2008年からキーワードマーケティングに在籍し、以降10年以上広告運用に携わっている小島です。
広告運用歴が長くなればなるほど、「果たしてこの数値は正しいのか?」という不安が出てきます。特にコンバージョンは、一般的にクライアントの事業を左右する成果指標でもあるため、どうしてもナーバスになりがちです。
カートシステムで完結するような EC ビジネスであれば、管理画面上でのコンバージョンと実際の販売数が大きくずれることは稀でしょう。しかし「問い合わせ数」や「予約数」、「受電数」をコンバージョンポイントにしている場合は、往々にして管理画面上のコンバージョン数と実際のコンバージョン数にズレが生じます。
ITP(Intelligent Tracking Prevention:トラッキング防止)の影響による計測精度の問題などでは説明がつかないほど激しく乖離する場合、その背景にあるのが「不正クリック」や「不正コンバージョン」と呼ばれる行為です。
この記事では、不正クリックと不正コンバージョンが一体どのようなものかに加え、その見抜き方や対策方法について紹介します。
昔から問題視されていた不正クリックに加え、近年では不正コンバージョンの存在も顕在化してきています。
まずはこの「不正クリック」と「不正コンバージョン」について、それぞれ詳細と現状を説明していきます。
不正クリックとは、業者などが悪意をもってサービス利用を目的としないクリックを繰り返す行為を指します。bot やツールを使用して大量のクリックを発生させる手法が一般的です。
また、広告を表示させるサイトが、意図的にユーザーに誤ってクリックさせるようなデザインにすることで、ユーザーが誤って広告をクリックするよう仕向けるといったケースも含まれます。
いずれの場合も、広告費を無駄に使わせること、もしくは広告費の一部をメディアから盗み取ることを目的とした行為として、問題視されています。
不正クリックをはじめ、インプレッション数やクリック数を詐欺的手法で増やすことで、広告主から不正に広告費を奪う行為は「アドフラウド」と呼ばれています。
広告主(アドバタイザー)がプラットフォームなどに広告を出稿して広告費を支払っているにもかかわらず、実際には広告主にとって望ましい成果にまったくつながらない、詐欺的な広告の消化がされているものを指す。
アドフラウド とは 意味/解説/説明 | Web担当者フォーラム
アドフラウド対策を専門とする Spider Labs(スパイダーラボズ)のコメントによると、2022年の日本国内における不正クリックによる被害額は約1,300億円と推定されており、前年から10%増加しています。
参考:「1000万円の広告費」はなぜ消えた? ネット広告の闇と対策法|日経 X トレンド
不正コンバージョンは、実際には購入や申し込みといったコンバージョンが発生していないにもかかわらず、発生したと偽装する行為です。具体的には、コンバージョンに関するデータにノイズを入れることで、正確なデータ分析を困難にすることを指します。
マーケティングの効果測定に悪影響を及ぼす点だけでなく、本来コンバージョンにつながっていないキーワードに広告投資が集中するなど機械学習に不具合を生み出して、広告の効果を低下させる点も問題視されています。
なお、「コンバージョンに関するデータにノイズを入れることで、正確なデータ分析を困難にすること」とある通り、この不正コンバージョンは自動入札を狙った不正行為です。
そのため、自動入札が本格的に稼働する2018年より前にはほとんど発生していません。私が見てきた限りでは、とりわけここ1、2年で急激に顕在化してきたように感じています。
不正クリックと不正コンバージョンには、発生しやすい状況・設定があります。ここからは検索連動型広告に的を絞って、それぞれが発生しやすい状況を紹介します。
ただし、前提として「発生しやすい状況だから Web 広告を止めるべき」や「発生しやすい設定だからしてはダメ」という話ではないことに留意してください。
検索連動型広告の場合、不正クリックは平均クリック単価が800円以上するような高い業種でより多くみられます。
この背景にあるのは、大きく分けて以下の2つとされています。
1. そもそも競合との競争が激しい傾向にあり、不正が起こりやすい土壌がある
2. クリック単価が高い分、不正クリックされた際にダメージを受けやすい
とはいえ、これは運用担当者側で何とかできる話ではありません。そのため「平均クリック単価が800円以上」のような検索語句がある場合、現状できることは後述する確認方法を使って確認の頻度を増やすことくらいになってしまいます。
特に不正コンバージョンが発生しやすいのが、「電話番号のタップ」をコンバージョンポイントとしている場合です。具体的に言うと、2ステップビジネスや来店型ビジネスなど、電話番号をクリックして電話をかけられるサイトをランディングページとして用いている場合といえます。
