広告運用担当者の皆さんなら、学生時代や研修の時に「3C」というフレームワークを勉強したことがあるかもしれません。簡単に言えば、Customer(市場)、Competitor(競合)、Company(自社)の3つに分けて分析し、KSF(Key Success Factor : 成功するための要因)を見つけ出すフレームワークです。
3C を使うことで、「漏れなく・被りなく(MECE)」分析を進められます。非常にオーソドックスかつ便利なフレームワークの1つですね。
広告運用の世界でもよく使われますが、特に広告アカウントの構築時に使われることが多く、それを解説したコンテンツも多く目にします。今回は、広告運用時に3C を用いて課題を洗い出す方法を解説します。発見した課題をもとに、お客様への報告や改善方法の提案にお役立てください。
広告運用者が 3C 分析を用いる場合、「広告のアカウント構築時」に活用するパターンが多いと思います。ターゲティングの対象を決めるときに、市場からセグメント、ターゲットを切り出していきます。その後、SWOT や STP分析を経て、ターゲティングの設定やそれに伴うクリエイティブの作成に繋げる、というのが大きな流れだと思います。
一方で、今回の記事では、広告運用時に用いる3C 分析を紹介します。具体的には、広告運用をする中で、「お客様の成果」に大きな変化が見られたときに、何が要因だったかを探るためのものです。
広告運用をしていると、さまざまな変化が発生します。管理画面で確認できる「クリック数の減少」などのような変化は日常的に起こります。そのような変化ももちろん、1番重要な変化は「売上が上がった/下がった」など、お客様の最終的な目的に関連する成果に関わるものです。
広告運用の最終的な目的は、クライアントさんの事業を支える ≒ クライアントさんの売上・利益を増加させる点にあります。広告運用の視点から言い換えれば、「効率的にコンバージョンを獲得する」とも言えます。
分析の際には、できる限り「漏れなく・被りなく」要素を検討しなければなりません。直感的に「商品を値上げしたから」や「市場の流れが変わったから」など決めつけてしまうと、より重要な他の要因見過ごしてしまう可能性もあります。
そのため、変化の要因を因数分解的に1つずつ見ていく必要があります。そこで、「3C」を使用し、頭の中を整理しながら順に見ていくことで、漏れを最小化できます。
3C を使った具体的な分析方法を説明します。
成果へ大きく影響を与える要因は「市場・顧客」と「競合」、「自社」の順だと、ある程度広告運用の経験がある人なら分かっていることでしょう。しかし、「市場・顧客」の動きは1番コントロールしにくいため、真っ先に成果の変化の要因として挙げるべきではありません。
まずは、自分たちがコントロールしやすい「自社(お客様)の動き」から分析を始めて、次に「競合の動き」を考えます。そして、自社や競合の動きに問題がない場合に初めて「市場の動き」と見ていく流れがいいでしょう。
広告運用を通じた「成果の維持・良化」が、我々広告運用担当者のミッションです。そのため、改善の可能性が高い問題点から見ていきます。
なお、「3C」以外に、広告運用には「媒体側の動き」も影響します。これについては後述します。
まずは1番コントロールしやすい要因である「自社(お客様)要因」から見ていきます。「自社要因」とは、お客様や我々広告運用担当者が変更したものを指します。
お客様の広告・サイトなどを変更した後、成果が著しく下がった場合はその旨をお伝えし、元に戻す提案をしましょう。元には戻せない理由があれば、変更した箇所を改善できる方法はないか検討すべきです。
自社要因の中で、広告の成果に大きく関わる主なものの例を3つ取り上げます。
他にも、看板や折込チラシなどネット以外の広告を出稿したなどの要因も考えられます。業種などによっても変わります。お客様の業種に合わせて、考えられる要因を挙げましょう。
まず初めに確認したいのが広告の設定変更です。変化があったときに、「新しい媒体や機能を使っていないか」、「コンバージョンの取れているキーワードに予算を寄せていないか」などの確認を最優先にやりましょう。
管理画面の変更履歴などを利用して、変化のあったタイミングと照らし合わせてみましょう。また、設定変更から時間が経った後に、コンバージョンや売上に変化が出る商品・サービスもあるということも考慮しましょう。
予算の変更は広告の設定にも関連しますが、少し特殊なため、あえてわけて説明します。
予算を変更した場合は、成果に変化があった場合はもちろん、変化がなかった場合にも問題となります。予算を抑えれば成果は落ち、増やせば成果は上がります。しかし、そうならない場合には、何か別の要因を見落としている可能性が考えられます。別の観点からも考えてみましょう。
また、広告予算と成果の関係には広く一般的に知られた2つの特徴があります。それは「広告予算の閾値」と「収獲逓減の法則」です。
広告予算の閾値とは、あまりに少額な広告予算の場合、コンバージョンが獲得できなくなることです。ネット内の広告には競合がひしめき合っています。予算が少なければ、それだけ表示機会が減ってしまうため、コンバージョンを獲得できなくなります。
もちろん、こうした場合にも、出稿地域を絞るなどターゲティングを狭めることでコンバージョンを獲得できる可能性は残っています。しかし、ターゲティングそのままで広告予算を抑制した場合、ある点を境に一気にコンバージョン数が減少します。この傾向を知っておくと、予算増加やターゲティングを狭めるという提案が可能です。
