2024年10月末現在、「AI 検索」という言葉はまだ聞き慣れないものかと思います。しかし、特に広告運用者にとっては「知らない」では済まされない言葉です。
生成 AI の急激な進化とともに、検索機能を内包したさまざまな AI ツールが登場しています。検索エンジンの機能を持つ以上、広告運用者はただ興味を持つだけにならず、少なくとも以下の2つの視点からキャッチアップし、Web マーケティングにおける対策を考えていく必要があります。
1. AI 検索は検索行動にどう影響を与えるか?
2. AI 検索が表示する検索結果に対して、広告や SEO などのマーケティング施策は有効か?
どちらの視点も、広告運用担当者にとっては仕事に直結する重要なポイントです。そこで、この記事では「AI 検索」について、上記2つの視点から私個人の見解も含めて紹介します。
そもそも AI 検索とは、Perplexity(パープレキシティ)や Genspark(ジェンスパーク)に代表される、生成 AI を使った検索サービスのことです。
LLM(※)や機械学習などを利用して、ユーザーが検索窓に入力した言葉からより深く検索意図を解釈し、検索エンジン機能でネット内の情報を収集して、生成 AI の機能でまとめて「回答」として表現します。
「AI 検索」という言葉自体がつい最近現れたものなので、正直なところ定義は曖昧です。ですので、ここでは「AI 検索」を以上のように定義して話を進めていきます。
※LLM:膨大なデータセットとディープラーニング技術を用いて、言語の理解と生成をおこなう AI モデルのこと。人間に近い流暢な会話が可能。
代表的な検索エンジンと言えば Google ですが、実際 Google の検索でも「ユーザーの検索意図を LLM や機械学習などを利用してより深く理解する」ことはすでにおこなっています。
ただ、Google の検索エンジンでは、Google のシステムがユーザーにとって有益な検索結果であると考える順にリスト化しているので、「収集した情報を生成 AI の機能でまとめて表現」はしていません。
ここでは、AI 検索の一つである Perplexity(パープレキシティ)を例に、AI 検索が具体的にどのような動きをするツールなのかを見ていきましょう。
まずは、トップ画面の「何か検索…」に検索クエリや知りたい情報を文章で入力します。
文章やクエリを入力したら、「→」ボタンをクリックします。
検索された結果を生成 AI がまとめて答えを返してくれます。
このように、AI 検索は体裁こそ ChatGPT などの生成 AI とほぼ同じような UI となっていますが、あくまで「検索」を軸としたものです。そのため、基本的に Google での検索同様、検索窓にクエリを入力して検索してもらう形をとります。
AI 検索にはいくつか種類がありますが、代表的なものを6つ取り上げてみたいと思います。
2024年10月末現在で代表的なものの特徴などをまとめてお伝えします。
Perplexity(パープレキシティ)は、サンフランシスコに本社を置く Perplexity AI, Inc.が2022年にリリースした AI 検索です。
無料版と有料版があり、有料版の価格は月額20ドルです。ソフトバンクと提携していることから、現在ソフトバンクやワイモバイルなどの携帯ユーザーは1年間無料で利用することができます。
内部での検索には、Google や Bing のインデックスが使われているようです。ただ、ランキングのアルゴリズムは独自のものを使用しているとのことです。
【参考】
The best AI search engines in 2024 | Zapier
AI検索エンジン「Perplexity」の中の人に「どんな広告を表示するの?」「日本ではどう展開するの?」などいろいろ聞いてきた | GIGAZINE
また検索意図の解釈や回答の生成には、基本的に Open AI の GPT-4o を利用しているのですが、日本語に強いと言われている Claude 3.5 Sonnet なども利用可能です。
Perplexity は AI 検索の先駆けであり、ここから AI 検索が始まったと言っても過言ではありません。ほかの AI 検索同様、情報の根拠となる引用元サイトの URL を表示し、ファクトチェックがしやすい形で情報を提供してくれます。
なお、Perplexity では2024年第4四半期から広告の導入を開始予定とアナウンスされています。Nike や Marriott などの大手ブランドとすでに協議を進めており、プレミアムブランドをターゲットとした広告展開を目指しているようです。
【参考】
How Perplexity AI’s bold advertising move is shaking up AI searching | spark
