キャンペーンで限定的に使う表現が、通常のブランド訴求の露出量を超えるのは NG だということを指しています。
また、素人目には中々分かりづらいですが、「機械的センターと見た目センター揃え」という項目ではテキストの位置の NG ルールまで明文化されています。
事例のようなケースにおいて、機械的なセンター揃えは錯視により重心が下がってバランスが悪く見えることがあります。
引用元:Francfranc Brand Identity Graphic Design グラフィックデザインにおける品質の向上について|Francfranc
Francfranc ブランドのイメージを守るために、デザインディレクターやデザイナーは原寸や実物に近いサンプルでチェックを行い、ベストバランスでブランドロゴを配置してください。
上記は、機械的なセンター揃えは使わず、手動で調整しバランスを取るという明確な NG ルールと見て取れます。かなり細かいですが、さすが Francfranc といったこだわりを感じますよね。
「何が NG なのか」は、意見が分かれることも少なく、デザインガイドラインを作る初期段階のラフ案作りをするにはとても適しています。
デザインガイドラインは、以下のようなフレームワークで考えると良いでしょう。明確に「ルール」と「ガイドライン」は分けて記載します。
以下は、キーワードマーケティングのオフィシャルサイト制作におけるデザインガイドラインの作成例です。
当然サイト制作会社さんに、デザインを外注で依頼することになりますが、以下のようなクリエイティブ規定を作っておくことで、発注側も受注側も仕事がとてもスムーズに進められます。
まず始めに、クリエイティブ規程(ルール)として、フォント、カラー、ロゴの使い方などを定義しています。コーポーレートカラーからメインカラー、サブカラー、アクセントカラーを選んだり、入稿時のファイルフォーマットまでも指定しています。
また、NG ルールとして、使用してほしくない素材も定義しています。
フリー素材でよくありがちな「外でも多く使われている印象のあるもの」や「外国人モデル」を NG 素材としてます。
外国人モデルの素材は何も事前に伝えていないと、制作会社さんからの提案で入ってくることがよくあるので、NG であることを事前に伝えるだけで無駄が省けます。
最初に作成したデザインガイドラインの項目は多くないのですが、無いよりもあった方が遥かに効率が上がるものです。
特にカラー規定はデザインの主軸になり得るので、デザインガイドラインの有無でその後の仕事の効率には雲泥の差が出てきます。まだ作成していない場合は、フレームワークに沿って最低限の規定だけでも定めると良いでしょう。
デザインガイドラインは、一度作ったら終わりではありません。むしろ、スカスカのラフ案でもいいので、すぐに運用を始めるのが大事です。
何も基準がない混沌の状況ではプロジェクトはうまくいきません。まずは基準を作り、その基準に沿った上でクリエイティブの作成をし、もし議論をする時は、デザインガイドラインを出して、メンバーがすぐに確認できる状態にしておきましょう。
デザインガイドラインを作成したものの、結局決裁者やクライアントがそのデザインガイドラインにない基準で指示をしたり最終決定してしまうこともあります。
意思決定者はクリエイティブを多くの人に見てもらい、その結果に対して責任があるので、そういった決定をすること自体に問題はありません。問題はその後です。
既存のデザインガイドラインにない判断基準が新しく出てきたら、すぐに追加・変更をしましょう。
こうしたことをきっちりしていくと、責任のある人物の考えや哲学が言語化されていき、その人がいなくても良いクリエイティブができていきます。
「言語化」というと難しく感じるかもしれません。特にクリエイティブの意思決定は「なんとなく嫌だ」とか「なんかイメージに合わない」といった抽象的なものが多いからです。
そんなときは「言い換え提案」をいろんな確度から当てていって探りをいれていくと、言語化することができます。
弊社のロゴを例にして説明します。もし決裁者がこのロゴを「なんか嫌だなあ」という抽象的な判断をした場合、以下のように質問していきます。
担当者「嫌なのはロゴの形ですか?それとも色づかいでしょうか?」
決裁者「形がなんか気に食わないなぁ。」
担当者「形は2つの図形から成り立っていますが、右側の三角形が尖りすぎてますかね…?」
決裁者「いや、そういう話じゃなくて、全体のバランスが…」
担当者「なるほど。もしかして左右2つの図形の位置が離れてるのが気になりますか?」
決裁者「あぁ、そうかもねー。」
担当者「今後、図形は一体感のあるものにしていきましょうか?」
決裁者「そうだね!」
このようなやり取りがあれば、デザインガイドラインに、「図形で表現する場合は一体感のあるものにする」という項目が追加されるわけです。
ポイントは、「どこがだめなのですか?」とは聞かずに、極論を言えば当てずっぽうでもいいので、「ここがダメですかね?」と仮説を当てていくことです。
仮説は外れても良く、その仮説のある質問によって、「どこに違和感を持っているのか」を探り当てることができます。徐々に決裁者との認識が合ってくるので、決裁者の言った言葉を基にしてデザインガイドラインに落とし込んでいきます。
上記の例では、「三角形が尖ってるのが嫌なのか」という仮説を出していますが、結果的に外れています。しかしその質問によって、決裁者から「全体のバランス」というキーワードを引き出すことができているわけです。
ルールやガイドラインの追加や変更はもちろんですが、まるで機能していないルールやガイドラインは削除していくことも大事です。
ルールとして明確に書いてあるのに、誰も守っていない状態を許すと、秩序が崩壊し、生産性を失うことに繋がります。デザインガイドラインを育てていく気持ちで少しずつ自社の型を作っていくのが重要です。
ルールがある程度規定できたら、「何をすべきか」を明確にしていきます。この時に、「ルール(規定)」なのか、「ガイドライン(指針)」なのかは、悩む時がありますが、その場合は難しく考えずにガイドラインに追加します。
クリエイティブは発想やアイデアの勝負なので、ルールが過剰に多いのは当然やりにくくなります。ルールが2、3割で、ガイドラインが7、8割くらいのイメージでも良いかもしれません。
できるならば、クリエイティブを提案する担当者は、決裁者やクライアントに対して、提案や議論を始める前にデザインガイドラインをざっとでも良いので確認すると良いでしょう。
「デザインガイドラインを基に作成している」と始めに宣言しておけば、突拍子なことは言われなくなるのでおすすめです。
クリエイティブというものは、正解がありません。それでも何かしらの合意形成をもって、チームで良いもの作っていければいい仕事になっていきますよね。
デザインガイドラインがあれば、人の負の感情を避けながら、チーム全員の力で良いものを作っていく助けに必ずなっていきます。
創造する楽しみをぜひ皆で分かち合いながら、クリエイティブを作っていってください。
代表取締役会長
2003年、Googleアドワーズが日本でサービスを開始した直後より、検索キーワード広告とランディングページの実践・研究を行い、その成功理論を書籍『1億稼ぐ検索キーワードの見つけ方』で発表、5万部以上のベストセラーとなる。 キーワードマーケティングでは、設立時から延べ千社以上のアカウントを診断およびコンサルティングしており、現在は上場会社や成長率の高いベンチャー企業に対する広告運用代理事業を拡大している。
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