運用型広告

滝井が読み解く「2023年 日本の広告費」媒体動向から考えるネット広告の今とこれから

2024年2月、電通によって発表された「2023年 日本の広告費」。発表から少し時間が経った今、そのデータがキャリアや広告業界にどう関係しているのかを再考してみました。

本記事では、最新のニュースや社会課題と結びつけて各媒体の動向を深掘りします。予想に反した数値や面白い動きも多かった2023年、ネット広告を中心に何が起きたのか、その背景に何があったのかを探ってみましょう。

「デジタル媒体」が一貫した拡大傾向を見せた2023年

媒体の広告費が伸びているということは、その広告から直接の反応なり、認知の向上なり、何かしらのリターンが支払う費用を超えるメリットとして存在すると言えます。なぜ広告を出すことで反応があるかといえば、その媒体に人が集まっているからなんですね。

そのような前提から、2023年の広告費の全体像としては、以下のことが言えそうです。

1.「デジタル媒体」は一貫して拡大傾向
2.「紙媒体」は一貫して縮小傾向
3.「電波媒体」は大きな伸びはないが縮小ともいえない。いまだに大きな影響力を保持

1に挙げた「デジタル媒体」というのは、何かしらインターネット回線を通じた媒体という意味になります。スマホや PC での検索行動や SNS、ショート動画などはもとより、デジタル版の雑誌や Podcast のようなデジタルラジオ、TVer のようなデジタルテレビ媒体は伸び続けています。

屋外広告と交通広告の広告費拡大の背景にも「デジタル媒体」が

2023年の面白い特徴として、屋外広告が2,865億円(前年比101.4%)、交通広告が1,473億円(前年比108.3%)とプロモーション広告費が伸びたことが挙げられます。

参考:媒体別広告費(2013年~2023年)|2023年 日本の広告費

コロナ禍からの回復の影響もありますが、伸びを牽引したのは、大型デジタルサイネージや交通広告でインターネット回線につながったデジタル媒体なんですね。

これらのことから、「インターネットにつながったデジタル媒体」が一貫して伸び続けていることがわかります。

「2023年 日本の広告費」から見える3つの特徴

「2023年 日本の広告費」から見えてきた特徴としては、以下の3つが挙げられます。

1. ネット広告の成長率が鈍化した
2. 「紙媒体」の新聞広告と雑誌広告は一貫して縮小傾向
3. 依然として強いラジオ広告とテレビ CM

ここからは3つの特徴の詳細と、その背景にあるものを解説します。

特徴1. ネット広告の成長率が鈍化した

2023年のネット広告は、予測では112%程度となっていたのですが、実際は予想よりも低い108.3%の伸びという結果になりました

参考:2023年 日本の広告費 インターネット広告媒体費 詳細分析|電通ウェブサイト 

コロナ禍開始の2020年を除き、直近5年間は110%以上の成長率を出し続けていたので、2023年は成長率が鈍化したといえます。

ただしこれは巣ごもり需要などからなるコロナ禍バブルが発生した2021年が伸びすぎたともいえるもので、その反動が2023年に来たと考えてよいでしょう。

インターネット広告費(億円)成長率(前年比)
2018年14,480
2019年17,694122.20%
2020年18,888106.75%
2021年23,202122.84%
2022年26,709115.12%
2023年28,971108.47%
2018年から2023年のインターネット広告費と成長率(前年比)一覧
※電通「日本の広告費」データを参照して作成(インターネット広告費は制作費を含まない金額で算出)

成長率鈍化の背景で企業の「息切れ倒産」が増加

2020年春に襲ったコロナ禍は、日本の経済環境を容赦なく襲いました。

しかし日本政府の迅速な対応のおかげで、2020年から2022年まで、倒産件数はかなり低い水準で推移しています。つまり、企業の苦しい状況を政府の財政で支援できていたわけですね。

しかし2023年になると急に倒産件数が増加し始めたのがわかります。

新型コロナウィルスの流行は2023年には落ち着いていましたので、本来は経済が活況になるはずですが、政府の支援が終了したために、結局持ちこたえきれず「息切れ倒産」に陥る企業が増えてしまったのです。