AI Firm Perplexity Reportedly Plans New Advertising Model | PYMNTS
Genspark(ジェンスパーク)は、MainFunc 社から2024年にリリースされた AI 検索です。
リリースは比較的最近ですが、とても使いやすく、返ってくる結果も良質なため、一気に人気が出ています。2024年10月末現在はまだベータ版ということで無料で使えますが、かなり使えるツールなので、将来的には月額制の課金が始まるでしょう。
検索に使われているエンジンや回答の生成などに使われている生成 AI については情報がありませんが、おそらく既存のツールを独自に改良して使用しているのではないかと思われます。
Genspark の一番の特徴は、調査した結果から「Sparkpage」というブログ記事のようなページを自動作成してくれる点です。プロンプト(クエリ)の内容にもよりますが、以下の事例のように非常に分かりやすい形で Sparkpage にまとめてくれるので、重宝します。
Genspark ですが、以下のようにその設計思想が「広告やスパム、バイアスのかかった情報に挑戦する」というものであるため、現時点では広告が入り込む余地はないと思われます。
In an era overwhelmed by data yet starved for meaningful information, traditional search engines often falter, drowning users in ads, spam, and biased content. Genspark is here to dismantle these old barriers.
【和訳】
Welcome to Genspark, the AI Agent Engine | MainFunc
データに打ちのめされる一方、意味のある情報に飢えている時代。従来の検索エンジンは、ユーザーを広告やスパム、偏ったコンテンツに溺れさせてしまうことに、行き詰まりを覚えるようになりました。このような過去の障壁を突破するため、今ここにいるのが Genspark なのです。
Copilot(コパイロット)は、Microsoft 社が2023年にリリースした AI 検索機能です。少々ややこしいのですが、Microsoft では AI 関係のサービスを全て Copilot と呼んでいるため、例えば Microsoft 365(オンライン)の Excel などに使われているものも Copilot と呼ばれます。
その中でも、いわゆる AI 検索は Microsoft Copilot のページか、もしくは Microsoft のブラウザである「Edge」から利用できます。
検索に使われるエンジンは Bing が、回答生成などは Microsoft 社と協力関係にある Open AI 社の GPT-4などが使われていると言われています。
料金は通常無料ですが、個人用の有料版(pro)は月額3,200円です。有料版は混雑時に優先的に高性能なモデルを使用できたり、画像生成が1日100回まで増えたりと、より快適に利用できるようになるほか、Microsoft 365の Excel や Word などでも使用することができるようになります。
2024年7月あたりから Copilot 周りは静かだったのですが、2024年9月末になって Genspark の「Sparkpage」のような「Copilot page」という機能の追加が発表されるなど、しっかりと進化していくようです。
無料版でも結構使えますし、Edge から簡単に利用することもできるので、AI 検索や生成 AI を利用したことがない方は、まずは Copilot から使ってみるのもよいのではないでしょうか。
AI Overviews(AI による概要)は Google が開発した新しい検索の機能で、生成 AI を活用して検索結果の概要を表示するものです。以前から「SGE(Search Generative Experience)」としてテストされていた機能で、日本では2024年8月からリリースされています。
検索に使われているのは当然 Google で、回答を生成するのは Google の生成 AI「Gemini」が使われていると言われています。
Google の検索結果画面に表示されるため無料で利用できる一方、「AI Overviews はいらない」と思っても簡単に消せません。2024年10月末時点で Ai Overviews を消すためには、Chrome の機能拡張「Hide AI overviews in Google search」を利用するなどの必要があります。
また、日本では開始されていませんが、アメリカでは AI Overview 内に広告が表示されます。P-MAX キャンペーンなどから広告出稿できるのですが、どれだけ表示されてどれだけクリックされたかなどのデータを取得することはできないようです。
