2022年2月に発表された「2021年日本の広告費」では、インターネット広告費が4マス(新聞・雑誌・ラジオ・テレビ)の広告費を初めて超えました。
また、不況に強いと言われるネット広告はコロナ禍においても着実に成長を続け、2020年は昨対比105.9%、2021年にいたっては昨対比121.4%と早くも揺り戻しともいえる大きな成長を見せています。
名実ともに「インターネット広告のマスメディア化」と言える状況となり、これまでテレビや雑誌で行われていた認知施策の選択肢としてネット広告が加えられることは想像に難くないのではないでしょうか。
実際、弊社でも YouTube 等を使った動画広告の相談も増えており「ネットで認知を起こしたい」というニーズの高まりを感じています。
一方で、ネット広告はコンバージョン数や顧客獲得単価(CPA)が計測できて当たり前という前提で認知施策に取り組んでしまうと「認知施策を試してみたけど何も起きなかったし、何も分からなかった」といった事態に陥ることも少なくありません。
本記事では、ネット広告を使った認知施策を実施する際に知っておきたい3つの壁と、ネット広告の特性を最大限活かし認知向上と CPA 改善の両立を実現する「クリック認知広告」について解説をします。
ネット広告の主流である運用型広告の最大の特徴は、「いつ」、「どこで」、「どんな」人が広告をクリックし、どれだけの広告費を使い、どれだけの成果につながったのかをほぼリアルタイムで計測・分析できることです。
しかし、認知施策として安易に動画広告を選択してしまうと、そういった運用型広告で当たり前にできていたことができないという問題に直面します。それがこれからご紹介する「計測の壁」「評価の壁」「閾値の壁」という3つの壁です。
運用型広告は、クリックやコンバージョン(購入や問い合わせなど)、さまざまなシグナルによって広告の成果を計測したり仮説立てたりできます。しかし、動画広告はクリックが発生しにくいフォーマットであることを念頭に入れておく必要があります。
ご自身の体験を思い返してみてほしいのですが、YouTube で流れる広告をクリックした経験はどれだけあるでしょうか。また、家のテレビで YouTube を見る方も増えているため、映像がどれだけ視聴されたのかを知ることはできても、広告に触れたユーザーがサービスに興味を持ったのか、その後サイト訪問してコンバージョンに至ったか等を計測することは原則できません。
Google も視聴した動画広告のサービスサイトを「スマートフォンに送る」といった機能をテストしているようですが、計測の壁を突破するのはまだまだ先になりそうです。
動画広告によってどれだけの認知向上が起きたかを知るためには、認知施策専用の調査を行う必要があります。
認知施策専用の調査方法として代表的なのが、各広告媒体が提供する「ブランドリフト調査」と不特定多数の人にアンケートを実施し「この CM に見覚えがあるか」などを回答してもらうアンケート調査があります。
私自身も実際に携わったことがあるのですが、ブランドリフト調査でわかるのはあくまでもその広告媒体内や期間内での結果のため、認知が向上したかを判定するには少なくとも2回は認知施策を実施し、自社のデータを相対的に評価する必要があります。
また、不特定多数の方を対象とするアンケート調査では、自社がターゲットとする顧客とアンケート対象者の被りが少なければ有為な数字が出ません。BtoB 向けサービスで仮説を立てられるほど十分なデータを取るのは難しい傾向があります。
テレビ CM の投下量を表す単位として GRP(Gross Rating Point)があります。
視聴率×放映回数で計算する「延べ視聴率」とも呼ばれる指標なのですが、認知の効果が現れる GRP には下記グラフのように閾値(しきい値)があることが知られています。閾値を超えるまではどれだけ広告費を使っても認知が起きないのです。
ネット広告における認知施策でも同様で、対象のターゲットに4回以上広告を見てもらって初めて認知効果が表れてくると言われています。
つまり、ブランドリフト調査やアンケート調査の結果として表れるほどの広告配信には、数十万人の方に最低でも4回以上の動画視聴が発生するだけの投下量が必要となり、1視聴1円と仮定しても数百万円の広告費がかかる計算です。
また、数百万円ほどの予算で実現できる露出量では自然検索数の増加もほとんど期待できないため、多くの企業にとっては「たくさん広告費を使ってみたけど、何が良くて何がダメだったかよくわからなかったね」という結論になる可能性が少なくありません。