出典:全国企業倒産状況|東京商工リサーチ

コロナ禍が明けて追い風の経済環境であることは確かです。そのため本来ならもっと好景気になってもよいはずですが、このような息切れ倒産の増加や円安進行、世界的なインフレの波などの影響も受けました。2023年のネット広告費は引き続き成長を見せているものの、伸びは鈍化したといえるでしょう。

成長率鈍化に伴い、ネット広告の「課題点」も浮き彫りに

また、鈍化の直接的な要因となったわけではありませんが、ネット広告の課題点が広く注視され始めたことも大きな流れとしてありました

【参考】
「ジャマな広告」か「有料化」か ネットニュースの明日はどっちだ?|ITmedia NEWS
“消えない広告” ×マークが押せません!?|NHK
世の中に溢れる「うざい広告」をプロが徹底解説!マーケターは必見です|株式会社 LIG

なぜこのようなことが注視され始めたかといえば、テレビや雑誌などの4マスと呼ばれるメディアに代わり、検索や SNS、ニュースサイトを含めインターネット上の媒体が「マスメディア」として君臨するようになったからです。

2000年から2010年代のインターネットはいわばニッチメディアでした。しかしスマホの流通やデジタルネイティブへの世代交代の時代となり、2020年代はもはやスマホのアプリを含むインターネットメディアが「マスメディア」になりました。いわば「ネットのマス化」です。

参考:2020年のネット広告関連で予測される10のこと~ネットの「マス化」とは?|滝井秀典

日本で一番閲覧されるメディアは今まではテレビでしたが、これがネットに切り替わりました。ゆえに、テレビと同等レベルの広告のモラルや規制が求められるのは当然です。有名人のなりすまし広告などが決してテレビ CM では出てこないことを考えると分かりやすいでしょう。

ネット広告の規制やモラル、審査基準には複雑な課題がありますが、例えば LINE ヤフー社の広告は審査基準も非常に高く、不正広告のような課題はほとんどありません。日本の法律を遵守しつつユーザー視点を尊重し、邪魔な広告というものもかなり少なくなっている印象です。

参考:Yahoo!広告の審査とは?広告掲載基準や審査体制について詳しく解説|LINE ヤフー for Business

漠然とネット広告というくくりで判断するのではなく、「どこの媒体(Google、Meta、LINE ヤフーなど)の、何の広告が問題なのか」という視点で議論をしていくことが肝要なのではないでしょうか。

特徴2. 「紙媒体」の新聞広告と雑誌広告は一貫して縮小傾向

一貫して縮小傾向にあるのが、紙媒体の新聞広告と雑誌広告です。15年を経て新聞広告は半分以下に、雑誌広告はなんと1/4にまでなってしまいました

新聞広告は2023年も前年比で95%となっています。15年前の2008年には新聞広告は8,276億円もの市場があったのですが、2023年には3,512億円まで落ち込んでいます。

また、雑誌広告の「紙媒体」としての市場規模は同じように94%と減少しています。市場規模としては新聞広告と同じでかなり縮小していて、15年前の2008年には雑誌広告は4,078億円もの市場がありましたが、2023年には1,163億円まで落ち込んでいます。

マスメディアとしての「紙媒体」の市場は一貫して縮小しているといえそうです。

縮小に拍車がかかる一方、「デジタル媒体」としては伸びも見せる

紙媒体が一貫して減少しているのは、もちろんスマホの普及によるものです。紙媒体の新聞/雑誌をわざわざ書店やキオスクで買わなくても、自分の手元にあるスマホで必要な情報のほとんどは無料で手に入ってしまいますからこれは当然です。

ただし、新聞社や雑誌社の編集力や調査、企画力はもちろんいまだ高いものです。そのためネットの無料情報ではなく、有料でまとまった情報として、デジタル上の新聞/雑誌の購読は伸びを見せています

特徴3. 依然として強いラジオ広告とテレビ CM

新聞や雑誌の広告費が下がっているからといって、オフラインのマス媒体も下落しているかというと、実はそうでもありません。ラジオやテレビといった「電波媒体」は依然として強いのです

なんとラジオ広告は2023年、1,139億円で前年比100.9%と増加したのですが、これが2021年から3年連続で増加傾向なんですね。

また、テレビ CM は前年比96.3%と減少傾向ではありますが、新聞や雑誌のような大幅な市場縮小にはまったくなっていません。

参考:媒体別広告費(2013年~2023年)|2023年 日本の広告費

情報インフラとしての影響力が盤石な「強さ」の源か

15年前の2008年、テレビ CM は1兆9,768億円、ラジオ広告は1,549億円でしたが、2023年でテレビ CM が1兆7,347億円、ラジオ広告は1,139億円です。

