電通発表の「2021年 日本の広告費」によれば、2021年に初めてネット広告費が既存の4マス(テレビ・新聞・雑誌・ラジオ)の広告費を抜きました。これで名実共にインターネット媒体が広告市場におけるマスメディアとなったわけです。
広告費の総額は、広告業界における市場規模をそのまま反映します。そのため広告を掲載する時に、どの媒体が成長しているかを判断するために確認すべき重要な指標です。
テレビ CM の広告費をネット広告費が抜いたのが2020年でしたが、ネット広告はコロナ禍の追い風もあって、2021年以降も予想以上に伸長しています。
現在のこのような状況は、Web マーケティングを考える上でも大きな分岐点になっています。ネット広告自体は、成長しているので、非常にチャンスであることは間違いないですが、同時にピンチにもなりえます。変化においてチャンスを最大に活かし、ピンチをどのように最小にしていくべきかを、この記事では解説していきます。
ネット媒体がマスメディア化すると、多くのチャンスが生まれますが、特に注目したい3つに絞って紹介します。
今までのネット広告では、テレビ CM のような認知施策には不向きとされてきました。それはネット広告が、既にニーズが発生している顕在層の獲得に活用されてきたためだと考えられます。
ネット広告の主流である検索広告は、ユーザーが検索窓にキーワードを入力するタイミングでは、既に認知されていたり、需要が発生していたりする状況が多く、効率よく顧客獲得がしやすいのです。
そのため、自社の商品やサービスをまだ知らない潜在層に向けて、短期的に広く知らしめていく役割を果たす認知広告としての活用は進んでいませんでした。しかし、ネット広告は検索広告だけではありません。リマーケティング/リターゲティングを活用したディスプレイ広告や動画広告もあります。
2021年は、ネット広告の中でも特に動画広告が大きく成長しましたが、2022年以降は、動画広告を含む認知広告の活用がかなり増えていくことが予想されます。
というのも、日本にインターネットが普及し始めたのが2000年頃として、当時30代、40代だった世代も今や50代、60代になっています。そのため、シニアはテレビや新聞で、若者はネットで情報収集をするのが当たり前という図式が完全に壊れつつあります。
ネットの活用がどの世代でも浸透している状況では、認知広告としてテレビ CM よりネット広告が機能していくことは間違いないでしょう。
ネット広告において、YouTube 動画広告などで認知目的の効果を確実に得られることは、広告主にとっても、広告を提供する媒体や広告代理店、マーケティング担当者などにとっても嬉しいニュースです。
獲得ばかりに注目されてきたネット広告が、潜在顧客に向けても成果をあげて、顧客創造に大きく寄与できる可能性が高いからです。
認知広告の効き目があったかどうかの検証はまだまだ難しいのですが、少しずつその対策もできるようになってきました。こちらは後述します。
2021年のネット広告は、動画広告が原動力となり、前年比122.8%の成長を果たしました。ネット広告の広告種別の構成比でいうと、動画広告は、検索広告とディスプレイ広告に次いで第3位ですが、伸び率でいうと、ディスプレイ広告に引けを取らないほどの133.8%でした。
認知向けの YouTube 動画広告などがもっと増えていくと、ネット広告の構成比の中で、ディスプレイ広告を抜いていく可能性は十分あると思われます。
サードパーティクッキー廃止や個人情報保護強化の流れから、リマーケティング広告でよく使用されるディスプレイ広告は減少していく可能性が高いといえます。
一方で、動画広告においては、YouTube や TVer など、閲覧者が極めて多いプラットフォームは単体だけで十分な露出量があり、サードパーティクッキーに依存しなくて良いのが強みとしてあります。
さらに、5G の普及(現状は20%以下)が進んでいくことも考えると、今後の伸長はほぼ確実です。
動画広告の市場が拡大する上で、動画制作会社や広告運用者含むマーケター、広告主にもチャンスは増えるでしょう。運用型広告として動画広告をどう組み込むのかは、広告運用者にとってもチャンスと言えそうです。
参考:5G市場の予測|総務省
ネット広告の市場が大きくなると同時に、広告自体のクリーンさやモラルが求められるようになります。今までネット広告はテレビ CM などよりははるかに自由度が高く、規制も緩いものでした。
老若男女、誰でもネットから情報を得る時代になり、秩序を破るような甘い姿勢は許されなくなっています。
規制強化は、考え方次第では、クリーンさやモラルを常に意識している広告運用者にとっては大きなチャンスになります。「ヤフー、2020年度は約1億7千万件の広告素材を非承認に」や、「ポリシー違反の YouTube 広告に対する新しい取り組み」など、媒体側での規制強化も強まっているので、モラルのないグレーな広告が淘汰されていくのは目に見えています。
