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運用型広告

【コラム】ベテランが語る!運用型広告の変遷から学ぶ「昨日までの正解を疑う」大切さ・後編

2008年からキーワードマーケティングに在籍し、以降10年以上広告運用に携わっている小島です。

前編では Yahoo! が検索市場を席巻していた過去や、バナー形式のネット広告、2002年の検索連動型広告への移り変わり、ディスプレイ広告のターゲティング対象が「枠」から「人」への変化などを振り返りました。

▼「昨日までの正解を疑う」大切さ・前編はこちら

【コラム】ベテランが語る!運用型広告の変遷から学ぶ「昨日までの正解を疑う」大切さ・前編

運用型広告の歴史は2000年代から始まり、約20年が経ちますが、日々めまぐるしく状況が変わってきています。広告運用をおこなうのであれば、時には「昨日までの正解を疑う」ことも必要です。この記事では2002年の発展期から2010年ごろの転換期までを振り返っていきたいと思います。

後編では、2008年以降の転換期から発展期、そして2021年を含む今後のことについてを「検索連動型広告」と「ディスプレイ広告」の2つの観点で解説していきます。

社会情勢をキッカケに運用型広告も大きく変化

2008年のリーマンショック発生後、アメリカを中心に世界経済は一気に減速します。 投資はもちろん需要も冷え込み、モノ・サービスが売れなくなります。 

GDP と広告費全体には相関関係があるので、経済が冷え込めば広告費も減少します。 新聞・雑誌・ラジオ・テレビなど主要既存メディア(主要四媒体)の広告費は、この時期一気に落ち込んでいます。 

これら主要四媒体に関して言えば、2007年から2008年で前年比92.4%、2008年から2009年で前年比88.5%と なっており、まさに GDP の減少に比例して広告費も減少しています。 しかしそんな中、インターネットの広告費だけは伸び続けます。

中でも、運用型広告、特に検索連動型広告の世界は順風満帆でした。手間と時間をかけただけ成果が上がるので、私たち運用担当者はひたすら仕事をし、その結果クライアントさんの売上はトントン拍子で上昇していたのです。

リーマンショックにも動じない検索連動型広告

2008年のリーマンショックも物ともせず、検索連動型広告市場は規模を拡大していきます。

数多くの企業が参入してきたため、その中でもいわゆる「ナショナルクライアント」と呼ばれる大企業が運用型広告に一気に流れてきたのです。

誰もが知っている大企業は、リーマンショック以前は検索連動型広告にほとんど出稿していませんでした。 しかしリーマンショック後は、その効率の良さに注目し一気に検索連動型広告への投資を強化します。 

そしてこの流れをうけて、検索連動型広告市場での競争が激化していきます。 

誰もが知っているような大企業のコンバージョン率は大きく、1つ桁が違うといっても過言ではありません。そのため一般企業のコンバージョンは奪われコンバージョン率が低下していきます。

また体力のある大企業は許容できる CPA も高く、入札価格も強気で設定してきます。この影響でクリック単価もじわじわと高騰し始めました。

こういった動きにより、それまでの秘密兵器的な効率の良さは少しずつ失われていきます。

Yahoo! が Google のシステムを導入

2010年7月、Yahoo! は Google の検索エンジンと検索連動型広告配信システムを使用すると発表します。 

Google とのシステム開発競争で膨んだ研究開発費を抑えて、媒体としての価値を維持するためと言われています。この発表は、何が起こるか分からないという意味で当時の運用担当者を震撼させました。

参考:Yahoo! JAPAN の検索サービスにおけるグーグルの検索エンジンと検索連動型広告配信システムの採用、ならびに Yahoo! JAPAN からグーグルへのデータ提供について | Yahoo! Japan

実際の変更ですが、2010年12月に自然検索結果の表示にかかる検索エンジンの変更がおこなわれています。その約1年後の2011年11月10日に広告のシステムも変更になりました。

この時の移行は半自動的におこなわれたものの、登録したキーワードが消えるなどのトラブルがありました。また、それまでの品質インデックスがリセットされたり、コンバージョンタグ貼り替えなどの変更作業もあり、まるで学園祭前夜のような大騒ぎだったことを覚えています。