この場合、管理画面上に表示される電話番号のタップのコンバージョン数と、実際に受電した数を定期的に比較する必要があります。
実際のところ、不正コンバージョンではなかったとしても、サイトのデザイン上ミスタップしやすい位置に電話番号がある場合などもあります。そのため、あまりにコンバージョン数と受電数に乖離が見られる場合は、電話番号のタップのコンバージョンを自動入札のデータとして使用しないなどの対策も必要です。
キャンペーンの設定で、Google では検索パートナー、Yahoo! では検索ネットワークへの広告表示をしていると不正クリック・不正コンバージョンが発生しやすくなります。
検索パートナーの中には YouTube や Google マップといった成果が出やすいサイトも含まれており、クリック単価も比較的安くなりやすいため、本来なら出しておきたいところです。
しかし、中には不正クリックや不正コンバージョンを発生させるようなサイトも含まれています。また出したくないサイトを除外したり、出したいサイトだけに設定するなどの調整ができないため、不正クリックや不正コンバージョンが頻繁に発生する場合には、検索ネットワークへの広告表示はしないように設定するしかありません。
なお、検索ネットワークに広告が出ているか確認する方法と配信を止めるための設定方法は記事後半で紹介するので、そちらをご覧ください。
正直なところ、17年間も管理画面を見続けていると、ある程度以上の規模の不正クリックや不正コンバージョンは管理画面内のデータの違和感から気づくことができます。
そのため、最大の解決策は「経験を積むこと」、言うなれば “Don’t think! Feel.” である・・・と言いたいところですが、これでは何の解決にもなりません。
そこで、まずは検索連動型広告における不正クリックと不正コンバージョンへの対策として、不正クリックに気づくための確認方法を紹介します。
不正クリック・不正コンバージョンに対応するためには、まずその発生に気づく必要があります。では、どうしたら気づくことができるのかというと、これはこまめに管理画面を確認するしかありません。
そこで、まずは不正クリックや不正コンバージョンに気づくための確認方法を、以下の3ステップに分けてお伝えします。
まずは全キャンペーンを表示させた状態で、表示回数・クリック数・平均クリック単価・コンバージョン数などの推移を見ます。
実際のところ、この段階ではなかなか異常値に気づくことはできません。ただ、稀に大きな変動に気づくことがあります。
そのほとんどは、例えば「テレビで取り上げられて一時的にインプレッション数やクリック数が伸びた」といったものでしょう。ただ、こうした大きな変動の中に、不正クリックや不正コンバージョンが潜んでいることもあります。
そのため、もし大きな変動がある日を見つけたら、まずはその日の周辺を中心に検索語句の成果を確認していきましょう。
次に管理画面で検索語句の成果確認をおこないます。
この前段階で、Google であれば検索キーワード、Yahoo! の場合はキーワードを確認する場合もありますが、実際に検索された語句の方が気づきは多いため、私の場合は直接こちらを見ます。
Google 広告では、「キャンペーン」の「分析情報とレポート」内にある「検索語句」をクリックして表示させます。
Yahoo! 広告では管理画面左にあるメニュー内の「検索クエリー」をクリックして表示させます。
検索語句を確認できる画面に遷移したら、まずは下記のような検索語句がないかをチェックしましょう。
難しそうに感じるかもしれませんが、意外と分かりやすい形で不正は見つかります。特に不正コンバージョンの場合はあからさまな場合が多いです。
例えば「キーワードマーケティング 2」「キーワードマーケティング 3」のように検索語句の末尾に不自然に番号がついていたり、Google 広告であれば Google 検索と検索ネットワークでクリック数やコンバージョン数に大きなずれがあるなど、一見して違和感があることが分かるかと思います。
次に、各検索語句を日別で期間比較します。
Google では16日間分しか日別にデータを表示できないため、データの期間は2週間程度で設定しましょう。
Yahoo! ではこうした縛りがないため、もっと長期間の日別データを表示することが可能です。ただし、Google と条件をそろえる場合はこちらも2週間程度で設定しましょう。
次にデータを費用(Yahoo! ではコスト)でソートします。これは、広告費を多く使っている検索語句から順に確認できるようにするためです。
費用・コストでソートしたら、次は日別に見られるようにします。
Google の場合は「分類」内の「時間」の中にある「日」をクリックすることで、各検索語句のデータが日別に表示されるようになります。
Yahoo! の場合は「分割」内の「日」をクリックすることで、各検索クエリーのデータが日別に表示されるようになります。