また、当然、ユーザーにとっても不快な広告や脱法に近いような広告がなくなっていくことは良いことであり、ネット広告への信頼が増加することでしょう。
変化には必ずチャンスとピンチの側面があります。ピンチの側面は、以下の3つに気を付けていくとよいでしょう。
運用型のネット広告は、顕在層の獲得一辺倒から、潜在層への認知を意識した広告施策もセットで考えることが多くなります。
広告は本来、世間に広く知らしめることが役割です。ネット広告は計測の容易さから、「顧客を獲得する役割」が重視されてきたわけですが、それだけでは新しい見込み客に対してリーチしてないので、必ず縮小均衡します。
今まで自社の商品サービスに対して全く未知だった顧客を獲得するのは当然コストは高くなります。これで採算が合わないからといってやめていては売上成長を目指すのは難しいですよね。
潜在層へリーチさせる認知広告へ投資するリターンの考え方を整理し、その上で顕在層を獲得していくようなトータルの戦略がより求められるでしょう。
その結果、目標 CPA(顧客獲得単価)で最大のコンバージョン数を目指していくだけの広告運用よりも、認知も考えた広告施策も求められるので、難易度がグッと上がるわけです。
ネット広告の市場規模が大きくなるということは、インハウスであれ、広告代理店であれ、その市場規模に見合った組織の規模が求められるようになります。小規模チーム・組織では生き残りづらくなる傾向はあるでしょう。
なぜなら、広告運用の難易度はあがり、媒体ごとのメニューや特性もどんどん増えていくため、知識やスキルのアップデートが必要だからです。Google(YouTube 含む)や Yahoo!、Facebook(Instagram 含む)、Twitter、LINE、TikTok、その他星の数ほどあるネット広告の媒体すべての広告メニューを経験し成果をあげるノウハウを持っていて、最新情報もキャッチアップできている人などもはやこの世にいません。
その上、BtoB か BtoC の違いや、商品サービス特有の難しさもあります。さらには、広告のランディングページの改善や、テキストと画像だけでなく、動画素材の選定や編集も必要です。
とても1人の人間がカバーできるものではなく、チームとしても対応しても限界はあるでしょう。ネット広告代理店の業界では M&A が数年前から活発化して、業界が再編され続けていますが、この流れはもっと高まるでしょう。
参考 : ソウルドアウトが博報堂 DY グループ傘下に デジタル広告にとどまらないソリューションの提供を目指す|MarkeZine
参考:電通、セプテーニ G を連結子会社化 電通ダイレクトはセプテーニ HD 傘下に|AdverTimes
ネット媒体がマスメディアになると、テレビ CM と同等レベルでの審査基準や広告の法規制が求められるようになると予想されます。
個人情報保護法や景表法、薬機法などは強まり、さらには法規以外にも媒体独自の審査基準も厳格になっていくことでしょう。
法規制や媒体審査基準には抵触しないものの、モラルを守った広告が求められようになります。モラルのない広告が、ユーザーから批判され、炎上するリスクも今までより高くなるでしょう。
参考:令和3年特定商取引法・預託法等改正に係る 令和4年6月1日施行に向けた事業者説明会|消費者庁取引対策課
チャンスを最大に、ピンチを最小にする対策をしていけば、変化は常にビジネスの味方になり得ます。ネット広告のマス化に対して、今後取るべきアクションをまとめました。
認知広告の効果を検証できるツールは、近年劇的に使いやすくなってきています。
Google(YouTube)広告と Yahoo!広告、TikTok 広告などは、認知効果を算出するブランド効果測定(ブランドリフト調査)というサービスを無料で提供しています。
いずれも認知効果がどれだけあったのかを定量的に可視化できるもので、数年前に比べてかなり使いやすくなっています。
参考:ブランド効果測定について – Google 広告 ヘルプ
参考:「Yahoo! JAPAN ブランド効果測定」改定のお知らせ
参考:TikTokでの広告効果を測定し、最適化するためのソリューション「TikTok ブランドリフト調査」をグローバルで提供開始 | 【公式】TikTok for Business: TikTok 広告
下記は YouTube のブランドリフト調査結果の一例です。Google の管理画面で設定し、閲覧することが可能です。
YouTube のブランドリフト調査は、まず始めに認知広告の接触があったユーザーとなかったユーザーに分類して、同じアンケートを配信します。アンケート結果の差分から「効果があったユーザー数」を割り出し、Google 広告管理画面にて表示しています。
また、効果測定ツール「アドエビス」を使えば「アクション喚起率(次の施策に繋がった割合)」を計測できます。