獲得広告のみを実施してきた企業が急にネット広告を使った認知施策を始める際には、こうしたリスクもしっかりと理解しておくことが重要です。
では、獲得広告で成果が出た後に、ネット広告を使った認知施策を実施する場合、何から始めれば良いのでしょうか。以下は、運用型広告の特徴を5つに分類した図解です。
上図はマーケティングファネルを表し、「認知」から「今すぐ獲得」の5つのフェーズに分かれています。下に行くほど顧客獲得単価(CPA)は下がるが対象となる顧客数は限定されていくことを示しています。
例えば、ブランド名を含む検索広告は「今すぐ獲得」として使えるが、「ハイブリッド」であるオーディエンスカテゴリーなどのターゲティングの広いディスプレイ広告の場合、コンバージョン獲得はできるが検索広告に比べると CPA が高騰することを表しています。
さらに右側にはそれぞれのフェーズで有効なターゲティングメニューの一例(媒体名の記載がないものは Google 広告)を記載しています。獲得効率を考えた広告戦略においては、予算に応じて下から順番にメニューを増やしていくことが定石です。
前述の通り、動画を使った認知施策にはさまざまな壁が存在しますが、その問題を解決しつつ認知効果も期待できる配信手法が「クリック認知」です。
この「クリック認知」は、機械学習アルゴリズムによる広告配信を活用し、今すぐコンバージョンはしないが将来的に顧客になり得るユーザーに対して広告配信を行う方法です。
また、動画ではなくいわゆるバナー広告を使い、広告クリックによるサイト訪問を目的とするため、直接的なコンバージョンは発生しないながらも低クリック単価で大量のサイト訪問によって、ブランドキーワードの検索数増加や「今すぐ獲得」での CPA 良化など、さまざまな間接効果が期待できる配信手法です。
こうした配信手法を支えているのは Google や Facebook(Meta)広告の高度に進化した広告配信アルゴリズムです。
この数年でターゲティング精度が急速に向上し、大雑把なターゲティング設定でも顕在層はもちろん、潜在層にも非常に精度の高い広告配信ができるようになりました。
また、人間にはとても真似できない高度なクリエイティブ単位の出し分けも行われるようになり、広告内のメッセージをしっかりと設計することで顕在層はもちろん、将来顧客になり得るユーザーに対してもかなり正確に広告を届けることができるようになりました。
こうした仕組みをうまく活用することで、低クリック単価で見込み高い顧客のサイト訪問を大量に発生させることができるようになりました。
こうした大量のクリックによる認知を目的とした配信自体は以前から一部で行われていましたが、弊社でもすべてのお客様に自信を持って提案できない背景がありました。
なぜなら、「クリック認知」はデータで売上貢献を明確にすることができなかったためです。
通常、クリック認知の効果は1.5ヶ月から3ヶ月後に表れ、自然検索数の増加や獲得向けの広告の CPA 良化などの効果が出てきます。
しかし、最終コンバージョンへの貢献までにかかる時間が長過ぎるため、Cookie に依存した計測方法ではクリック認知の効果を管理画面で確認することが難しく、肌感覚では明らかな効果を感じることができても「本当に大量のサイト訪問による効果なのか」という問いに答えることが非常に困難でした。
データによる売上貢献を明確にできないことから、これまでなかなか導入が進まなかった「クリック認知」ですが、イルグルム社が提供する「AD EBiS(アドエビス)」を利用することで、大量のクリックによる認知効果がある程度定量的に計測できるようになりました。
ネット広告マス化の追い風もあり、ベンチマークとしてご紹介できるだけの実績が溜まってきたため、お客様の許可を得て加工した広告配信データを使ってご紹介したいと思います。
アドエビスとは、株式会社イルグルムが提供する広告効果測定プラットフォームで、広告や自然検索など様々な流入経路でのアクションを一括で管理し、コンバージョンに寄与した施策を可視化することができます。
※ 株式会社イルグルムとの資本関係はなく、本記事は PR を目的したものではありません
そのアドエビスで利用できる「アクション喚起率分析」では、広告で初回接触をした人の割合や、その人たちが広告以外の経路でどれだけサイトに再訪問したかを確認することができるようになります。
つまり、直接的なコンバージョンが発生しない「クリック認知」の後、広告に接触した人がサイトに戻ってきているかを計測することで、大量に発生したクリックに認知効果があったのかを類推できるようになりました。
こちらは、実際に弊社で広告配信をしているお客様の各キャンペーンの新規 UU 率とアクション喚起率をまとめた表です。