検索語句ごとに日別の時系列でデータを見ていくと、ある日突然表示回数やクリック数が一気に伸びているところがあります。そういった検索語句は不正クリックされている可能性が高いです。
同様に、コンバージョンがある特定の日に一気に付いている場合には、不正コンバージョンを疑う必要があります。
不正クリック、不正コンバージョンの疑いがある検索語句を見つけた場合は、Google であれば「分類」を「ネットワーク(検索ネットワークを含む)」にしてみましょう。
Yahoo! では、「分割」から「広告を表示する検索画面」にしてみます。
この状態にしたときに、該当する検索語句で表示回数・クリック数・コンバージョン数が異常に伸びているのが「検索ネットワーク」(Google)または「その他の広告掲載方式」(Yahoo!)だった場合には、不正クリック・不正コンバージョンの可能性がより高くなります。
どのくらいの頻度でこの確認をすべきかですが、比較期間が2週間程度なので、やはり2週間に一度はすべきでしょう。
除外キーワードの選定などで週一度は検索語句の確認はすると思いますが、その際に一緒に確認するという認識で問題ありません。
また、月一度程度はもっと長い期間、つまり半年分のデータなどで変な動きがないかを確認するとなお良いでしょう。検索語句の分析のみならず、じわじわと時間をかけて変化している部分などは、ある程度長期間のデータ分析でないと分からないからです。
その際は、分類(分割)は「日別」ではなく、「月別」や「週別」などを使うのをおすすめします。
この検索語句のデータの見方では1つ注意点があります。それは、1つの検索語句が2つのキーワードに対応して広告表示された場合、1つの検索語句がリスト内で2つに分かれて表示されてしまう点です。
例えば「クロワッサン 価格」という検索語句で検索した際に、広告グループ A のキーワード「クロワッサン」と広告グループ B のキーワード「クロワッサン 値段」に対応して、広告が表示されたとします。
この場合、「クロワッサン 価格」で検索したのは1回だけですが、リスト内ではキーワード「クロワッサン」に反応して表示された場合と「クロワッサン 値段」に反応して表示された場合の2つに分割されます。
その結果、以下のように同一キーワードで2回検索されたかのように表示されるのです。
検索語句 | 対応するキーワード | 広告グループ |
---|---|---|
クロワッサン 価格 | クロワッサン | 広告グループ A |
クロワッサン 価格 | クロワッサン 値段 | 広告グループ B |
このような性質から、厳密に検索語句を分析する際には Excel のピボットテーブルなどで検索語句ごとに集計する必要があります。ただ、不正クリック・不正コンバージョンを見つけ出す用途であれば、この点に留意しながらリストをみていけば問題はありません。
そもそも、不正クリックや不正コンバージョンは「根絶」がきわめて難しいです。そのため、考えるべきは「いかにして不正クリック、不正コンバージョンを減らすか」となります。
広告費全体の数%程度の発生だと、現実的には「これは広告出稿の税金だ」と割り切った方が結果的に安くすみます。Yahoo! や Google といった媒体もできる限りで不正クリックを排除するように動いていますので、そこは信頼すべきでしょう。
ただ、あまりに極端な不正クリックが発生する場合には、当然ながら数を減らすための対策が必要です。
ここからは不正クリックや不正コンバージョンを減らす対策として、「検索パートナーへ広告が表示されないようにする」方法を紹介します。
「不正クリックや不正コンバージョンが発生しやすい状況とは」でも少し触れましたが、検索パートナーの中には成果が出やすいサイトが含まれている一方、不正クリックや不正コンバージョンを発生させるようなサイトも含まれています。
加えて、検索パートナーでは出したくないサイトを除外したり、出したいサイトだけに設定するなどの調整ができないため、不正クリックや不正コンバージョンが頻繁に発生する場合には、検索パートナーへ広告が表示されないよう設定するしかないのです。
初期設定状態では Yahoo!・Google ともにすべての検索パートナー・検索ネットワークに出稿する状態になっているため、キャンペーン設定を変更する必要があります。Yahoo! の場合、検索ネットワークパートナーへの配信自体を止めることはできませんが、不正クリックにつながりやすい掲載面への配信を止めることはできます。
検索パートナー・検索ネットワークの設定方法は、Google と Yahoo! で異なります。以下で手順を紹介するため、自社のアカウントでも確認してみましょう。
Google 広告の場合、管理画面の「キャンペーン」内にある「設定」から設定を変更できます。
タブが切り替わったら任意のキャンペーン名をクリックし、遷移した画面で「ネットワーク」箇所を確認しましょう。「Google 検索パートナーを含める」であれば、検索パートナーへ広告が表示されています。