当時はタグマネージャーなど無かったため、コンバージョンタグの張り替えなどは全てサイトの html ファイルを変更する必要があり、その連絡をサイト制作会社さんにするだけでも一苦労だったのです。なお、Google がタグマネージャーを正式にリリースするのは2014年の春です。

アドテクノロジーの発展でディスプレイ広告が飛躍的に伸びる

リーマンショックの影響は、主要四媒体からインターネットの広告へ広告予算をシフトさせたという「お金」の面だけではありませんでした。

リーマンショックにより金融市場は一時的に縮小したため、多くの金融工学に関わる技術者が職を失うことになりました。金融工学とアドテクノロジー(アドテク)は親和性が高かったため、金融工学の技術者が運用型広告の世界に入ってきたのです。

金融の世界から広告の世界に流入した技術者のおかげで、アドテクノロジーは飛躍的に発展していきます。その恩恵は、特にディスプレイ広告において顕著に現れます。

数多くのブログなどの広告枠が、この頃の世の中には存在していました。そしてこれらの広告枠は増加の一途を辿っていました。これらの収益化を効率よくおこなうためにアドテクノロジーの発展は欠かせなかったのです。

前編でも見たとおり、ディスプレイ広告のターゲティングのトレンドは、広告枠から人へと移行の最中でした。

広大なアドネットワークにある広告枠を、そこに来た人の行動や興味に合わせて最適な広告をリアルタイムで表示させていくアドエクスチェンジ、RTB(リアルタイムビディング)といった技術が進歩していくのです。

間接コンバージョンの考えが出始める

またアドテクノロジーの進化により、効果測定にも新しい考え方が出てきます。直接コンバージョンに結びついた広告を計測するだけでなく、間接的にコンバージョン獲得に寄与した広告にも評価を与える考え方です。

アドテクノロジーの進化により、この「間接コンバージョン」の考え方が管理画面などに実装されるようになるのです。そして間接コンバージョンの考え方は、後に「アトリビューション分析」へと発展していきます。

スマートフォンの普及から変化を続ける運用型広告

2008年に iPhone 3G が世に出て以来、スマートフォンは急速に普及していきました。当初はモバイル(ガラケー)の延長くらいに考えられていましたが、あまりの普及の進み具合に、スマートフォン専用にサイトを用意する必要が出てくるなど、サイトのあり方にも大きな変化をもたらします。

その後日本では、2011年3月11日に東日本大震災が発生します。 人命にも経済にも甚大な被害が出た上に、福島第一原子力発電所の事故もあり、社会的に大きな影響を与えています。

2011年の秋頃までの半年間、日本全体の広告費は一時的にそれまでの半分くらいまで落ち込みました。しかし、そんな時でも検索連動型広告の市場は拡大を続けるのです。

スマホの普及から検索連動型広告の需要がさらに高まる

スマートフォンの急激な普及により検索量は爆発的に増加していきます。PC だけでおこなわれていた検索行動がスマートフォンからもできるようになったので、当然動きと言えるでしょう。

さらに「検索」という行為自体が一般的なものになっていきます。ネットのヘビーユーザーの間では、すでに普通に使われていた「ググる」という言葉も、この時期になると普通の人が会話で使うようになります。

検索行動の一般化により、一人あたりの検索回数も増えるわけですから、さらに検索量は増加していくことになります。

効率の悪化傾向がさらに進む

前述した「大企業の検索連動型広告への進出」から、中小企業の秘密兵器とも言えた検索連動型広告の破壊的な効率の良さに陰りが見え始めていました。この「効率の悪化傾向」はスマートフォンの登場からさらに進んでいきます。

時系列に見ると効率の悪化傾向にありますが、現在の広告の中で群を抜く効率の良さを持っているのは事実です。振り返ってみると分かるのが、PC 時代の検索連動型広告が飛び抜けて効率が良かったと言えるでしょう。

なお、ここで言う効率悪化とは「コンバージョン率の低下」「クリック単価の上昇」という2つの要因に因数分解できます。どうして効率悪化したか、この2点から振り返ってみます。

コンバージョン率の低下

効率悪化1つ目の要因は、シンプルにコンバージョン率の低下があります。スマートフォン普及による急激な検索量の伸びとともに、ほとんどの業種でコンバージョン率に低下傾向が見られました。