広告ターゲティング | 目的 | 新規 UU 率 | アクション喚起率 |
---|---|---|---|
検索広告(固有名詞) | 今すぐ獲得 | 67.1% | 83.5% |
検索広告(一般名詞) | 今すぐ獲得 | 96.2% | 19.7% |
ディスプレイ(サイト訪問者) | 今すぐ獲得 | 42.3% | 80.5% |
ディスプレイ(サーチターゲティング) | ハイブリッド | 99.0% | 19.0% |
Facebook(興味・関心) | ハイブリッド | 97.3% | 13.9% |
ディスプレイ(属性のみ) | クリック認知 | 99.4% | 7.6% |
検索広告(固有名詞)については、当然新規 UU 率が低くアクション喚起率が高いことがわかり、検索広告(一般名詞)では、新規 UU 率が高いものの20%弱の人が再訪問していることがわかります。
各キャンペーンの特性を考えれば当然のことのように見えますが、あくまでも広告運用者は管理画面の数値を見て調整しているため、管理画面上の成果とアクション喚起率分析によって得られるデータに相関性があるということが非常に重要なポイントとなります。
それでは、クリックによる認知を目的としたキャンペーンはどうでしょうか。
広告ターゲティング | 目的 | 新規UU率 | アクション喚起率 |
---|---|---|---|
検索広告(固有名詞) | 今すぐ獲得 | 67.1% | 83.5% |
検索広告(一般名詞) | 今すぐ獲得 | 96.2% | 19.7% |
ディスプレイ(サイト訪問者) | 今すぐ獲得 | 42.3% | 80.5% |
ディスプレイ(サーチターゲティング) | ハイブリッド | 99.0% | 19.0% |
Facebook(興味・関心) | ハイブリッド | 97.3% | 13.9% |
ディスプレイ(属性のみ) | クリック認知 | 99.4% | 7.6% |
ターゲティングは属性のみ(性別・年齢など)を設定しているため、新規 UU 率は99.4%と非常に高いのですが、7.6%の人が再訪問していることがわかります。
広告の管理画面上ではコンバージョンはほとんどつかないターゲティングのため、アドエビスによるデータがなければ「ただ広告をばら撒いているだけ」とも見えてしまうキャンペーンですが、7.6%の人には何かしらの認知効果があったことがわかります。
弊社での実績からも、アクション喚起率が5%以上あれば認知効果があると考えています。
例えば、クリック認知に月300万円の広告費を利用できる場合、約20万から30万回のクリックが発生し、そのうちの5%がサイトに再訪問しているのであれば1万人から1万5,000人に対して、広告で何かしらのニーズ喚起を発生させることができたと考えることができるわけです。
このように、これまで難しかった認知向けの広告の分析・改善が精緻にできるようになっただけでなく、ネット広告のマス化という大きな流れの中で、本当に効果のある認知施策が実施できるようになったことは、2022年以降の広告戦略を考えるうえで決して無視できない変化と言えるでしょう。
インターネット広告市場の急伸によって、ネットを認知施策として利用しようとする動きがにわかに盛り上がっています。
また、BtoB 企業を中心としたタクシー広告の盛り上がりや、テレビ CM の効果を可視化するプラットフォームの台頭など、その活況に触れる機会も少なくありません。
しかし、そんな折にこそ「広告をクリックしている」「広告クリックした後にサイトに再訪問している」といった、PC やスマートフォンの向こう側にいる顧客一人ひとりの行動にしっかりと向き合うことが大事ではないでしょうか。
「管理画面上のコンバージョンとして計測されない」ということは、必ずしも「広告効果がない」とは言えません。本記事はタクシー広告や動画広告それ自体を否定するものではありませんが、多くの広告費を必要とする認知施策です。今回ご紹介する「クリック認知」も選択肢のひとつとして考えてみてはいかがでしょうか。
代表取締役社長
1989年生。愛知県名古屋市出身。2016年7月よりキーワードマーケティングに入社。ニアショア拠点である九州佐賀支社の立ち上げに携わり、広告運用のオペレーションセンターの立ち上げを成功させる。オウンドメディアを立ち上げ、年間350件以上のお問い合わせを生むメディアへと成長させる。2019年4月に取締役COOとして組織運営に参画、2024年3月より代表取締役社長に就任。
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