閾値とは逆に、収穫逓減の法則は広告予算を増加していくと効率が悪化するという法則です。閾値を超えてコンバージョンが取れるようになると、最初は確度の高いお客様が多く効率よく集客できる可能性が高いです。
しかし、予算を増額するにつれ、少しずつ確度の高いお客様の割合が減っていきます。そして、ある点を境にコンバージョンが取れなくなり、結果的に広告費だけが伸びるという状況になります。言い換えれば CPA が高騰するのです。
閾値にしろ、収獲逓減にしろ、一気に変化する境目はケースバイケースです。また、時間とともに市場や競合によっても変化します。事前の予測は難しいですが、このような傾向があることを覚えておくだけでも、要因分析のときに役に立つかと思います。
サイト内容を変更すると、獲得できるコンバージョン数にも影響が出ます。成果に動きがあった際に、サイトの変更があったかも確認するといいでしょう。特に商品やサービスの内容自体を変更したり、価格を変更したりした場合には、影響が大きくなるケースもあります。
伝達ミスなどにより、サイト変更を広告運用担当者が把握できていないこともあるかもしれません。お客様のサイトは普段から定期的に確認しておくべきですが、細かいところまでは把握しきれないこともあります。
そんな場合には、サイトの変更履歴を見ることができる Wayback Machine などを利用して、成果に変化が出た時期にサイト内で変更があったかを確認しましょう。
もちろん、「サイトが変更になったために成果が落ちました」と単純に伝えることは避けたいものです。お客様のためを考えるのであれば、変更箇所が成果に及ぼしている影響まできちんと分析し、改善策もセットで伝えることが理想です。
例えば、フォームへのリンクが切れているなど、サイトに単純な不具合が発生している場合もあります。Google Analytics を導入しいれば、変更以前と比べて流入の少ないページがないか確認したり、ヒートマップツールで不自然な導線がないかなど調べて報告しましょう。
自社要因の次に対応しやすいのは「競合要因」です。「競合要因」とは、競合の動きの変化(新規参入や商品の追加や値下げ、広告費追加など)を指します。
競合の動きは、ほとんどコントロールできません。もし資金的な余裕があるお客様であれば、一時的に多額の広告費を投下し競合に諦めさせるという方法もありますが、なかなかうまくいくものではありません。
競合がお客様より強い広告投資をしている場合の現実的な対策法は、競合と異なるターゲティングを試す方法です。また、お客様より競合のほうが低い広告投資の場合でも、多少はコンバージョンが取られている旨を報告し、コンバージョン数の減少加減や CPA の上昇にどこまで耐えられるかをお客様と相談する必要があります。
ここからは、誠意を持った対応するために、広告運用者がおこなうべきことを説明します。
競合要因には、実は2種類あります。既存の競合の動きの変化と新規競合の参入です。
長年広告運用をしている経験上、「新規競合の参入」の方が成果に与える影響は大きいように感じます。新興勢力とはいえ、どんな競合でも多少のコンバージョンを獲得するため、その分のこちらのコンバージョンが減少する傾向にあります。
もちろん、「既存の競合の動きの変化」も影響はあります。もしクリック単価に変化がみられた場合は、既存と新規の競合の動きがないか疑ってみましょう。
地味で手間はかかりますが、日頃から重要なキーワードの検索結果画面はチェックしましょう。ディスプレイ系の広告出稿は検索結果画面からは分かりませんが、新規広告出稿や広告費予算を上げる場合、まずは検索連動型広告から手を付けると考えられます。従って、検索結果画面は特に重要です。
また、Google 広告の場合、「オークション分析」画面で競合の動きをある程度推測できます。時系列で追うと、広告投資を強化した競合や新規出稿開始した競合などのドメインが見えてきます。
自然検索順位(オーガニック順位)の変化も大きく成果に影響します。同じようなセグメントをターゲットにしている競合の自然検索順位の変動も大きく成果に影響してきます。
「広告運用担当者だから SEO に関することはノータッチ」と決めつけずに、広告に関する検索結果画面をチェックするときに、自然検索順位も確認しておきましょう。特に Google のコアアルゴリズムアップデートが公開されたときは要注意です。
また、自然検索順位の変動の確認には Google のサーチコンソールで確認もできます。さらに Google Analytics を利用して、自然検索からのサイト流入が減少していないかなどもチェックするといいでしょう。
昨今の検索連動型広告において、自社固有名詞(指名キーワード)の取り扱いは非常に重要です。一般的なキーワードで検索したユーザーが後に、自社名などの固有名詞を認識し、再度その固有名詞で検索することが多くなるためです。
競合が自社の指名キーワードに広告を表示してきた場合、コンバージョンを取られてしまう可能性があります。コンバージョン数が減少した場合、自社の指名キーワードの検索結果画面を確認する必要があります。
一般的に考えても、市場要因による変化は1番影響が強く、また頻度も多いと思います。そのために安直に「市場の停滞が原因です」とお客様に伝えてしまいがちですが、これは危険です。