手前味噌ではありますが、弊社滝井が書いた「1億稼ぐ「検索キーワード」の見つけ方—儲けのネタが今すぐ見つかるネットマーケティング手法」という本の中でも、「コンバージョン率は1%程度が基準」と書かれています。

これは別に大袈裟な表現ではありません。PC 時代では多くのアカウントでこの基準通りのコンバージョン率だったのです。

現在の感覚で言えば、コンバージョン率1%というのは驚異的な数値です。もちろん、マイクロコンバージョンを設定している場合や、資料請求などをコンバージョンポイントにしているような場合は達成できる数値かもしれません。

しかし、上記の「1%」というのは、直接の購入や売上に繋がりやすい問い合わせをコンバージョンポイントとして想定した場合の話です。この点からも、コンバージョン率が低下していることが分かります。

さらにコンバージョン率の低下の原因を言うなら以下の3つが考えられます。

  1. さらに多くの企業が検索連動型広告に参入した
  2. トランザクショナルクエリの割合の低下
  3. 当初、スマートフォンサイトでコンバージョンを取るノウハウが欠如していた
1.さらに多くの企業が検索連動型広告に参入した

リーマンショック以降、多くの企業は不況に喘いでいました。

そんな中、前述した大企業に限らず中小企業でも「検索連動型広告の効率が良い」という話を聞きつけて、こぞって検索連動型広告の出稿を開始しています。単純に競合相手が増えるわけですから、1社から見た場合のコンバージョン率は低下していきます。

2.トランザクショナルクエリの割合の低下

検索クエリには大きく分けて3つの種類があります。

分類定義別名
ナビゲーショナルクエリ特定のサイトを訪問したいという意図の検索クエリ・株式会社キーワードマーケティング
・Google 広告
・案内型クエリ
・Go クエリ
インフォメーショナルクエリ1つないし複数の Web サイトで情報を得ようとする意図の検索クエリ・Web 広告 とは
・Web 広告 はじめ方
・Web 広告 コツ
・情報型クエリ
・Know クエリ
トランザクショナルクエリWeb 上で何かしらのアクションを実行しようとする意図のある検索クエリ・Web 広告 問い合わせ
・Web 広告 資料ダウンロード
・取引型クエリ
・Do クエリ

この3つの中でコンバージョンに直接繋がりやすいものは「トランザクショナルクエリ」です。

もともと PC の時代から、検索のほとんどは情報を入手するためにおこなわれていました。なので「トランザクショナルクエリ」の割合は PC 時代でも1割程度と言われていました。

その割合がスマートフォンからの検索量が増えるにつれ、さらに低下したと考えられます。

3.スマートフォンサイトでコンバージョンを取るノウハウが欠如していた

スマートフォンの普及に対して、スマートフォンサイトの普及は遅れていました。スマートフォンからアクセスしても PC サイトが表示されるので、当然ながらなかなかコンバージョンしませんでした。

企業側からすると、やっとの思いで PC サイトを整備した途端にスマートフォンサイトを作らないといけなくなったのです。

「PC からだけで良いでしょ」と腰が重くなるのも無理はありませんでした。実際、この時期にスマートフォン対応に舵を切れず、のちにネット集客から撤退するような企業もいたことでしょう。

また、サイト制作会社や広告代理店も、当初このあまりに急激なスマートフォンの普及についていけませんでした。それだけ急激に普及は進んだのです。ただ、この点は各社徐々に対応を進めて解消されていきます。

クリック単価の上昇

効率の悪化2つ目の要因は、クリック単価の上昇です。スマートフォンの普及後、アカウント全体のクリック単価は多くが下がりました。

しかし、これは見せかけの低下で、PC だけのクリック単価を比較するとかなり上昇している場合が多かったのです。

スマートフォンは当初、コンバージョンが取れないということで入札単価調整で下げているケースが多くありました。入札価格の低くなったスマートフォン向けクリックが増えたため、全体の平均クリック単価は下がって見えていたのです。

管理画面をしっかり見ていないと、「クリック単価の低下、コンバージョン率の低下」と見えてしまい、入札価格を上げてコンバージョン数を取りにいく調整をしてしまいます。結果、さらにクリック単価の上昇、特に PC 向けのクリック単価の急上昇に繋がっていきます。