15年を経てもそれぞれ12%、26%程度の市場縮小にとどまっています。

これらのデータから、新聞や雑誌の紙媒体が半分以下になってしまっているのに比べ、「電波媒体」は依然として生活者の情報インフラであり続けているということがよくわかります。

インターネット回線を通じたデジタル媒体が伸び続けていたり、紙媒体は縮小していたりするなかで、テレビやラジオといった電波媒体はいまだに大きな影響力を持っているといえるでしょう

デジタル媒体の広告費はどこまで伸びていくのか

では、インターネット広告を含むデジタル媒体の広告費はどこまで伸びていくのでしょうか。

結論としては、少なくともあと10年から15年は伸び続けると思われます

理由としてはデジタルネイティブ世代の入れ替わりがまだまだ終わっていないことが挙げられます。日本のインターネットが急激に普及したのが2000年から2004年頃ですが、今から20年前時点の人の年齢が何歳だったのかが、デジタル普及の鍵を握ります。

例えば、私は現在50代ですが、2004年時点では30代です。この年代は PC もスマホも使わないと仕事にならないので、デジタルネイティブとまではいかなくともデジタル側の世代といえます。

一方で、2004年時点で45歳以上の年代は、これより前はデジタルに触れずに仕事をしてきた世代なので、デジタル苦手世代といえます。この世代が2024年時点の65歳以上の世代で、現在の日本の人口比では約30%存在します。これらの世代が、いまだに根強い電波(テレビ、ラジオ)や紙媒体の世代なのです。

この30%はデジタルよりも紙や電波を好みますので、この世代がこれから社会人になっていく世代と入れ替わっていく時間軸を考えると、まだまだデジタルの伸びがあることはわかるでしょう

人口減少などや外部環境の不安定さなど未来が見通しにくいことは確かですが、広告費のデータは、今後のデジタル媒体における市場拡大の確実さを表しているのではないでしょうか。

「2023年 日本の広告費」を踏まえて、広告運用者が心がけるべきこと

では、日本の広告費の動向を踏まえ、広告運用者のスキルセットにどのような影響があるでしょう。

まず大事なのは、AI や機械学習といった最新トレンドよりも「ネットがマス化している」という、ゆっくりとしかし確実に進む大きな流れを見据えることだと考えます。5年後、10年後を想像するイメージですね。

全体の傾向として、紙媒体メディアは一貫して減少し、テレビやラジオといった電波メディアは依然強いものの、大きな上昇カーブを描くとは考えにくいです。

つまり、ネットメディアが今後もマスメディアとして強くなっていくのですから、今までの4マスといわれていたテレビやラジオ、雑誌、新聞が担っていた「認知広告」の役割を、ネットがいよいよ本格的に担っていくでしょう

以下スキルセットでいえば、上方向の「マーケティング全般」のスキルが、ネット広告運用に求められるようになるといえます。具体的には、PR やブランディング(認知)、媒体ミックスプランニングなどですね。

これらは AI や機械学習ではとてもやりにくい分野のため、人間の頭を使って AI や機械学習の苦手な分野をサポートすることが重要です。相互補完により、ネット広告の得意分野である直接の獲得(コンバージョン)目的の広告と、その全体母数を増やすための認知広告の接合は大きな価値を生んでいけるでしょう。

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「わかりにくいこと」を「わかりやすく」をモットーに、すべての記事を実際に広告運用に関わるメンバー自身が執筆しています。ぜひ無料のメールマガジンに登録して更新情報を見逃さないようにしてください!

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記事を書いた人

滝井 秀典
滝井 秀典

代表取締役会長

2003年、Googleアドワーズが日本でサービスを開始した直後より、検索キーワード広告とランディングページの実践・研究を行い、その成功理論を書籍『1億稼ぐ検索キーワードの見つけ方』で発表、5万部以上のベストセラーとなる。 キーワードマーケティングでは、設立時から延べ千社以上のアカウントを診断およびコンサルティングしており、現在は上場会社や成長率の高いベンチャー企業に対する広告運用代理事業を拡大している。

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