ChatGPT Search(チャット GPT サーチ)は、生成 AI の雄・Open AI 社が発表した新しい AI 検索です。
これは、元々 Search GPT(サーチ GPT)として2024年7月にリリースされていたものが、10月31日に ChatGPT の機能の一部として実装されたものです。2024年10月末時点では有料版の方とプロトタイプに申し込んでいた方から使えるようになっています。
ChatGPT Search の特徴は、検索したうえで取り込むコンテンツについて、そのコンテンツの権利を持っている方からしっかり同意を取る方針がある点です。昨今、AI の学習に使われたデータの著作権関係の問題がクローズアップされていますが、ChatGPT Search はその辺りも考慮した「社会的な取り組み」として開発されている側面があるようです。
2024年9月11日に発表された Felo(フェロー)は、日本のスタートアップ企業 Sparticle Inc.が開発した AI 駆動の検索エンジンです。検索に使われているエンジンについて明確な情報はありませんが、複数のエンジンで検索していて、また SNS の情報も取り込んでいるようです。
クエリの解釈や回答の生成には GPT-4o が使われていて、o1や Claude なども利用できます。
無料版と有料版があり、有料版は2,099円/月です。GPT-4o 以外の生成 AI は有料版で使用でき、無料版でも1日5回まで使えます。
Felo の一番の特徴は、検索した内容を自動で PowerPoint にまとめてくれる機能です。
さらに、マインドマップも自動で作ることができます。マインドマップの自動作成で有名な Mapify ほど高機能ではありませんが、無料で気軽にマインドマップの自動作成を試せます。
ここまでに紹介した AI 検索、種類も特徴もさまざまなので混乱してしまう方も多いのではないでしょうか。
以下に、今回紹介した AI 検索の名前と提供元、特徴を一覧化してみました。AI 検索に関する情報の整理に、ぜひ活用してみてください。
名称 | 提供元 (リリース年) |
有料・ 無料 |
特徴 |
---|---|---|---|
Perplexity | Perplexity AI, Inc. (2022年) |
無料版と有料版がある | |
Genspark | MainFunc 社 (2024年) |
無料(2024年10月末現在) | |
Copilot | Microsoft 社 (2023年) |
無料版と有料版がある | |
AI Overviews | Google (2024年) |
無料 | |
ChatGPT Search | Open AI 社 (2024年) |
有料 | |
Felo | Sparticle Inc. (2024年) |
無料版と有料版がある |
AI 検索に限らず、生成 AI 周りの進化は強烈なスピードで進んでいます。1週間情報を追わないと、すぐに浦島太郎状態です。
そのため正直なところ、この先どのような世界が待っているかを推測するのはかなり難しいと言えます。ただ、AI 周辺はこれからもどんどん進化していくのはほぼ確定しているため、ただ興味を持って眺めるだけにならず、Web マーケティング周りに与える影響も考えたいものです。
そこで、ここからは AI 周辺、特に AI 検索の進化が検索行動をどう変えるか、またその影響で Web マーケティング周りはどのように変化するかについて、私自身の個人的な考えを紹介します。
実際に AI 検索を使っている身としては、AI 検索に「こんな便利なものはない」と感じています。特に「これ、何だっけ?」というような、情報収集を目的とした検索(インフォメーションクエリでの検索)は AI 検索での検索が非常に便利です。
一方、会社名など固有名詞を調べる場合は Google 検索で調べた方が早いですし、商品購入や問い合わせを目的とした検索の場合は、AI 検索の結果だけでは数も少なく偏りもある気がして、心もとなく感じます。
仮にこの私の感じたことが一般的な意識であり、AI 検索を皆が使うような世界になったとしたら、検索全体の80%を占めると言われているインフォメーションクエリでの検索が減少する可能性が高いと推測しています。
これにより、一時的にコンバージョン確度の低いクエリでの広告クリックが減少し、検索連動型広告は効率が良くなる可能性もあります。
ただ、購入プロセスの初期段階(Attention、Interest の段階)での接触機会が減少するため、検索チャネル以外の場所で興味を惹いたり、会社を知ってもらう手法を考える必要が出てきます。
なお、キーワードマーケテイングでは第三者による客観的な情報発信によってコンバージョンにつながる検索流入を直接的に創出する「SCM」という手法をご提案しています。興味をもたれたら、以下の記事をご覧ください。