これに加えて、前述の大企業も含めた競合数の増加により、競争が激化したためのクリック単価上昇も見られました。

「コントロール重視」の運用から「システム重視」の運用へ

広告出稿している企業が急激に増加するにつれ、これまで運用していて見られなかった現象が起こり始めました。

一例を挙げると、キーワード「インプラント」で、完全一致とフレーズ一致で登録し、完全一致の方の入札価格を高く設定しているにもかかわらず、フレーズ一致側のキーワードの検索クエリ(検索語句)のリストの中に「インプラント」が入っているケースがありました。

1広告グループ1キーワードの戦術のもと、コントロールを重視していたにもかかわらず、意図通りに広告が表示されない状況が発生し始めます。

このような状況が発生した理由は、おそらく Google、Yahoo! 側のシステム管理の方向性が変わってきたためだと思っています。

広告を出稿する企業が増加した結果、Google、Yahoo! に登録されている広告設定(キーワードや広告)のデータ量も増加しました。

その中で、全てのアカウントの全てのデータをシステムがフォローしていくのは難しくなってきてしまった可能性があります。

私自身、体感ではありますが「多くのキーワードを登録しても、システムは全部を把握していないな」と2012年頃から感じています。

また2011年頃から出始めた指標「インプレッションシェア」も、どれだけ入札価格を上げても100%にならないのは不思議でした。今では100%にならないのは常識で片付けられますが、当時は違いました。

「必ず1位表示を!」と言われていたキーワードで、インプレッションシェア100%の広告表示ができていないので、クライアントさんによっては問題視され、叱られた記憶があります。

これらの件から「ああ、もはや広告表示を完全にコントロールするのは無理なのだな」と感じ始めます。

前述の「登録したキーワード全てをシステム側が把握できていない感覚」とともに、自分がやってきた広告の管理運用方法が効かなくなってきているのだなと思い始めたのです。

マンパワーでおこない、自分自身で業務効率化をしてきたのですが、それだけでは通用しなくなってきたのがこの頃です。

東日本大震災でも伸び続けた検索連動型広告

この時期、特筆すべきは「検索連動型広告は東日本大震災でも伸び続けた」ことです。効率悪化の傾向が見られたものの、それでも他の広告と比較して圧倒的な効率を維持していたから、伸び続けたのです。

経済的な危機であったリーマンショックとは異なり、東日本大震災では多くの人の命が失われています。なので、日本全体が強い「自粛ムード」に覆われました。ただ、そんな中でも検索連動型広告だけはあまり影響を受けずに伸びています。

通常の広告は「プッシュ型」なので、広告を見たい/見たくないに 関わらず、広告は表示されてしまいます。これは自粛ムードとは相性がよくありません。

しかし検索連動型広告は「プル型」です。検索する人が能動的に情報を取りに来た場合のみ表示される広告なので、自粛ムードでも比較的問題なく広告を表示することができます(もちろん、その内容には気を遣う必要はあります)。

私が管理していた広告アカウントも、一時的に東北地方への広告出稿を控えたものもありましたが、夏頃には以前と変わらないレベルに戻しています。

検索連動型広告のこの強さを見てきたので、今までのやり方が一切通用しなくなっても、新しい方法で対応していこうと思えたのです。

ディスプレイ広告や SNS 広告なども順調に伸びる

この時期、ディスプレイ広告に関する技術はすごい勢いで発展していきます。また、スマートフォンの普及とともに、Facebook、Twitter などの SNS も普及しており、これら SNS に対する広告も重要になっていきます。

金融工学の技術者の流入により、アドテクノロジーの発展が始まったのは前述のとおりですが、スマートフォンの普及とともに、さらにアドテクノロジーは発展していきます。

相当な発展を遂げていますので、正直なところ全てをしっかりフォローしていくのは難しいです。ここではざっと発展の流れだけをおさらいするので、興味がある方はそれぞれの技術につき、是非調べてみてください。

インターネットやスマートフォンの普及とともに、アドネットワークの数も増えてきます。これらのアドネットワークを横断して自動的に広告を表示する「アドエクスチェンジ」という仕組みが出てきます。