動画広告を見た後、すぐにコンバージョンすればクリックスルーコンバージョンで効果を測れます。しかし、潜在的な顧客だった場合、すぐにコンバージョンするのはあまり考えられません。このような場合、ブランドリフト調査だけでは、認知広告の成果を判断できないため、アドエビスのようなツールを用います。
今後、運用型のネット広告は、認知効果の測定をツールなどで効果的・定量的に行いながら、潜在層へのリーチと、顕在層の顧客獲得を同時平行でおこなっていくことで、ピンチを最小にして、チャンスを最大限活かせます。
参考 : 新機能アクション喚起率分析搭載・カスタマージャーニー分析 – アドエビス(AD EBiS) 広告効果測定プラットフォーム
Google 広告のことはよくわかるけど、TikTok 広告や LINE 広告のことはイマイチ分からないとなってしまっては、広告運用者や代理店としてやっていけません。ネット広告の市場規模の拡大は、今後も続くので、それに見合った体制づくりが必要になります。
キーワードマーケティングは、まだ100人にも満たない組織ですが、100人以上にしてもおそらくネット広告とその関連範囲(ランディングページや SEO など)のカバーをするには足りない規模感であると感じています。
ネット広告でいえば、Yahoo!と Google が主流ですが、それぞれ検索広告とディスプレイ広告、動画広告があり、両媒体で同じ傾向のものもあれば、同じような広告メニューでありながらまったく異質のものもあります。
特に Google は自動化の流れのアップデート速度および量がすさまじく、半年前のものとはまったく違うものになってしまうくらいです。YouTube 動画広告は Google 広告のメニューの1つではありますが、YouTube の規模が大きすぎて専門知識がかなり必要です。
さらには Facebook、Instagram、Twitter という SNS 広告も、タイムラインという媒体の共通点はあるものの、ターゲット層も広告メニューも全く違います。当然クリエイティブも千差万別になります。その上、TikTok などの新興 SNS の研究も欠かせません。
業種特性でいえば、EC サイト運営者にかかわる人だと、 Google ショッピング広告で使用するデータフィードの知識が必須になります。
これらのことを1人で全て把握し、経験し、成功ノウハウを確立することは不可能です。各人が得意分野を持ちつつ、多くの仲間同士で情報交換して助け合わなければ広告運用は成り立たない時代になっているわけです。
国による法規制、媒体による審査基準の強化はここ数年厳しくなり続けていますが、それでも現在のテレビ CM の審査基準からすれば緩いといえるでしょう。ネット広告は既存の4マス媒体広告をすでに超えてしまっているので、同等以上に今後もさらに厳格になっていくことが確実です。
参考:③CM表現考査【テレビ広告のキホン】|日テレ広告ガイド|日テレ ADPORTAL|日本テレビ営業局
法規制と媒体審査基準は完全に合致していません。例えば、Yahoo!広告の媒体審査基準は薬機法関連では一部法規制よりも強いところもあります。一方で Google 広告は Yahoo!広告よりも媒体審査基準が緩い所もあります。
法規制と媒体審査基準で違いあったときのポイントは、抜け道を探すような考え方はやめることです。「もう広告では何も言えないから止めよう」と考えるのも極端すぎます。
法規制や媒体審査基準、さらには一般ユーザーのモラル、それぞれに配慮された広告を目指していくことが大前提の時代になっているのです。これは広告業界全体が抱える課題であり、克服していかなければならない問題だと思います。
クリーンな広告に徹しているところが今後勝っていくことは間違いないので、目の前の利益に惑わされず、しっかり意思決定していくことが必要になるでしょう。
ネット広告のマス化は、ピンチに向き合って適切な対応を取り、チャンスを最大化させると良いでしょう。ネット広告はすでに広告という市場での王者になっているので、法規制などと伴走する姿勢が大事となっていくでしょう。
私たちを含め、広告運用にかかわる全ての人が、今までとは違う環境になる変化に対応すべく、日々アップデートしていかなければ、時代錯誤の広告を作ってしまうことにもなりかねません。遵法精神をもって、モラルを意識し、ユーザーに不快と思われない広告をみなでつくっていきましょう。
代表取締役会長
2003年、Googleアドワーズが日本でサービスを開始した直後より、検索キーワード広告とランディングページの実践・研究を行い、その成功理論を書籍『1億稼ぐ検索キーワードの見つけ方』で発表、5万部以上のベストセラーとなる。 キーワードマーケティングでは、設立時から延べ千社以上のアカウントを診断およびコンサルティングしており、現在は上場会社や成長率の高いベンチャー企業に対する広告運用代理事業を拡大している。
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