今まで説明してきたように、自社要因と競合要因も成果の影響として考えられます。まずはこれらを1つずつ確認し、それでも原因が分からない場合に初めて市場・顧客の動きを考察するのがいいでしょう。
ここからは、自社や競合要因を調べても原因が分からないときに、見るべき市場・顧客要因のポイントを伝えます。
私たち広告運用担当者にとって、市場の中で1番関与度が高いのが媒体要因です。インターネット広告は、媒体システムの変更に大きく影響を受けます。例えば、広告配信システムや、自然検索順位を決定するアルゴリズムなどです。そこで、媒体要因に焦点を当てて説明します。
成果に変化が出た時、まずは成果の変化と同時期に媒体の広告配信システムに変更があったかを確認します。広告配信システムの新機能公開やメンテナンスの後などは、広告表示の傾向が変化する場合があるためです。
新機能公開やメンテナンス以外にも、管理画面にログインできないなどのトラブルが発生した後も要注意です。トラブルの発表は媒体からのアナウンスがない場合も多いですが、Twitter などの SNS で情報収集すると、同じ問題を抱えたユーザーのリアルタイムでの情報が出てくることがあるのでおすすめです。
検索連動型広告の場合、キーワードごとの表示割合に変化が生じる場合があります。今までコンバージョンを取れていた重要なキーワードが、媒体の機能やシステムの変更によって、広告の表示が抑えられてしまうこともあるからです。
成果に変化があった時には、主要なキーワードの表示回数やクリック数の推移を確認しましょう。検索語句(検索クエリー)ベースで確認する必要があります。
自動入札が推奨される時代になり、キーワード単位(検索語句単位)での調整はなかなか難しいかもしれませんが、できる限り成果がよかった状態に各キーワードの表示状態を近づける調整が必要です。
また、ディスプレイ広告の場合は、広告が表示されているプレースメントの内容に変化がないかを確認します。過去にコンバージョンが取れていたドメインへの広告表示が減少していたり、効果の薄いドメインへの広告表示が増えていたりすることもあります。
扱っている商品やサービスによっては、季節や月による変動も大きく影響してきます。例えばアイスクリームは当然夏に売れ、引越しは年明けから3月までの間にコンバージョンが極端に増えます。
ユーザー(顧客)側の需要で変動するものもあれば、供給側の理由で変動するものもあります。例えば、基本的な収穫時期が決まってる果物などは、季節によって売上は変動します。
さらに、市場に浸透したイベントなどによる変動もあります。「母の日」や「父の日」などがわかりやすい例かもしれません。また「土用のうなぎ」なども顕著な例です。
このような、期間によって変動の傾向があるかは、お客様の方が詳しいことが多いです。事前に伺っておきましょう。「何月と何月は売上が伸びる」など、もっと具体的に知っている場合もあります。
期間変動以外にも、より短期的な「天候」や「気温」による変動もあります。雨が続いたり、暑い日が続いたりするだけでも、成果は変化することが多くあります。
コンバージョン数と天候や気温の過去の事例を確認すると、強い相関関係がある商品やサービスもあります。事前に把握していると、天候や気温による成果の落ち込みも慌てる必要がなくなります。
また、甚大な災害が発生した場合には、早めにクライアントさんと相談の上、広告の一時停止なども含めた対策を取る必要があります。
市場要因となりうる事象は多種多様で日々発生します。そのため、常日頃からさまざまなニュースに触れておく必要があります。
お客様の業種に直接関係なくても世間的に注目されているニュースがある場合は、そちらに意識がいくために、コンバージョンが減少するということもあります。
世間一般のニュースの情報源は、テレビや新聞などがいいでしょう。SNS は各ユーザーに最適化されているので表示される内容に偏りが出てしまうことがあります。ネット内で言えば、Yahoo! ニュースなども網羅性が高くおすすめです。ただ、1つのメディアに偏ることなく、複数の情報源を参照する方がよいでしょう。
ポイントは、ざっとニュースを見渡した後に、お客様の業種に関わるものがあれば内容を細かく見ていくという方法です。1日10分程度、普段から意識して時間を作る習慣をつけておくといいでしょう。
成果の変化には本当にさまざまな要因が考えられます。これらの要因を分析する際に「3C」で切り分けて考えることで、混乱なくスムーズな分析ができます。
この記事で挙げたもの以外にも、成果の変化の要因となりうるものはまだまだあります。商品、サービス特有の理由もあります。そのような要因となる要素を「3C」で分類して、独自の分析フローを構築してください。
広告運用のヒントは、管理画面の外にも山のようにあります。常にいろいろなものに興味を持って、日々変化する成果に対応できるようになりましょう。私も皆さんに負けないよう、アンテナをどんどん張って情報を得ていきます。
広告運用 コンサルタント
慶應義塾大学経済学部卒業。2008年からキーワードマーケティングに在籍、 以降10年以上、広告運用に携わる。離脱率の低さに定評があり2008年から 運用を続けているクライアントも多い。趣味は音楽、楽器演奏。依頼を受けて プロのバックを務めることもある。愛知県犬山市出身。
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