やがて、このアドエクスチェンジ自体も数が増えてきます。それに対応するように複数のアドエクスチェンジやアドネットワークを接続していく技術として、DSP(Demand Side Platform:広告主のプラットホーム)や SSP(Supply Side Platform:媒体側のプラットホーム)といったアドテクノロジーが出てきます。

また、これらのターゲティングの元となるデータを管理する技術として、DMP(Data Management Platform)という技術も発展していきます。

SNS は広告のプラットホームへ変化

スマートフォンは個人で所有するものですが、その点から SNS との相性が良かったようです。SNS もスマートフォンの普及とともに爆発的に普及していきます。そして、各 SNS は収益を上げるため、広告のプラットフォームへと進化していきます。

その中でも Facebook はその規模の大きさとユーザーの比較的正確なデータを持っているということで Google にも対抗できる勢力となっています。

Facebook の持つ正確なデータでのターゲティングは強力で、プッシュ型広告にもかかわらず、場合によっては検索連動型広告に肉薄する効率の良さで運用できたりしました。

2010年代から動画広告も徐々に普及

2010年くらいには光回線が普及したので、PC で動画を見ることは割と普通になっていました。そして、スマートフォンの通信速度も4G の登場で一気に伸びます。同時にスマートフォンで動画を見ることも一般的になりました。

通信速度の上昇とともに、動画での広告も普及し始めます。2021年に入っても、まだまだ発展途上な感じではありますが、広告としてのインパクトは強いため、今後さらに伸びていく市場であると考えられます。

2019年以降と今後のネット広告の動きと心構え

「いつか頭打ちする」と言われ続けた検索連動型広告ですが、今でも全く衰えることなく、むしろ拡大しています。ディスプレイ広告なども相変わらず次々新機能がリリースされています。

安定した結果を残す検索連動型広告

検索連動型広告は、コンバージョンを獲得するという目的においては、やはり今でも効率が良い広告です。

ただ、昔のようにガチガチに設定はしないことが多くなってきています。各メディアが持っているデータとコンバージョンのデータなどを基に、システムが自由に動けるよう(機械学習できるよう)設定するという、昔では考えられない設定がうまくいく場合があります。

そもそも広告のシステムは人間が考えて作ったものです。作った人の考え方が変われば、それに合わせて設定も変える必要があります。

データは見え辛くなるが、ピンチではなくチャンス

傾向として、管理画面上のデータはだんだんと見えなくなってきています。平均掲載順位はなくなり、検索語句の表示数も減ってきています。おそらく今後もさらに見えなくなっていくでしょう。

広告運用担当者の仕事は管理画面上の数値を改善することではないので、これをピンチと捉えないのが私の考えです。

そもそも CPA は絶対的な指標ではなく、あくまで目安です。クライアントさんとの約束で目標 CPA などはもちろん決め、そのような運用になるようにしますが、最終的なコンバージョンポイントの数で貢献できるような支援をするのが本当の運用者でしょう。

管理画面上のコンバージョンは、あくまで「キャンペーン間、広告グループ間、キーワード間などの比較、もしくは時系列で比較する場合の目安」として使います。

広告運用担当者の仕事の価値は、市場を読み、競合を読み、クライアントさんをしっかり把握し、広告に関するシステムの挙動を読むことで、最終的な売上にどう貢献できるかにあると私は考えています。

もちろん、これは一個人の意見なので、いろいろな考え方があると思います。

ただ、運用型広告の歴史はたかだか20年未満のものです。だから「これはこうでないとダメ」という考え方ではなく、「なんでもあり」の柔軟な姿勢で臨んでいくのが良いのではないでしょうか。

規制や制限を受けつつも活用され続けるディスプレイ広告

前述のとおり、様々な技術が現れ、様々な広告がリリースされています。そして2021年現在、個人情報保護の流れからのサードパーティクッキー規制の動きで、大変化の前夜のような空気を感じます。

効果が出そうな広告は「ターゲティング」が的確なもの

今のところ、効果が出そうな広告は、リマーケティング (リターゲティング)に準ずるような広告、もしくは Google のファインド広告のような各メディアが持つデータを最大限活かした運用方法で出す広告のどちらかではないかと思います。