設定を変更する際は、「Google 検索パートナーを含める」の左側にあるチェックボックスをクリックし、チェックを外しましょう。
Yahoo! 広告の場合、管理画面の「キャンペーン」画面にある各キャンペーンの「編集」から変更可能です。
「設定」をクリックすると以下のような画面に遷移するため、「広告を表示する検索画面」の箇所を確認しましょう。「全て(推奨)」であれば、検索パートナーサイトの検索結果以外にも広告が表示される可能性があります。
設定を変更する際は、「全て(推奨)」の下にある「ウェブサイト検索のみ」を選択しましょう。「ウェブサイト検索のみ」を選択すると、「検索サイトの検索結果での広告表示」での配信に絞られます。
なお「ウェブサイト検索のみ」にしても、bing や excite などの提携パートナーへの配信は止まりません。
参考:広告を表示する検索画面について【検索広告】|Yahoo! 広告ヘルプ
この設定はキャンペーン単位で可能なので、不正クリックや不正コンバージョンが発生しにくいキーワードだけを集めて別キャンペーンを作成し、そちらは検索ネットワークに広告表示する、という手段をとってもかまいません。
検索連動型広告以外の広告、例えばディスプレイ広告などでは、実際の配信先のサイトを一つずつ確認したうえで、成果に繋がらないサイトを除外していくしかありません。
相当大変な作業ですが、広告費を使っているサイトから順番に見ていくと大きな見落としのミスはなくなります。
また「海外ドメインは全部除外する」などのルールを設け、一斉に除外してもよいでしょう。
その他の対応策として、X-log などの不正検知ツールを利用するという手段があります。
ここで紹介した検索語句・検索クエリーの分析で、怪しい動きが多く見られる場合には、まずは無料プランから導入を検討してもよいでしょう。
月数百万円以上の広告予算規模の場合は有料で継続して使用してもよいのですが、それ以下の広告予算規模の場合はツール使用料を上回る不正クリック防止ができない可能性があります。ツールの使用にかかる費用や、ツールの誤作動のリスク、実際にどこまで排除できるかなどを天秤にかけて考えるのが好ましいです。
なお、X-log では IP アドレスでのブロックが可能なのですが、だからと言って何もかも一律でブロックすると通常のユーザーもブロックしてしまいますので注意が必要です。ビジネスにとって機会損失は悪ですので、ブロックは海外からの流入など明らかにおかしなものに限るべきでしょう。
これから先、残念ながら不正クリック・不正コンバージョンは増えていくと私は予想しています。
広告市場の中で、競合状態は激化の一途を辿っています。また不正クリック・不正コンバージョンの温床となる「質の悪いサイト」を作る労力は、生成 AI の誕生によって極限まで減っていくことも予想されるためです。
ほとんどの運用担当者は、広告の世界に矜持を持って運用していると思います。しかし「悪貨は良貨を駆逐する」という言葉もある通り、数%の悪意を持った担当者が矜持を捨て、悪質な手段をとると、広告の世界が崩壊する危険性すらあると私は思っています。
これに対抗するには、広告運用担当者一人一人が不正クリック・不正コンバージョンなどの知識を蓄え、この記事で紹介した方法で不正を見破り、自衛していく必要があると考えています。
オーストラリアで可決された「16歳未満の SNS 利用を禁止する法律」に、 OpenAI など AI 検索ツールを作る会社の多くが目指す「広告なき世界」。そして、アメリカの司法省が Google に要求した 「Chrome の売却」。これらの根底には、Google や Meta が掲げる「広告売上最大化方針」に対する世間の見る目の変化があると考えています。
最近は検索連動型広告でも、認知は広まるものの、一気にコンバージョンに繋がるようなクリックが減っているように感じます。広告運用担当者の中では「刈り取りの広告」という認識でも、ユーザーからは「でも、広告なんでしょ」と一歩引かれて見られているのかもしれません。
ただ、少なくともキーワードマーケティングは「誰かの人生の、分岐点をつくる」というミッションのもと、広告の力を信じて、少しでも多くの方が少しでも Happy になれるようできる限りのことをしています。
今回紹介した不正クリック・不正コンバージョンをはじめ、広告の世間的価値を貶める行為に対して運用担当者が負けずに立ち向かい、克服する。そんな「良貨が悪貨を駆逐する」稀有な例を我々が作れれば、少しだけ世の中が良くなるのではないでしょうか。
広告運用 コンサルタント
慶應義塾大学経済学部卒業。2008年からキーワードマーケティングに在籍、 以降10年以上、広告運用に携わる。離脱率の低さに定評があり2008年から 運用を続けているクライアントも多い。趣味は音楽、楽器演奏。依頼を受けて プロのバックを務めることもある。愛知県犬山市出身。
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