検索創出型マーケティング(SCM)とは。先行事例の紹介やインハウスでも取り組める方法を解説|キーマケのブログ|株式会社キーワードマーケティング
「検索創出型マーケティング(Search Creation Marketing)」とは、第三者による客観的な情報発信によって、コンバージョンにつながる検索流入を直接的に創出する手法です。 具体的には、PR による客観的な情報発信によってビジネスインパクトのあるキーワードでの検索を生み出し、検索広告の制約である「検索数やバリエーションの頭打ち」を解消することができます。
2024年10月末時点で、AI 検索での広告表示を表明しているのは Perplexity と AI Overview だけです。Genspark は明確に「広告を排除した世界」を理想としていますし、Open AI もあまり広告での収益モデルに興味がなさそうです。
いずれにしろ、AI 検索がどんどん性能が良くなり、世間に浸透したならば、やはり Google のようなリスト形式での検索結果は面倒なので廃れていくでしょう。仮にそうなった場合、SEO や検索連動型広告などの Web マーケティング手法は通用しなくなる可能性は高いです。
そもそも Google も、創始者のセルゲイ・ブリン氏やラリー・ペイジ氏が、広告で収益を得るモデルに対して危惧していました。以下のセルゲイ氏の発言の冒頭からも、そのことが分かるかと思います。
Currently, the predominant business model for commercial search engines is advertising. The goals of the advertising business model do not always correspond to providing quality search to users.
【和訳】
Google: Advertising and search engine bias|ZDNET
現在、広告はスポンサーのついた検索エンジンにおける主要なビジネスモデルとなっています。しかし、広告ベースのビジネスモデルの目標は、必ずしもユーザーに質の高い検索結果を提供することと一致しません。
ただ、Web マーケティングの本質は広告の売買や裏技のような SEO テクニックではないと私は考えています。
もちろん現時点では、広告運用担当者はクライアントから効率的な広告運用を求められています。 AI 検索など新しい技術が当然の世の中になれば、そういった技術的なノウハウは陳腐化するかもしれませんが、そのような技術習得を通じて学んだ Web マーケティングの本質は色褪せないと思っています。
一番重要なのはお客さまの心の中にあるニーズやウォンツを仮説を持って読み取り、アプローチしていくことです。広告とか SEO とか、もっといえば Web そのものも、あくまでその目的を実現するための「一手段」に過ぎないと思っています。
私はまだアナログ回線のモデムの時代からインターネットに触れてきました。当時の検索は Yahoo! 一強、検索エンジンというより Yahoo! にインデックスを依頼して掲示してもらうのが主流で「他の会社や検索手法が伸びてくる」なんて全く考えられない状況でした。
「Google という検索エンジンがヤバいらしい」と噂を聞いたのはそのころ。新しいもの好きとして早速アクセスしてみたのですが、Google のぶっきらぼうなページに当初は「なんだこりゃ」と肩を落としたものです。
しかし、Google はあれよあれよと世の中に浸透し、今では時価総額2兆ドルを超えるメガ企業になりました。生成 AI をはじめとした AI 検索の出現は、そんな Google 出現の雰囲気に似ていると感じます。
私のキャリアは検索エンジンとともにあったと言っても過言ではありません。検索エンジンの隆盛とともに仕事の規模も大きくなり、ある意味「検索エンジンに食べさせてもらってきた」とも言えます。
その検索エンジンに対抗するような AI 検索の登場、実は私はワクワクしています。「新たな時代の波に、また乗れるかもしれない」と思っているのです。
変化は気づかないうちに起こり、急激に広がっていきます。今が変化のときならば、考え込んでいる時間はないのかもしれません。
広告運用 コンサルタント
慶應義塾大学経済学部卒業。2008年からキーワードマーケティングに在籍、 以降10年以上、広告運用に携わる。離脱率の低さに定評があり2008年から 運用を続けているクライアントも多い。趣味は音楽、楽器演奏。依頼を受けて プロのバックを務めることもある。愛知県犬山市出身。
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