どちらも「ターゲティング」がしっかりできるという共通点があります。そして、どちらもお客さんに関するデータが重要になります。

今までのターゲティングの精度を上げるための技術は「Cookie」によるものでした。しかし、個人情報保護(=プライバシー保護)の流れにより、Cookie は規制される方向にあります。

▼Cookie 規制についての基本はこちら

Cookie を使わず、どうターゲティングの精度を上げるのか。各メディア、各広告プラットフォームが蓄積しているデータと広告主の持っているデータを利用していく、というのが一つの解ではないか、と思っています。

この辺り、もう少し掘り下げて、以下に述べてみようと思います。

個人情報保護が強まる世の中

現在は個人情報保護の流れの中にあるので、ターゲティング力のある広告の未来は見通しが立たなくなっています。

Google はこの流れに対して、FLoC という技術で対応していこうとしています。FLoCは「Federated Learning of Cohorts」の略で、個人をコホートという塊で捉えることで、個人のプライバシーを守りながらターゲティングの精度を上げるという技術です。しかし、Google は 2022年1月に「FLoC」が、ユーザーが特定される可能性があるという指摘や、独占禁止法に触れる可能性があったため、開発を中止し、新たに「Topics」と呼ばれる技術の開発を始めました。

参考:Google、脱Cookie技術「FLoC」開発を停止し、新たな「Topics」を発表|ITmedia

もしかしたら、リマーケティング (リターゲティング)、もしくはそれに準じるような広告は、今後利用できなくなるかもしれません。

自社でデータを持つ重要性が増す

上記「効果が出そうな広告」のもう1つ、「各メディアが持つデータを最大限活かした運用方法で出す広告」はまだ可能性があると考えています。

各広告プラットフォームの中に蓄積されているデータを使用してターゲティングする広告は、最近特にターゲティングの精度を高めています。

Google だと、Google の検索、 Youtube、Gmail、Google ドライブといった各種サービスの中での行動履歴などのデータを使ってターゲティングをおこなっています。ファインド広告が例として挙げられるでしょう。

リマーケティング (リターゲティング)と違うのは、自前のサーバ内に蓄積されたデータという点です。

Google 内のサービスからのデータなので、データ蓄積を妨げる要因も少なく、またノイズも少ないため、今後も効果的に運用できるのでは、と考えています。

▼新しいネット広告の潮流を知るにはこちら

各広告プラットフォームに蓄積されているデータは正確に蓄積できそうですが、もしかしたらコンバージョンに関するデータはその性格上取れなくなる可能性もあります。

こういった場合に備えて、広告主側もデータを蓄積して広告プラットフォーム側のデータベースと突き合わせができれば、引き続き効果測定をすることができるかもしれません。

また、逆に広告主側のデータを利用して、広告プラットフォームのターゲティング精度を上げることができるようになるかもしれません。

いずれにせよ、データがあれば、色々な分析なども可能になります。なので広告主側のデータベースの整備などの仕事も、今後広告運用担当者の仕事になってくるかもしれないですね。

変化の激しい世界だからこそ楽しみながら取り組む

ざっと運用型広告の歴史を見てきましたが、たかだか20年弱の間にこれだけの大きな変化が起こっているのです。短い期間に大きな変化があるわけですから、その変化のスピードも相当大きいのです。おそらくこんな業種は他にあまりないでしょう。

そして、この変化は今後も引き続き起こると思います。

「自動化で広告運用担当者の仕事がなくなる」と言われることがありますよね。確かに今広告運用担当者が普通におこなっている業務は必要なくなるのかもしれません。しかし、「運用型広告を運用する仕事」というものはなくなりません。

昨日までの常識を捨てられる覚悟がある限り、広告運用の仕事はなくならないのです。変化を楽しみながら、広告運用を続けていきましょう。

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記事を書いた人

小島 元
小島 元

広告運用 コンサルタント

慶應義塾大学経済学部卒業。2008年からキーワードマーケティングに在籍、 以降10年以上、広告運用に携わる。離脱率の低さに定評があり2008年から 運用を続けているクライアントも多い。趣味は音楽、楽器演奏。依頼を受けて プロのバックを務めることもある。愛知県犬山市出身。

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